第43話 金剛と真珠と筏葛


「へぇ…あんた達が3期生ねぇ…ぽやぽやしてそうなのと田舎臭そうなのが、私の同期って訳?ふざけてんの?」


 どうして私達は出会ったばかりの少女…小学生じゃないよね?…少女に罵倒されているのだろうか。


「えっとー…マネージャーさん、この子が?」


「…はい…、あなた達より先に入った3期生の子です。」


 あこやちゃんがちらりと女の子に視線を向けながらしるべさんに尋ねる、しるべさんは溜息をつきながら、予想していた通りの答えを返してきた。


 ええぇ…これは予想外だよ、あこやちゃんと二人でいたときは何とかなりそうだってホッとしてたのにいきなりぶち壊されたような気分。大丈夫かな?本当にやっていけるかな?


「武野原さん、それでは自己紹介をお願いします。」


「武野原 理英(たけのはらりえ)、高1、これからよろしく。」


 恐ろしく最低限の自己紹介だ、前に配信で見た黒曜歩ちゃんの挨拶以上に簡潔ッ!仲良くする気がないっていう気持ちがありありに感じられる…。


 とはいえ、自己紹介されたのならこちらも返さないと!


「えっと、私は大谷茉莉です!同じ年同士仲良くしようね!。」


「茅野あこやですー。理恵さんの1つ上ですね。何かあったら頼ってくれると嬉しいです。」


 そんな感じでうまいこと自己紹介できたと思っていたのだけど。


「あっそ、どうでもいいわ、私の足を引っ張らなければそれでいい。」


 そう冷たく返されてしまった。こんなのどうすればいいのぉ…?


「…自己紹介も済んだようですので今後の予定について説明しますね。まずは―――。」


 流石のしるべさんもこの対応にはどうしようもないのか、今後の予定について義務的に話し出した。


「―――最後に3期生の皆さんには、高天原が後援をしている芸能科がある学校に転入してもらうことになります。一応事前連絡してはありましたが承諾いただけますか?」


 うん、届いた資料にそう書いてあったしそれは問題ない、私進学しなかったし寧ろ学校に通わせてもらえるなら嬉しいくらい。


 全員問題ないのか、承諾の意を返す。どうやらそこで配信者としてのマナーやモラル、その他もろもろについて学ぶらしい他の箱のV候補生もいるとの事。


 へぇー、じゃあ未来のVtuberさんに出会える可能性もあるんだー、そんな子の素顔を知れるなんて得した気分だなぁ…って私自身もそうなんだった…。


 そう言った説明が終わり、3期生としての予定に話が切り替わる。


「先に伝えてありますが、3期生は基本配信活動をメインとしてしばらくの間アイドルとしての活動は致しません。もちろん3人の実力が良い意味で予想を上回った場合、予定より早く活動を始めることはあるかもしれませんが、現状ではしばらく後のことになるでしょう。」


 うん、私達は素人だ、ヘタクソなお遊戯会をやってウィラクルが今まで築き上げたものを無に帰す訳にもいかないし妥当なところだね。


 それに対して武野原さんが不満そうな顔をしたけど、それに対し文句をつけることはなかった。そういうところ一応自覚してるのかな…?


「配信活動においても芸能科で最低限配信活動について学んでからになります。Vtuberはネット関連のモラルや知識を最重要視していますのでそれを怠れば最悪炎上、最悪の場合解雇の可能性もあります。」


 ネット界隈において炎上はかなり恐ろしいものだ、ウィラクルもかつてプリムラちゃんの炎上から始まった歴史があるけどそこから文字通りに這い上がって今ではウィラクルどころが、V界隈でも知名度は上位に位置している。私の最推しでもあります。


 それもかなり特異な事例であり、そう簡単に上手くはいかない、上手くいかないどころが企業勢なら企業にも大ダメージを与えるんだ、だからそれを防止するためにも知識は本当に重要だと思う。


