第44話 金剛と新しい生活
私がウィラクルボックスの3期生に合格してから数日、あれからいろいろなことがあった。
まず住居の変更、実家から芸能学校付属の量に引っ越すことになった。親に芸能学校に通う事になったと言った時にはかなり驚かれたな、高天原から支援が出るからだいぶ学費が安くはなったけど親に相談もせずに色々決めちゃったのは良くなかった。それは反省。
両親としては私が学校に通うのは賛成のようで、問題があるとすれば寮生活になること、ぐうたら娘がちゃんと一人で世活出来るのか、という事らしいのだが。
それについては問題ない、隣の部屋があこやちゃんだからだ。どうやらあこやちゃんは一人暮らしを元々していたようで、困ったら手を貸すと言ってくれた。優しい。
いやまぁ…隣があこやちゃんという事はそういう事、日常的に関りを増やすために3期生の部屋は近くに配置されている。つまりどういうことかというと。
武野原さんも近くの部屋なんだよね。大丈夫かなぁ。あの時は本当に仲良くなれる未来が見えなかったんだけど…。
親には頼りになる友達が出来たと言ったらホッとしてた。うぐ、一人じゃなんも出来んと思われてるなぁ…いや、まぁ事実か…。
頑張って来いとの激励を受け必要な荷物を持って芸能学校付属の寮へ、土日を使って引っ越しを終え、月曜からは授業の開始となる。
そして、日曜日の夕方私はあこやちゃんのお部屋にお邪魔していた。
「ふぅー…やぁっと引っ越し荷物が片付いたよぉー、慣れない事するのって大変だねえ…。」
「あははー、そうだねぇ。初めてだと混乱することも多いよね。お疲れ様。」
ふわっとした独特の雰囲気をあこやちゃんから感じる、なんというかこれ安心するんだよね。やっぱりあこやちゃん私のママなんじゃ?
「…ねぇ、あこやちゃん。」
「ん?大谷さんどうかした?」
「あ、名字だと硬い感じするから名前でいいよ、茉莉って呼んで?」
「…そうだね、これから同期になって一緒にやっていくんだし名前で呼ばせて貰っちゃおうかな、うん、茉莉さん。」
やっぱり名前呼びの方が良いね、仲良くなったーって感じがしてとっても良き!
そしてさっき言いかけた相談、もあこやちゃんに持ちかけることにする。
「あのね?武野原さんの事…なんだけど…。」
仲良くなれるか、心配だという事だ。こっちから距離を詰めようとしても拒絶される、あちらからは必要最低限しかかかわってこない、あこやちゃんのお部屋にだって誘ったけど反応なし。既読すらつかない。
「今の所難しいと思うよ?何かきっかけがないと仲良くなることも出来ないって思う。完全に拒絶されてるからねー。」
あこやちゃんの方はそんなに焦った様子は見えない、私が考えすぎなのかなぁ?
「私達ってまだお互いの事何も知らないじゃない?だから少しずつ歩み寄るしかないと思う、少しの失敗は取り返せるけど何もしないで解決しないのはプラスにはならない。」
それは確かに、しるべさんも解消できないレベルの不和はアウトだと言っていた。それに…希望的な願いも込められてるけど、武野原さんの事まだ全然知らない、仲良くなれないって決めつけて距離を取れば仲良くなる機会だって無くなっちゃう。
「…うん。少しずつ、武野原さんと仲良くなろう。わからないならわかるようになるまで話せばいいんだもんね。」
そう、だって私達はグループなんだ。3人まとめて一つなんだから。今仲良くなくったって未来に仲良くなってればいいんだ。
「ありがとう、あこやちゃん。相談してよかったー。」
「ふふ、私でよければいくらでも相談してね?」
ママ…ありがとう…。なんてちょっとアホなことを考えながら仲間に恵まれてよかったと思いました。
☆ ☆ ☆
それから数日、大きく日常的な変化もなく3期生合同での初レッスンの日が来た。
「えーっ、私があなた達、ウィラクル3期生のトレーナー…講師を務めさせてもらう稀石結愛です。これからよろしくお願いしますね。」
たまげた、これまたとんでもない美人さんが出てきた。
それにどこかで見たことあるような…?どこでだったっけ?
