幕間 稀石 結愛①
私、稀石結愛にとっての原点は何かと言えば、おねえちゃん、稀石 しるべだろうと思う。
なんでそう思うのかと言えば答えは簡単だよ、だって子供の時の私の世界はほとんどが両親と病院そしておねえちゃんだったのだから。
両親は基本的にお仕事に行っていたし、体が弱かったのもあって私の行動範囲はとても狭かった。
その時の私にとって世界って、家族と病院くらいしかなかった、なんとも寂しいものだけど本当の事だから仕方がない、その中で私にとっての特別がおねえちゃんだった。世界の中心はおねえちゃんだと本気で子供のころは思ってた。
…まぁ私にとっての世界の中心は今でもおねえちゃんなんだけどね。
おねえちゃん、稀石 しるべ、私よりも8歳上のおねえちゃん、背中ほどの長い黒髪をストレートにして目元はちょっとキツめのかわいいというよりは少々かっこいい系に見える、すらっとしててスタイルは良い、私に笑顔を向けてくるときはギャップも相まってかなりの破壊力を誇る。
そして頭が良くて料理もできる、何でもできる自慢のおねえちゃんだ。
そんなおねえちゃんと過ごしていたある日、私はいつものように病院に入院していた、もう慣れっこだったし、検査が嫌だなーと思うくらいで特に変わり映えのない日々。
当時の私は、そこまで病気について深刻には考えてなかった。発作の時は辛くてやだなーくらいに思っていたのだが、実際には運が悪いと命すら落とす可能性もあったと後になって知ったのだけど…まぁ今は完治してるから問題ないんだけどね。
おねえちゃんは私が退屈しないようにいろいろなものを持ってきたり見せてくれたりした。
トランプ、お人形、ゲーム、端末で動画を一緒に見たり、おねえちゃんと一緒だったらどこでも退屈しなかった。苦しい時だっておねえちゃんがそばにいれば安心できたし、何とかなる気がしていた。
☆ ☆ ☆
そんなある日の事、私はおねえちゃんは私に一つの動画を見せてくれた、画面に映るのはアイドル時代の優美ちゃん、可愛くて綺麗で、何よりもその表情はキラキラしてた。
私はきれいなものが好きだ、アクセサリーとか、そして…人の心。
画面に映る優美ちゃんはとてもきれいだった、ダンスも歌声も、そして自信に満ちたその表情も。
私は自分に自信がなかった、おねえちゃんみたいに頭もよくない、家事も下手、運動なんてした日には倒れる危険性すらあった。
そんな私にとって画面に映るキラキラしたものは私にとって、とても眩しいものに映った、羨ましいとも思ったかな。
ファンの皆の歓声、降られるサイリウム、皆画面の中の優美ちゃんを応援してる、すごいな、私を応援してくれるのは家族やおねえちゃんだけ。
…今思えばこの頃の自分浅ましいなぁと思う、だってこの頃の私は何の努力もせず優美ちゃんの事を羨んでいた、たとえ病弱であったことを差し引いてもね。
羨ましい、私もキラキラしてみたい、この時の私が考えていたのはこんな感じの事だったと思う、そう、そしてこの後に出てる言葉が。
「ねぇ、おねえちゃん、結愛もあんなふうにキラキラできるかな?元気になったらこの人みたいになれるかなぁ?」
本当に恥ずかしいなぁ…現実を知らなすぎる、無知って怖いなって本気で思った、その後のおねえちゃんの返事もなんというか結構適当だった気がする。子供のいう事だと思ってたんだろうなぁ…。
それから、徐々に体を治す努力を始めた、ここで本当に驚いたことは、健康改善の為に始めた体力作りのメニュー、これを考えたのはおねえちゃんだったのだけど。
これ以上ないくらい私にぴったりだったんだ、ゲームに例えるとおねえちゃんのメニューをこなすとHPが1~2くらいになるけど絶対に0になることはない。こんな感じだった。
そして、くじけかけたときにおねえちゃんの顔を見れば、まだやれるって元気が湧いてくる、諦めるな、頑張れって言ってくれている気がする。それだけを支えにして、私の体調は快調に向かっていった。
正直感動したよ100メートル走っても倒れない、日常生活で苦しくなることがほとんど無くなった、数年後には病院から完治したといわれて定期健診以外に通わなくても大丈夫と言われた。
これだけでもやった価値はあったと思う、日常生活が苦もなくこなせるようになった、誰かの助けを必要とすることがほぼなくなった、それで私が思ったことは…もう少しでアイドルになれる、という希望だった。
身体が治ったことで私はさらにアイドルへの想いを強くした。
アイドルになるっていう決意が私を強くした、そうアイドルへの”夢”だ。
そう”ユメ”、私の名前と同じ読み方、おねえちゃんと優美ちゃんがくれたアイドルという希望、その為に私は努力を始めた。
私にとっての夢の形である優美ちゃん、私にとってのアイドルの先生は彼女だ。
アイドルの理想形を彼女として、彼女のライブ映像を録画して何度も見た。
初めはダンスの真似をしても身体が付いていかず思い通りの動きが出来なかったけど、少しずつ優美ちゃんのパフォーマンスを再現していった。
それを繰り返していたら映像や自分の目で見たものを自分で出力できるようになった、もちろん身体能力もそれだけ必要だけれど、健康的になってきた私なら何も問題にはならなかったんだよね。
そう、それで勘違いした、自分は大したことないって思ってたから、自分がそこまで才能があるとは考えてなかった。
それが後になって問題を起こすことになるとは思わなかったけど…今はそれは良いかな。
そして1回見れば大体理解して再現できるようになってきた頃、私はおねえちゃんに優美ちゃんのライブを再現したものを見せたんだ。
―――その時の事今でも忘れられない。
おねえちゃんが私を見る瞳、その瞳がいつもと違った、すごい熱量を感じたんだ、その瞳を見て私が感じたのは。
―――ゾクゾクと背中に走る電流の様な快感だったんだ。
人生で初めて私は快感を感じた、初めての感覚なのに怖くはなかった、それを与えてくれたのがおねえちゃんだったからだろうね。
アイドルになったらおねえちゃんは私をもっとこの瞳で見てくれるかな?とか考えてた、それぐらいすごい感覚だった。
それからしばらくして、おねえちゃんはそれまで以上にアイドルを目指す私に協力してくれた、自分のやることが終わると他の時間は私に使ってくれるようになったの、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちにはなったけど、おねえちゃん一緒にいる時間が増えたからちょっと嬉しかった。
そんな日々が続いて私が15歳になって数か月、とあるオーディションに私は向かっていたんだ、おねえちゃんは大丈夫だよ、結愛なら合格できるって応援してくれた。
夢にもう少しのところまで来てた、だから私は思い残すことがないよう全力で今までの自分の努力を見せた。
―――そして―――。
―――私は、”ユメ”をその手に掴んだ。
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