「…それじゃ結局私達は何もしなくていいってこと?じゃあ何の為にウィラクルに入ったのよ。」


 不満たらたらのようだった武野原さんが、しるべさんに文句を言い出した。ちょ、流石に入ったばっかりの新人がそれは…。


「何もしないという訳ではありませんよ、さっき言った通りにまずは座学、そして、将来Vアイドルとして活動する為にアイドルとしてのレッスンも行っていきます。」


「……。」


 何か言いたそうにはしているけど流石に口を噤む武野原さん、ほっ…流石にわかってくれたか…。


 というか何が不満なんだろ、私達なんて今日3期生として入ったばかりだし、いきなり重要な仕事とかやらせてもらえるわけないと思うんだけど…。


「あなた達はまだVアイドルの卵です。しかもまだ孵ってすらいない状態の。仕事に対する貪欲さは評価しますが、今のあなた達が1・2期生と同等の利益を出せるはずもありません。」


 うへぇ…はっきり言うなぁ。当たり前の話なんだけどね。


「ですが、スタートダッシュは間違いなく彼女達と比べて恵まれています。彼女たちが作り上げた土台の上から始まるのですから初めから見てくれる視聴者は多い。」


 そう、あのマナちゃんも初配信では3桁いくかいかないかくらいの視聴者で登録数なんてもっと下だった。そして頑張りが認められて今のウィラクルがあるんだ。


 彼女たちのおかげで私達は下地がある。恵まれた環境からスタートダッシュが出来るんだ。


「そんな視聴者から失望されないよう、その為の努力を今はしていただきたいと思います。」


 そう、しるべさんが言うと部屋の中は静まり返る、う…なんか言う雰囲気じゃなくなった…。


「そうですね。私からはここまでにしましょう、このあとは自由にしていただいて構いませんので、親睦を深めるなりしていただければ。」


 何かあればバックアップは致しますので、と言いながら緊急用の連絡先を全員に渡してしるべさんは去っていった。


「……。」


 …き、気まずい。


 残された私達はというと、何を話せばいいのか分からず黙ってしまう。


「んー…それじゃ、自己紹介はしたし…デビューしたら何かやりたい事とか目標みたいなのってあるかなぁ?」


 空気を呼んであこやちゃんが話題を出してくれた!よし!なら私が続こう!


「えっとですね…あの恐れ多いですが、いずれは憧れのプリムラちゃんとコラボしたいです!」


 私の推しプリムラ・モンステラ、彼女と一緒にコラボできたらどれだけ幸福だろうか、その為に彼女がやっている対人ゲーをダウンロードしたものの、まだまだ実力がお粗末すぎるのが問題だよ…。


「私は…そうだね、大きな舞台とかに立ってみたいかな。ドーム公演とか。」


 あこやちゃん…意外と大きく出たね…というか目標だもんね…目標はどれだけ大きくてもいいのか。


「……。」


 話を振っては見たものの、武野原さんは黙ったままだ、う、うーん…まだまだ好感度が足りないかな…?


 そう思っていたら黙っていた武野原さんが口を開いた。


「私の才能を知らしめるためよ。」


 とそれだけを口に出した。


 …なんというか上から目線感が強いけど要は、認められたいって事なのかな?


「そのために足手纏いはいらないから、無能や邪魔者はいらない、そう思われたくなければそれだけの成果を出して。私の邪魔をしたらはったおすから。」


 それだけ言うと部屋から出ていく武野原さん。


 身長は小さいのに本当に態度が大きい子だ…メスガキって感じがする。ああいう子は意外と配信者として受けるかもしれない。


「えっと…取り合えずどっか寄ってく?」


 取り合えず残ったあこやちゃんに私は提案した。これからの事もお話ししたいし。


 あこやちゃんは苦笑を浮かべながら頷いてくれた。この安心する抱擁力…やっぱりママか…。


 そして私達もそのままウィラクルの事務所を後にした。

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