番外編 極めて近く、そして遠い白昼夢 ー推しと俺とー
ホワイトデー企画小説です。性転換要素があるので苦手な人はスルー推奨、本編とは全く関係がありません。しるべに好意を持っている人物のみ対象になるため、のぞみの話はありません。
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これはもしもの世界。
限りなく同じではあるけれど何かが違う、歯車が違った世界。
もしも彼女が彼だったなら。
これはそうした一つの可能性の世界の話。
☆ ☆ ☆
国陽 舞の場合
今日もいつものようにレッスンの為、高天原のスタジオに向かう。
最近配信に力を入れ気味なせいか若干身体がなまっている気がするから今日は力を入れて頑張ろうと思う。
そんな感じで今日もボイトレ、ダンス、他トレーニング器具を使った筋トレなどを行い身体を鍛えぬいていく。
まぁ予想通り、別に体力が落ちたわけでも動きが鈍くなったわけでもない、いつも通りの結果になった。まぁそうだよね。
今日は念入りにトレーニングを行った結果時間が少々遅くなってしまった。シャワー室で汗を流し着替えのために持ってきた服に着替える。そしてトレーニングルームから出て事務所にトレーニングルームの使用が終わったことを連絡しに行くと見慣れた人の姿があった。
「舞さん、今日もお疲れ様。」
そう笑顔を向けてくるのは、友人の兄にして私が所属するウィラクルボックスの総括マネージャー。
聞けば結愛がアイドルになるまでは彼が結愛のトレーニング、栄養管理などすべてサポートしていて、現在も傍で結愛を支えている。彼無しではアイドルユメもゆめのマナも存在しなかったであろうとは結愛の談。
…あたしも彼に悩みの相談に乗ったりしてもらっていて、とっても頼りになる男の人だと言うのは理解している。あくまでマネージャーとして、友人の兄としての評価だ。
「はい、今日もありがとうございました。これから帰る予定なので連絡しようと思って。」
つい義務的に返答してしまう、どうもあたしはどこか無愛想なところがある。一応アイドルとしてやっているときは表情を作ることは出来るが、いつもは若干仏頂面になりがちだ。
「わかった、俺ももう少ししたら仕事終わるし一緒に帰ろうか、近いとは言っても女の子一人をこんな時間に歩かせるのは心配だしね。」
そういってすぐ終わるから待ってて、と言ってペットボトルのお茶を渡してくれた。さらりとこういう発言をする所があるこの人はとても女性にもてそうだ。
その後本当に数分で仕事を終わらせ帰宅準備を行っている最中こちらを見たしるべさんが口を開いた。
「舞さん今日は若干疲れてる?いつもより動きが強張っている感じがするけど。」
そう言われて初めていつもより体に疲れが溜まっていることに気が付いた。自分で気付けないレベルだったのにしるべさんは気付いたんだ、この人の観察眼には本当に驚く。
「…簡単なマッサージでもしようか?…って女の子にそう言うこと言うのはセクハラかな、ごめん聞かなかったことにして。」
そう言いながら苦笑するしるべさん、そういえば前に結愛がおにいちゃんのマッサージはチート級だよ!翌日に疲れが完全に残らない最強回復魔法レベルだよ!って言ってた気がする。
…別にそういう気持ちで提案してきたわけじゃないし、ちょっとだけ興味もある。それにしるべさんの事は信頼している、だから私は施術をお願いすることにした。
「…翌日疲れを残すのも好ましくないですし…。少しだけお願いします。」
「…わかった、ここじゃあ狭いし応接室に広いソファーがあるからそこでしようか。」
そう言って応接室に向かい、あたしは応接室のソファーに体を横たえる。そうして準備を終えたしるべさんの施術が始まったのだけど。
「…んんっ…ふっ…あっ…。」
思った以上に予想以上に痛気持ちがいい、というかこれ…まずいかもしれない。
「どうかな?舞さん痛すぎない?丁度いいように調整はしているけど…。」
「…は…い、と…ても気持ちいい…です。」
思わずもっと、って口に出しそうになるレベル、正直嵌ってしまいそう…これを毎日してもらってたのか結愛は、凄い羨ましい。
そうして身体のあちこちに触れられ、解されていく身体、気持ち良すぎて我慢できず漏れる声、なんというか…マッサージなのになぜか背徳感が凄い。
その後しばらくして、マッサージが終わると、驚くほど体が軽くなっているのが分かった。ええ…、と思うほど快調だ。
「とりあえずはこんな感じ、…うん調子が良くなってるみたいでよかった。それじゃ、一緒に帰ろうか。あ、後これ。」
そう言われて渡されるチョコレート、疲れた体には糖分が良いからね。と言いながら差し出されるそれをあたしは受け取る。
「はい、しるべさん、ありがとうございます。ん…甘い、おいしいですね。」
…隣に頼りになる男性がいるという安心感、そして、理由も分からず高揚するこの気持ち。
不思議な気持ちを抱きながらあたしとしるべさんは家路についた。
☆ ☆ ☆
鐘都 優美の場合
…い。
おい…ろ…美。
微睡む世界の中で声が聞こえる。私の好きな声、安心する声。
夢かな…?夢ならもうちょっと聞いていたいと思いながら私は微睡みに身を委ねる。
おい、起きろ!…美!