「え…?…あの…もしかしてフェイムの…ユメさんですか…?」
そうそう、フェイム…え?フェイムって人気アイドルグループじゃなかったっけ?!今はなんかメンバー2人抜けて休止中って聞いたけど。
「あはは、やっぱり知ってる人は分かるよね。うん、元フェイムのセンターユメだよ。ことアイドル業に関しては詳しいから知りたい事があれば何でも聞いて欲しいな。もちろんいろいろ言える範囲でね?」
唇に指を当てながらウインクする結愛さん。なんともアイドルのような仕草の似合う人だなぁ、アイドルだった。
後…稀石…?ってしるべさんの?って事はまさか!
「え?稀石って事はゆめのマナちゃんですか!?」
「うん、Vアイドルのゆめのマナもやらせてもらってます。先輩としてもよろしくね?後輩さん達?」
楽しそうにくすくすと笑うマナさんこと結愛さん。前調べてガーネットさんの素顔も見たことあるけど…神目さんの事と言いウィラクルのライバーって顔面偏差値強くない?素顔でも十分やっていけそうなレベルだよ…。
「よ、よろしくお願いします先輩!あ、えっと…講師さんだから先生…?」
「ふふ、どっちでも好きな呼び方でいいよ?ゆめのマナとだけは人目のある所では呼ばないで欲しいかな。一応ね?」
それはそう、中の人は機密事項なのです。私達も気をつけなきゃ。
「じゃあ先輩って呼ばせてもらいます。よろしくお願いします。結愛先輩。」
「うんっ、よろしく。」
なんとも元気のいい先輩だ、この人がウィラクルの原点…そう思うとなんだかすごい人と知り合いになったんだなぁって気がしてくる。
「…講師は先輩だけなんですか?他にベテランの方とかは?」
それまで口を開かなかった武野原さんが不満そうな表情で結愛先輩に対して口を開く。ちょ…、先輩相手にそれは…。
「私一人だね、大丈夫だよ?こう見えてプリムラちゃんを育てたのは私だし、トレーナーの資格とかも取ってるしね。」
ふえー、若いのに凄いなぁそんなに年も変わらなく見えるのに。やっぱり出来る人は出来るって事だねえ。
「不満かな?でもね、一応アイドル業界のTOPに立ったことあるし、実績はあるよ?」
そう言うと武野原さんは黙ってしまった。不満はあるけど実績があるから何も言えないのかな。
「取り合えず今日は指定した通りの事をしてもらおうかな、3期生はグループだからお互いに足並みをそろえることが必要になってくるし、先に入ってきた武野原さんは先に渡してあった教本を呼んで予習はしてるみたいだけど。」
あ、そうか、武野原さんは私達より先に合格したから予習が出来てたんだね。
それから私達は教本と結愛先輩の指示通りに柔軟運動から、ダンスのように体を動かしたり、歌を歌ったりをした。
それを見た結愛先輩はふんふんと頷きなるほどと納得したような声を出す、そして私達に対してちょっと聞いてくれるかな?と言った。
「まぁ、予想通りかな?武野原さんは予習が出来てる、ちゃんと教本通りに練習で来てるね。いい感じかな。茅野さんは元々歌ったりしてた感じがするね。声の出し方とかが上手、ダンスとかはこれから覚えて行けば大丈夫だよ。最後に大谷さんは…。」
どうやら二人とも妥協点は貰えたようだ。そして私の評価は…どうだ…?
「……ふふ…要、練習。だね?」
ですよねぇ!
その後、私達は時間の許す限り練習をさせられることになった。
最終的には初めは余裕そうだった武野原さんが膝をつくまで。どうやら私の尊敬する稀石結愛という先輩は、あのかわいらしいキラキラしたアイドルスマイルでこちらを追い込んでくる鬼教官だったようだ。
その日の夜、私達はヘロヘロになりながら部屋に戻る。何とか食事をとりお風呂に入り汗を流した後、布団に倒れこみそのまま熟睡するのであった。
小さく鳴った通知に気付かないまま。
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