第32話 黒曜と引っ越し後配信
なんというかとんとん拍子であたしの引っ越しが決まってからおよそ3日、あっという間にあたしの引っ越しが実行され、現在あたしはルームメイトとなった神目のぞみの家にいる。
高天原にはご用達の引っ越し業者がいるようで話が行ってすぐに引っ越しの準備が始まった。
引っ越し前日にはしるべさんが手伝ってくれて、そもそもあまり荷物が多くないあたしにとってはそう時間も関わらず引っ越しの準備が終わってしまった。
もうちょっとかかると思っていたのだが、準備が完全に終わっていて色々と手続きをしてくれる相手が間にいると、かなりスムーズに進むのだなぁと思ったものだ。
引っ越しは元々しようと思っていたので今回の話は渡りに船だった、本来は物件探しから始まっていただろうから正直期間がかなり短縮されたのはこちらとしてもかなりありがたい。
でもまさかルームシェア、しかも提案してくれたのがのぞみだなんてかなり驚いた、あの子の過去を聞いた上で想い人以外の他人と一緒に暮らすことを考えるなんて…と思っていたんだけど、よくよく考えたら結愛としるべさんと一緒に暮らしているようなものじゃないかと思い、あの二人と一緒にいるうちに丸くなったんだろうなぁと思うと笑いが漏れてしまう。
「取り合えず荷物は運び終わりましたけれど…本当にあれだけでよかったのですか?最低限のものしかないようにお見受けしましたけれど…。」
声をかけられた方向を向くとそこにはここの家主でありこれから共に過ごすことになる相棒の神目のぞみがいた。
「うん、必要な物はあるし、ごちゃごちゃするより必要になったら買いに行けばいい、物が少ないせいであっさり引っ越しも終わったしね。」
それはそうですけれど、と色々と腑に落ちない様子ののぞみ、いやごめん、あたし女子力よりも機能性選んじゃうタイプの女なんだ、それでよくアイドルやってたなって?うん、私もよくやれたなって思うよ。
「それよりも手伝わせちゃってごめん、必ずお詫びはする。」
「…ここで遠慮するのは逆に気を使わせてしまいますわね。ええ、楽しみにしておきますわ。」
このお嬢さんは中々に人の心を慮ることができる、こちらの考えを読むのが上手いと言うべきか、人の嫌がることや行為を無為にすることを避ける傾向にある、しかし、かといっていいように使われるタイプでもなく、言うべきところははっきりと言ってくる。
「それで、配信に関してなんだけど、普段のぞみが配信してた防音室、本当にあたしが使っていいの?」
「ええ、わたくしの寝室にも配信環境は付いておりますし、問題はありませんわ。…一般的な寝室というには広めですし。」
これものぞみ自身から聞いた話ではあるんだけど、以前のぞみは他人にかかわることを避けていた時期があったらしく、なるべく人と関わらないよう必要以外では引き籠っていたそうだ、私と一緒に住んで大丈夫かと思ったけど、あなたなら大丈夫と言われたので気にしないでおく。
「さて、引っ越しも済んだし歓迎会は後でやるって言ってたから今日は久しぶりに配信しようかな。」
「あら、今日は配信するのですね。」
そう言うと色々と、以前使っていた機材について聞かれたりしたけど以前使っていたものよりもほぼ高級品だし、事細かにわかりやすく説明してくれるから正直助かった、変なところでポカやらかすとまずいし。
そして、久々の配信かつ引っ越し後のはじめての配信の準備をあたしは始めた。
★ ★ ★
『どうも、ウィラクル2期生、黒曜歩。』
・どうも
・久しぶりって感じだねー
・まぁ他の子より頻度が低いだけで別に久しぶりって程ではないよね
・なんか今日音質が良い気がする?マイク変えた?
・年末カウントダウンライブみました!凄かったです!
『ん、カウントダウンライブ見てくれてありがとう、それなりに頑張ったから褒められると嬉しいね、音質が良いって結構わかるものなの?』
・まぁ普段と違うっていうのは分かる気がする
・割とわかるね
・まぁ黒曜ちゃん普段大きい声じゃないから判断に難しいところではあるけどね
リスナーの皆耳が良いんだなと思いつつ、配信頻度が高くないが故に引っ越しの事を全く話していない事に気付いたのでそれをまず話すことにした。
『あ、いきなりなんだけど、あたし今日引っ越しをしたんだ、それでそのまま配信してる感じなんだ。』
・え?引っ越ししてたの?
・急だね、何かあった?
・一週間前配信してた気がするから一種間掛からず引っ越ししたのか…
・めっちゃスムーズ、これはマネーちゃんの手腕かな?
『マネージャーさんには手伝ってもらった、おかげでかなり早く済んだよ、それと同居人もいるから色々と融通してくれて機材は以前よりもいいもの使ってる。だから音質とかいいのかも。』
・同居人!?
・え?関係者?何も知らない人じゃないよね?
・大丈夫なの?そういうの知られちゃまずい相手とかじゃない?