…?夢じゃない?それじゃもしかして目を開ければそこには。
「寝すぎだ!何時だと思ってるんだよ、まったく…早く起きろ!優美!」
私のだいすきなひとの顔があった。
「…?おはよう…。」
「おはよう、じゃない。今日は撮影があるからさっさと準備しろ。朝食の準備は出来てるから。」
そう言いながらてきぱきと着替えの準備をしてさっさと部屋を出ていく彼は人気ミュージシャンGarnetこと鐘都優美の専属マネージャーの稀石しるべ。
嫌なことは押し付けてこない、雑に扱われているように見えて気配りも出来るし何より一緒にいて気が楽、もはや相棒と言って差し支えのない存在だ。
いつまでもぼーっとしていると流石に彼に怒られてしまうので、もそもそと顔を洗い服を着替え身支度を整える。
それが終わるとリビングに向かい、並べてある料理を見ると顔が綻ぶ、彼が私の為に作ってくれた料理。
「一応まだ余裕はあるけど早めに現地に向かいたいから、食べたらすぐ出るぞ、忘れ物はないな?」
そう言いながら1から10まで私の面倒を見てくれる相棒、うーん彼無しじゃもういられないんじゃないかな、このダメ人間製造機が。
「ん…わふぇもんむぐだいおーう(忘れ物、大丈夫)。」
「飲み込んでから喋れよ…大丈夫ならいいか、今日は早く終わったら自由時間だけど何かしたいことあるか?」
え?何かしたい事って…一緒にデート…っていう訳じゃないよね、あはは。
「んー…日用品で買いたいものあるからちょっと荷物持ちとして付き合ってくれたりとかは…。」
ちらりと彼に目線を送りながらそう言うと彼は溜息を付きながら、マネージャー仕事じゃないだろそれ…と言いながらも了承してくれる。
うん!買い物デートの約束をうまく取り付けられた!私ってば策士だねぇと思いながら、それを実現するためにも今日の仕事はさっさと終わらせないと。
おいしい食事を終えて、久々に私は最高の気分で仕事の現場に向かった。
☆ ☆ ☆
「ふーっ、私だって本気だしゃこんなもんよ!」
どうだ!と我ながら中々に自慢の胸をふふんとそらし、しるべにドヤ顔を向ける。
それに対ししるべはあーはいはい、といった様子で。
「いつもこうだとこっちも気が楽なんだけどな、優美もなかなか気分屋で気が休まらないよ。」
そんなことを言ってくる、なによ、飽きる余裕ないくらい振り回してやるんだからこいつめ。
「ふん、だったら次はだらだらとやってやるわ、私は気分屋だからねっ。」
「わかったわかった…降参だ、折角時間に余裕あるんだから今日は楽しもう。」
そう言いながら私の隣を歩き車へ向かう私達、本当にさり気無く車道側を歩く所にこういう事を無意識にやる所がモテるだろうなと思う。
そう言いながら車での移動中は特に何でもない適当な話をしながら目的地に向かう。まぁ別に遠出するわけでもなく地元のデパートまで向かい一緒に買い物することにした。
いろいろと日用品を買いながら色々しるべにこういう小物とかどうよとか聞くと意外にもしるべは事細かく色々教えてくれる、それどころが化粧品の事やらも教えてくれるので、こいつ私より女子力あるんじゃね…?と戦慄することもしばしば。
という訳で漫画であるある、デートで女性下着用品店である。折角だししるべの好みのものを買ってやろうじゃないか。おどおどするしるべの姿を見れるかな?
…と思っていたのだが…意外とあっさりしている上動揺もしないまま堂々と私に向かってこういうのはどう?などと聞いてくる始末。え?男の人ってこういうの動揺するんじゃないの?
「…普通さ、男ってこういうところ気まずいんじゃないの?メチャクチャ気にしてない感じだけど。」
「ん?ああ、こういうところ結愛、妹に連れてかれるからな、本人にこういうのどう?とかお兄ちゃんはどんなのが好き?なんて聞かれるの割と普通だし。」
ええ…妹ちゃんに先越されてるってか…というかしるべもシスコンなのは知ってたけどこれ、妹ちゃんの方がもしかして…。
いやいや、今は私とデート中なのだ、そんなことはどうでもいい、今は自分が楽しむ時間なんだから。
「じゃあさー、私に似合いそうなの見繕ってよー、しるべの好みだっていいよ?着てあげるよー?」
そう言って彼氏の選んだ下着を着るみたいなことを考えると少し顔が赤くなる、私だってそういう事は恥ずかしいものは恥ずかしい。
「俺に選ばせるのか…。」
そう言いながらしるべは私の顔をじっと見つめてくる、え?なに?なんで見つめてくるの?
