EspoiReVe

第8話 夢と希望と柘榴石

若干時系列とびとびになりますが、2人が配信者として揃うまで、そこのところ申し訳ありません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 引っ越しの日からおよそ1か月後、私ことゆめのマナは週に1度の雑談配信の最中でした。同接人数は現在2000人ほど、だいぶ増えたなぁ。

 そんな時、配信中に唐突になる通知音に少々驚いてしまった。


『わっ、びっくりしたー、ごめん皆ちょっと待ってねー?』


・またやらかしかな?

・マネーちゃんも配信しろ

・やばい発言しかけると唐突になる通知音

・一回無視して配信続けたら後でかなり怒られたんだったなw

・*ゆめのマナは監視されています

・いえーいマネーちゃんみってるぅー?


 通知音の内容はおねえちゃんから、配信中だということは分かっていたが告知があるため雑談配信中に流して欲しいとの事だった。その内容は…


『別にお怒りの通知じゃありませんよ!いつも怒られてばかりじゃないです!重要告知があるのでこの配信中に告知しておくようにとの事ですね。』


・ほう

・重要告知って何ですかねぇ

・相方の復帰来ます?

・初配信から音沙汰なく約1か月…

・高天原Vでこれ以上の重要告知があるだろうか


 …まぁ当たらずとも遠からずだ、この為におねえちゃんは忙しそうにしてたし、急ピッチでのぞみちゃんを仕上げなければならなくなった。

 まぁもう妥協ラインはいってるけど、あの子の向上心の高さのせいでもっと上を目指していまだに猛特訓をしてるのだけど…


『んー、そこははっきりとは断言できませんね。ですが、今から1か月後にある高天原のアーティスト部門のGarnetさんが出演するライブに参加させていただく事になりました!』


・ガーネットってマ?

・Garnetって元アイドルのあの人…

・ってことはある意味アイドルライブになるのか…

・Garnetってアイドルだったん?


 え?Garnetさんってアイドルだったの?お姉ちゃんからは何も聞いてないし、なんか失望させたくないとしか言われてないんだけど。


『Garnetさんってアイドルだったんですか?へぇー、知りませんでした。高天原に元アイドルがいたんですねぇ。』


・?あれ、マナちゃん前配信でGarnetのアイドル時代の大ファンって言ってなかったっけ?

・言ってたゾ、これGarnetが誰か気付いて無いやつだゾ

・元推しの現在を知らない悲しきアイドルマシーン

・現役時代のアイドルとしては赤石優美って名乗ってたよ


 …え?優美ちゃん?


『…え?優美ちゃん?ほんとに?え?なんでおねえちゃん教えてくれなかったの?おねえちゃーーん!。』


・フェードアウトしていく声…

・配信中やぞ

・い つ も の

・もはやお家芸

・もっとマネーちゃん出してけ

・うっすらと怒声聞こえてきて草


 …この後おねえちゃんにいっぱい怒られました。うう…。


 ★ ★ ★


 重要告知をした日から数日、私は高天原Vオフィスにいる。

 目的はいろいろな打ち合わせと、ライブ当日高天原メンバーの顔合わせである。


「っはぁぁぁぁぁ、やっぱりなぁ予想通り…。」


「しるべさん?どうかしましたの?かなり深いため息をつかれましたけれど。」


「えっとお姉ちゃん、打ち合わせの時間あってるよね?もう予定から30分すぎてるけど。」


 予定時間15分前には現地到着し準備が終わっていた私たち3人、そして顔合わせする予定であるGarnetこと、本名鐘都 優美(かねと ゆみ)の初顔合わせの日なのだが…

 予想通りの遅刻である。彼女は怠惰を形にしたかのような性格をしており、遅刻は日常茶飯事、受ける仕事も気に入ったものしか受けないといった会社としてはめっちゃ使いづらい人材なのである。