・配信の事は知らせているだろうし無関係ではないだろ
おっと、先に誰か言っておくべきだったかな、リスナーが少し驚いている様子だしここは安心させるために本人に説明してもらおう。
『ちょっと待ってて。』
そう言ってあたしは、部屋を出てのぞみの部屋をノックする、しばらくするとのぞみが出てきた。
「えっと、配信していたんじゃありませんでした?何か問題でも?」
「ううん、問題は別にないんだけど、同居人について話したから少しプリムラに配信に出て説明して欲しいなって思って。」
のぞみはそれを聞いて成程、と言いながらこれから同居生活で配信に声が乗ってしまう事もあるかもしれないと思い、なら早めに伝えておくのも手ですわね、と言い配信に声を乗せることを了承してくれた。
部屋に戻ると先ほどの相談の手順の通りやることにする、近くにいるのぞみに一つ頷きを返す。
『席を外してごめん、同居人とちょっと相談しててね、声乗せてOKだっていうから説明してもらうね?』
『ごきげんよう、皆様、ウィラクル1期生のプリムラと申します。この度歩さんとルームシェアをすることになりましたので、この場を借りてそれをお伝えしようと思いまして。』
・え
・同居人ってプリムラちゃんだったのか!
・ガチガチの関係者だったw
・あー、プリムラちゃんの配信機材って高価って聞いてたから音質良くなったのも納得
・こういう事なら問題ないな
『突発的にコラボみたいになっちゃってごめん、でもこれから一緒に暮らすから配信に声とか乗っちゃうこともあるかもしれないし、深堀されて変なことになっても困るから先に言うことにした。』
『まぁ…こうなった理由は、事情もあるので詳しくは話せませんが利便性を考えて、という事になりますわ、もちろん歩さんが相手だからOKだという事もあります。』
・プリ歩てぇてぇ
・そうなのか
ガーネットch:私何も聞いてないんだが?マナちゃんとマネちゃん、プリムラちゃんと歩ちゃんが一緒なのに私は一人なんだが?
・草
・2-2-1に分かれてしまったか
・ガーネットドンマイ
別に仲間外れって訳じゃないんだけどな、効率とかいろいろ考えた結果もあるし、あ、でもガーネットさんと一緒に暮らすのは勘弁かも、色々大変そう。
『まぁそういう事でこれからも配信に関しては特に問題はないと思う、寧ろプリムラが傍にいることで色々コラボとかも増えるかもしれない。』
『ふふ、そういう事もこれからあると思いますのでよろしくお願い致しますわ、それではわたくしも今日配信があるので…そろそろ失礼させていただきます。』
・そういえば枠立ってたな
ガーネットch:仲間外れにしないで(T_T)
・了解です!
・同期を奪われる悲しい現実
・ガーネットがこういう役回りが似合うのなんでなんだろう
・またねー
『という訳で、同居人は先輩のプリムラだよ、これで心配は無くなった?』
・むしろこれから楽しみになった
・一緒のコラボも楽しみにしてる!
ガーネットch:私ともコラボして
・ガーネットw
そんなに仲間はずれにしたように感じるんだろうか?コラボがしたいのならいつでも言ってくれて構わないが。
『今の所あたしが一緒にするゲームとかのレパートリーってあまりないんだけど…リングマッスルアドベンチャー耐久やる?』
ガーネットch:休養を思い出した
・草
・休んでんじゃねーよw
・予測変換で最初に出てきたんですね…
・平常運転すぎるw
『む、じゃあゲームとかあまり得意じゃないけどなんか案出して欲しい、そしたら一緒にやろう。そうすれば仲間外れじゃないよ、ガーネットさん。』
ガーネットch:やさしいせかい
・やさいせいかつ
・よかったなガーネット
・年下に気を使われてんぞ
思わずクスリと笑ってしまう、リスナーとこういう風なやり取りできるのは本当にガーネットさんは凄いと思う、あたしには真似できないことだ。
『それじゃ今日はこれから配信でやって欲しいゲームとか言って欲しい、絶対やるとは言えないしゲーム上手くないから見ていて面白いかはわからないけど。』
・やってくれるだけで嬉しいからええんやで
・これから配信頻度増えますか?
・今はほぼ週1くらいのペースか
・無理はしないでいいからね
正直引っ越したことでだいぶ余裕が出来たからこれ粗配信頻度を増やすのは問題ない、まぁのぞみに迷惑をかけない程度だけど。
『うん、たぶんこれから配信頻度は増えると思う、余裕も出来たからね。』
そういうとコメント欄は賑やかになる、少しだけこれからの事を楽しみに思える自分がいた。
リスナーたちと未来の事について語り合いながら、引っ越し後の配信を気持ち軽くなった気持ちで行っていった。
『いろんな案が出たね、この中からあたしが興味を持ったものをやっていく事にするから、それじゃ今日はそろそろ配信を終わるね、またね。』
・おつかれー
・何やってくれるか楽しみだ
・おつー
配信を終わらせるとこれから配信で決めたことをやらないとな、と思い先ほど出た案をしるべさんに伝えないと。
思った以上にあたしも配信者を楽しんでるのかもしれない、そう思いながらあたしはしるべさんに連絡するのだった。
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