しばらく顔を見てきたと思ったらくるりと背中を向けてあれこれと商品を物色しに行った。え?なんだったの?
戻ってきたしるべは何着か下着を持ってきた。思ったよりかわいらしい、私の年齢的にどうなんだと思うものだったんだけど。
「優美は実年齢よりだいぶ若く見えるし、アイドルやってたのもよくわかるって思うほどにはかわいらしい顔立ちをしてるからな、個人的にこういうのが似合うと俺は思ってる。」
っ―――――!!こいつ!本当にこいつは堂々とこんなっ…はぁ。
勝てないなーと思いつつこいつ好みの私になってやろうじゃない、と思いながら私は渡されたそれを購入することにした。
結局、買い物でしるべを動揺させることも出来ず家に帰ることになった。
☆ ☆ ☆
家の前まで車で送られると私の心は残念な気持ちでいっぱいになった。
本当にしるべと恋人だったならいつでもこういう風に出かけられるのかな?なんて私らしくないことを考える。
「優美?着いたぞ?」
到着したのに車から出ない私の事が気になったのか声をかけてくるしるべ、私ばっかりこういう気持ちになってむかつく。
―――少しぐらい。
私は少しうつむいていた顔を上げしるべの方に顔を向ける。
彼が心配したかのような顔をこちらに向ける、そんな彼の頬を両手で挟み私は彼に顔を近づける。
そう、私のそれと彼のそれを近づけさせ、触れる―――。
「いっだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
激痛と共に私は目を覚ました。どうやらベッドから落ちたらしい。
そんなことより。
「なんて夢見てんのよ…。」
そもそもなんでしるべが男?っていうか男のしるべに私って…。
「いやいやいやいや、無い無い無い無い、やばい欲求不満なのかな?」
そう思いながら今見た夢を思い浮かべたら。
「しるべ…めっちゃいい男だったなぁ。」
いや、私の夢の中だし理想の男が出てくるのは当然なんだろうけど、でもしるべなら夢の中のしるべみたいなことさらっとやりそうだ。そしてそんな男がいれば私は間違いなく惚れる自信がある。
所詮夢は夢、残念に思いながら私は夢の続きが見れないかと、もう一度布団にもぐりこんだ。
☆ ☆ ☆
稀石 結愛の場合
私のおにいちゃんは最高のおにいちゃんである。
私をかわいがってくれて、アイドルになった私を一番の推しにしてくれる。
私の事を世界一可愛いって言ってくれるちょっとシスコン気味のおにいちゃんだけど、そんなおにいちゃんが私も世界一大好きだ。
子供の時からずっとおにいちゃんは私を見てくれていた。
病気がちだった私を励ますため我儘も聞いてくれたし、私がアイドルになるって言った時も全力で応援してくれた。
その後だって自分が遊ぶ時間も切り捨てて、バイトでためたお金で実家の一室を防音室にしたり、栄養士の勉強やトレーナーの勉強など、私の為に限りある人生の時間の一部を私に割いてくれた。
アイドルじゃなくなってもおにいちゃんは私を見てくれたし、その後だって高天原でVアイドルなんて夢の続きを見せてくれた。
だけどね、おにいちゃん。
本気で私の事を思っていたおにいちゃんには言えないことだけれど。
本当は、Vアイドルとかどうでもよかったの。
それこそ傍にいてくれるならずっと一日中傍にいてもよかった。二人っきりで引っ越して一生暮らしてもよかったかもしれない。
まぁでも、お父さんとお母さんに怪しまれてたから結局のところ引きはがされそうだったし、よりいい結果になったと思うけどね。
Vアイドルの仕事は楽しい、ライバーとして配信するのは楽しい、だけど。
一番はおにいちゃんと一緒にいることだ。
だから私はいつまでも手のかかる妹でいる。おにいちゃんがいないと生きていけない子だと。
いつまでも一緒にいる、だなんて不可能だと分かってる。
いつかおにいちゃんも好きな人と結婚するのかもしれない、そしてそこに私はいられないだろう、その時どうすればいいかなんてわからない。
絶対に祝福できないことは分かる。誰かのものになるおにいちゃんなんて見たくないから。
未来のことなんてわからない、だから精一杯今を生きたいと思う。
だから、だからね?おにいちゃん?
「ただいま、結愛。」
「お帰りなさいっ!おにいちゃん!」
その時が来るまで、どうかあなたを愛させて?
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しるべが男だと結愛がだいぶ大変なことになります。予想以上に重い女になった…。
結愛の話が短いのは思ったより重くなりすぎたため、1から10まで書くと文章量がとんでもなるためです。
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