 そんな問題児と私について何故私が詳しいかというと、私が結愛、というかVのマネージャーになる前に担当してたのがこの問題児なのである。


 後任の担当にも連絡したが、涙声でごめんなさい、ごめんなさいと謝る全自動謝罪ロボットみたいになってしまった。

 アンタ優美の担当に泣てた時めっちゃ喜んでたやろ、あまりの優美のダメっぷりに日々胃にダメージを受ける日々を過ごしているようだ。


 はぁ、とため息をつくと、端末から前に視線を向け、楽しみにしている妹とどんな人なのかしら…と口に出しながらソファーに座る神目さん。

 あんまり彼女らを失望させたくはないが仕方ないか。


「あー…、Garnetは…遅刻みたいね、まだ連絡来ないし、しばらくかかりそうだからお昼食べにっ…」


 昼食の提案をしようとすると端末から着信音が鳴る、件の人物、画面には鐘都優美の文字、私は2人から断ってから電話に出た。


「ごめ、しるべ、寝坊した、今起きたわ…ふあ…今どこ?」


「もううちの子たちとオフィスにいるけど?相変わらずの堕落っぷりだね…担当の子泣いてたよ?」


 眠いのか普段よりダウナーな感じの声が聞こえる、あくび交じりにしゃべりまったく反省の色が見えないこいつは、まさにこれが日常茶飯事であることを示している。


「うん、今から準備するわー、んで?どこに集まるの?おごり?」


「…当然のようにお昼たかろうとすんな、こっちも軽く済ませるからそっちも適当に食べてさっさと来い。」


「えーっ…けちー。」


 不満そうに言葉を返しながら、じゃあ準備するからと言って優美は電話を切った。

 どうやら電話を聞いていたらしく二人がこちらを見ていた。


「えっと、おねえちゃん、今の電話って、Garnetさん…優美ちゃんからだよね?仲良さそうだったけど…。」


「ああ、そうあの怠け者で怠惰の化身は間違いなく、結愛の元推しである赤石優美こと鐘都優美だよ。」


 幻滅させちゃうんじゃないかという思いはもう完全に消えたため、結愛には悲しい現実を伝える、あなたの憧れはただの怠惰モンスターなのだと。


「元担当だったしあの子の性格は知ってるからね、最初のころはめっちゃ振り回されて大変だったわ…。」


「…我が社の優秀なアーティストと聞いておりましたけど…なんというかマイペースな方なのですわね。」


 かなりオブラートに包んだ表現をしてくれる神目さん、10も年下の子にこんなに気を使われるだなんて、どっちが年上なんだろうか。


「まあ、あの子がここに来るのに時間かかるだろうから、私たちは軽く昼食を済ませちゃいましょう、近くにランチがおいしいおすすめのお店があるから案内するね。」


 優美が来るのにまだ時間がかかりそうだったので、ちょっとお昼には早いが私はおすすめのお店に二人を案内することにした。


 

 ☆ ☆ ☆



 食事が終わってからオフィスに戻り、1時間ほどたった頃ようやく待ち人が姿を現した。


「やー、ごめん朝起きたの6時半くらいでさー、まだ寝れるじゃんって二度寝したらこんな時間になっちゃった。」


 そんなことを言いながら、現れたのは雑に梳かした赤茶けた髪を肩ほどまで伸ばし、なかなかの高身長にすらりとしたモデル体型の美女がGarnetこと鐘都優美、彼女のメインステージの前に2人を差し込むのに協力してもらった、かつての相棒である。


「えっと!私、おねえちゃんの、稀石しるべの妹で稀石結愛って言います!私優美ちゃんに憧れてアイドル目指して、この間までアイドルやってました!あの!サイン貰っていいでしょうか!」


 優美の姿を見た結愛はすごいスピードで彼女に駆け寄り、オタクの様な早口でサインを要求していた。

 流石の優美も結愛の勢いに圧倒されたか若干引いた様子を見せていたものの、私から結愛は赤石優美のファンだったことを聞いていたため。快くサインを書いていた。


「それにしても…へぇー、しるべちゃんの妹さんもアイドルだったんだねぇ、私最近はそっちの情報疎いしあんまり知らなかったからなぁ、確かに見たことあるかも結愛ちゃんの事。」


 優美はあまり自分が去った後のアイドル業界についてはあまり認知してはいなかった、何か理由はあるかもしれないけどまぁ、対した理由もなくただめんどくさいからとかじゃないかと思っている。


「んー、じゃあさぁ、とりあえずこの子らの実力について見せて欲しいかな、一応ね、私も口きいた側として下手な人間連れていけないというか…」


 それは当然だ、基本的に怠惰な優美といえど、彼女が問題児であることを許されてる理由がそれだけ優秀だからである、しかし下手な人間を連れてきたとなると彼女の評価に傷が付く、そう考えるのも仕方のないことだろう。


「2人とも準備はできてる?一応ライブで歌う曲は許可貰えた曲のカバーになるけどいけるかな?」


 私がそう言うと2人は力強く頷く、そう、ここで躓いてはこの子たちは始まれない、自分の失敗の自覚があるから神目さんはそれだけ努力をしていた、その成果を見せる時だ。


 二人はお互いに顔を合わせるともう一度頷き指定の位置につくそして歌い始めた―――。



 ☆ ☆ ☆



 ただ聞き惚れていた、2人の歌声が交差し交わりきれいな音のハーモニーを生み出す。

 純粋に歌がうまい神目のぞみ、この子はまだまだ発展途上だ、今後まだまだ伸びるだろう、なぜか従いたくなるような、頼りになるような安心感があるこの声は多くのファンを引き付けるのは間違いないだろう

 多彩な技術、声色を扱い完全に、場を支配する稀石結愛、この子は何でもできるオールラウンダーだ、言ってみれば器用万能、高水準で何でもできる一種の怪物。この子らがVtuberとしてではあるが、アイドルとしてやっていくらしい。


 隣にいるかつての相棒は、こちらに視線を向けどうだ?使えるか?といった視線を向けている、しかしその視線の中には使えることを確信しているような感情が見える。

 その通りだ、この子らは問題なく使える、どころが私の前座なんかではなく、むしろライバルになりえる余蘊実力をしている。


 私がしるべに笑みを返すと彼女も私に笑みを返す。

 十分だ、これだけの実力があるなら盛り上がるのは間違いない。


 私はまだ歌い続ける二人に視線を向ける。

 

 アイドル。

 

 なんで十年前にこの子たちが私の前に現れなかったのか。

 

 忘れ去ったはずの遠い昔の羨望が何故か私の胸に蘇った。

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