幕間 神目 のぞみ①

この話は、神目のぞみの過去話です。直近の話につながりはないのでスルーしてもOKです。若干残酷な描写があります。

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 わたくしの出生は恵まれておりました。

 

 裕福な家に生まれ、お仕事が忙しく家を空けがちではありましたが、家ではとても頼りになる父。

 

 マナーなどの教育には厳しくありましたが、美しく優しく、少々おせっかい好きな母。

 

 文武両道で両親のいいところを受け継ぎ、周りの大人たちもこれでこの家は安泰だと、言われる誇らしくわたくしを甘やかしてくれるわたくしより5つ年上の優しい兄。

 

 そして甘えん坊で、ちょっと我儘で、家族以外には少々人見知りのわたくし。


 幸せ、だったのでしょう、それが当たり前の日常でそれを享受していく人生が普通だった。

 だからわからなかった、当たり前の日常とは唐突にたやすく消え去ってしまうという事が、その時まだ幼かったわたくしには理解できなかったのです。


 ☆ ☆ ☆


「お兄様!今日もお勉強なの?わたくし、たまにはお兄様とお出かけしたいわ!」


 わたくしは麗明院希望!きぼうとかいてのぞみと読みますの!そんなわたくしは今、大好きなお兄様におねだりしている真っ最中です!


「うーん、ごめんね?希望、一緒に行ってあげたいんだけど、今度学院で特別な試験があってね、それに合格すれば、たくさん時間が取れるし、その後なら一緒に行ってあげるから。」


 むぅ…お兄様は試験で忙しいらしい、本当は一緒にお出かけしたりしたいけど、お兄様に嫌われたくはないのでわたくし我慢することにします。

 それならばとわたくしもお勉強することにしましたわ、今日の3時にお歌の習い事がございますので、その予習をすることにしましたの。

 お歌のお勉強は好きです。上手に歌えると皆が褒めてくれるから、だからお歌の練習をしていましたわ。


 その日の夕方、その日もお歌の先生に褒められて嬉しくて胸がポカポカしておりましたの、ですけど帰ってきたお父様が何故か暗い顔をしておりました。

 お母様はそんなお父様とお話をすると、お母様も驚いた顔をしました。

 お父様が使用人の方にお兄様を呼んでくるように言うと、お母様はお話があるからここにいるようにと言いましたわ。


 使用人に呼ばれたお兄様が現れると、お父様は座りなさいと言って椅子に座るように言いました。


「武、希望、大事な話があるからよく聞いてくれ……どうやら先日、私の父、二人にとってはおじいさんかな、今年の初めにあいさつしたろう?そのおじいさんが亡くなったようでね。お葬式をしなくちゃならなくなったんだ、それで明後日から2日間出かけないといけないんだが…。」


 そう言ってお父様が申し訳なさそうにこちら側を見る、わたくしは学校があるけれどお休みすれば大丈夫です。

 わたくしがそういうと今度はお兄様が。


「すみません、父さん、その日から3日間学院の”会”の試験があって…僕はいけないかも知れません…。」


「む…そうか、それは大事な試験だし、抜ける訳にはいかんか…わかった。俺と母さんと希望の3人で行くことにする。その間の世話は使用人に頼んでいくから、留守を頼むぞ?」


 どうやらお兄様は一緒に行けないようでした、わたくしたちが出かけている間お兄様は家でお留守番をすることになったのです。

 お父様はお兄様に頑張るんだぞ、というと優しく頭を撫でます。

 わたくしも羨ましくなり、お父様に頭を撫でるようにおねだりをしました。

 お父様は、苦笑しながらもわたくしの頭も撫でてくれました。


 身内の不幸がありながらも、わたくし達は幸せでした。


 ☆ ☆ ☆


 お葬式の当日、お兄様を除いたわたくしたち家族3人がそれなりに距離がある祭儀上に向かいました。

 その際議場でわたくしが見たものは、以前であった時よりやせ細ったおじいさまの姿でした。

 今年初めに会ったばかりだったのにこんなにも変わってしまうなんてと、わたくしは驚きでいっぱいでしたわ。

 そのことに少しだけ怖くなりわたくしは傍にいたお母様にしがみついてしましました。


 お母様はそんなわたくしの頭を優しく撫でながら大丈夫よと言ってわたくしを安心させて下さいました。


「希望、お爺様にお別れを言ってあげて?」


 その言葉を聞いたわたくしは、しがみついていたお母さまから離れ、永遠の眠りについたおじいさまにのお顔を見ながらわたくしは。


「どうか、お先に天国に行ったおばあさまと仲良く一緒にいられますように。」


 と、本心からの願いを込めておじいさまに伝えた後わたくしは、さようなら、とお別れをしたのでした。


 それからしばらく、たくさんの人がおじいさまにお別れを告げに参りました。

 みんな悲しそうに泣いている方もいらっしゃいました。

 親族としてわたくしはその方々に挨拶をしながら、おじいさまはこんなにもたくさんのの方に愛されていたのだと感じました。


 その翌日までお葬式は続き、おじいさまを火葬場に連れて行きました、そこでわたくしは気になったのでお母様に質問をしましたわ。


「どうしておじいさまを焼いてしまうんですか?」


「そうね…色々理由があるけれど天国に行けるように、そして新しくまた生まれ変われるように。そういった理由があるわね。」


 

 ☆ ☆ ☆



 お葬式が終わり来てくださった皆様が家に帰ると終わった後の用事をお父様が済ませて私たちも家に帰ることになりました。

 その帰り、わたくしは専属の運転手が運転する車でうとうとしておりました。

 たくさんの人とあいさつするのはなかなかに疲れましたし結構時間もかかり夕方になっていたのもその理由です。

 そんな、わたくしにお母様は。


「ふふふ、たくさんご挨拶して疲れちゃったのね。家に着いたら起こすから眠っていいていいわよ。」


「んみゅ、おうちに帰ったら今度こそお兄様に遊んでもらいますわ…。」


 そうね、そうしなさいとお母様に言われ、お父様もゆっくりお休みと言ってくれたのでわたくしは家に着くまでの間眠ることにしましたわ。


 ありきたりで


 なにも変わりない日常でかわす眠る前の挨拶


 おやすみなさい


 それが、わたくしと両親の最後の会話でした。

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