第39話 私と面接と金剛石

 第二次募集一次面接、通称篩い落とし試験を行ってから2週間、現在一次試験を突破できたのは15人だ。その内8人を面接して私が不合格としたのが7人、そろそろ通知が行っている頃だろう。


 唯一私が合格とした人物の名前は茅野あこや、若いながらふんわりとしたどこか母性的な雰囲気を持つ少女で彼女の包容力ならば先に決まった子とはうまくやれそうだし、面接した中でもダントツでやる気に溢れていた為彼女を合格とした。


 その後6名もやりたいという気概は感じるのだけど、輝きが物足りなく見える、あれでは1期生と2期生の実力の差でつぶれてしまいそうだ、その為可哀想だけれど不合格と決めている。下手に希望を見せて潰れて壊れるより、こっちの方が良いだろうと思うし。


 次で最後かと思い資料を見る、名前は大谷茉莉さん、年齢は現在15歳、まぁ今年16歳であることを考えると高校生か、進学はしていないようだ。


 のぞみさんがOKを出したという事は心根はやる気があり、何かしらの武器がある人物という事、14人ほど見てきたけど皆人間性的には悪くなかった。けれどどうしても配信者として強力な武器がないとおそらく続かないし不仲な仲間、というのは私は見たくないのだ。


 …正直もう結愛にはいい仲間に恵まれて欲しいと思っている、これは私の我儘なんだけど。


 と言ってみたものの、3期生最初のメンバーは中々のじゃじゃ馬でおそらく火種になってしまうかもしれないと思ってはいるんだけど…1次募集の時にほかにめぼしい人材がいなかったのが悪いと思う。いや…この言い方はかなり傲慢に聞こえるかな。


 さて、では面接を始めるとしよう、概要は分かったしこの面接でどこまで自分を魅せられるか、私を満足させられるか。


「し…失礼しますっ!」


 緊張しているようで少々硬いが元気で張りのあるいい声だ、私がどうぞというと部屋に入ってきた少女と目が合った。


 垢ぬけていないが素材が良い、着飾れば化けそうなかわいい子だ、若干イントネーションがおかしかったのは緊張してるからか、いや…これはもしかして…?


「はい!私はまっ…大谷茉莉と言います!えっと…プリムラちゃんに憧れて…ヴァーチャルアイドルになりたいと思って、応募させていただきました!」


 最初の自己紹介はありふれたもの、この子の番になるまで何回か聞いたことのあるものだ、まぁここまでは挨拶のようなものだしこれくらいが普通なのだけど。


 取り合えず座るように促し質問をしていく、通常の面接は数分で決まるみたいなことがあるかもしれないけど私はそうしたくはない、出来ればきちんと話を聞いた上で合否を決めたい。


 その後もなんというかマニュアル通りというか、ああ面接だなぁというような質問が続き、何度か言葉が詰まるところもあったものの問題なく答えたのだが、ここまでの感想を言うと面白みがない。


 そう、Vtuberの適正に必要な物として、トーク力やキャラクター性に尖ったものがある方が大いに人気が出る、現状うちで登録者TOPのプリムラもお嬢様風なのに蓋を開ければ長時間ゲームを続けるゲーマー気質なところが受けている。


 そう言った尖ったところが今のこの子からは見えない、つまりはこの子も不合格かな…と思いながら1人目と茅野さんのデュオで…などと先の事を考えていた。


 という訳で、この子も不合格という方向で考えていたのだけれど、一つ聞きたいことがあったので質問をしてみた。


「あなたはウィラクルの一員になってどうしたいですか?」


 わざと質問を曖昧にし、人によって答えが違うであろう質問をする、私はこの質問を受験者全員に聞いているし、今後ウィラクルやっていくにあたって微妙だと言える答えを出した相手には不合格としている。


 …この子は不合格かなぁなんて言ったけれどこの質問で覆る可能性もある、まぁ試験官は私なのでそれを決めるのも私という訳だ。


 質問に対し大谷さんはえっと…と口にしてから口ごもった、あれ?何か言いにくいところでもあるんだろうかと思い、なら終わりでいいかと帰らせようとしたのだけど。


 何故か目をぐるぐるさせたかのように混乱したような大谷さんが口を開いた。


「あ、あのですね?私がウィラクルでしたいことは…その…実はないんです!」


 驚くべき言葉が大谷さんの口から零れる。


「私っ…自分に自信がなくて、変わりたいと思ってここに来ました!実は応募したのも深夜テンションでおかしくなってて、ただプリムラちゃんと同じ職場で働けたらなぁって思ったことがきっかけで!」


 なんというか暴走し始めた、だからこそ今話しているのは本心だろう、支離滅裂ではあるけど、この子にとってこれが”ウィラクルでしたい事”なのだと思う。


「えっと…えっと…どうすればいいんだべ…うう。」


 訛りまで出てきた、ここに来てこの子がだんだんと面白く感じてくる、なるほどなるほど、こういうところが見たかったんだ。焦って出たんだろうけどこういうのが武器になる世界なのだ、そして私達が求めているのはそれだ。


 私は改めてこの子の話を聞く姿勢をとる、失礼ながら先ほどは不合格かなーなんて考えていたからね。


 小さい声でああもうどうにでもなれー、と声が聞こえてくる、なんだこの子結構面白い子じゃないか。


「あのですね!その、結論から言いますと、私自分で決めたこの道で成功したいと思てます!ついでにプリムラちゃんやマナちゃんみたいにキラキラしてみたいなって思ってます!」


 思わず吹いてしまった、他の子にとっては光り輝くのを第一目的としているのにこの子にとってはついで、まぁヴァーチャルアイドルで成功することイコールキラキラする事だからいいんだけど。


 この暴走状態が配信でうまく制御できればこの子は化ける、暴走状態で制御とは?とは思うけど。逆にやばい爆弾でもあるけど火力は凄まじいだろう良くも悪くも。


 正直に言えば最初の子と茅野さんよりもこの子が欲しいかもしれない。いや、あの子と茅野さんとこの子でちょうどいいバランスなのかもしれない。


 その後、暴走が続き20分ほどマシンガンのように支離滅裂なことをしゃべっていたものの流石に疲れたのか息を切らしたので、その隙に私はもう一つ質問をすることにした。


「大谷さん、もしもウィラクルに合格したらの話ですが、ライバーの情報に守秘義務が生じます。ゆめのマナと同じくプリムラ・モンステラに関してもです。そしてライバーとなったあなた自身も。」


 出来る限り秘密にして欲しい、したとしても秘密を守ってくれる相手のみという事を言う。


「は、はい!もちろんそれは分かってます。」


「それと、はっきり言いましょう、素人のあなたたちがマナやプリムラと並ぶのには相当な努力が必要となります。つまりかなりレッスンなどは辛いものになるでしょう……覚悟は…ありますか?」


「あります!」


 即答、素晴らしい、悩む時間すらなかった。


 この質問をするというのはつまりそういう事だ、それと最初の子にも茅野さんにもこの質問はしていない、つまりはそういう事。


「分かりました、本日の試験はこれにて終了とさせていただきます。」


 そう言いながら私は彼女に笑顔を向ける、これで3期生も何とかなりそうだ、相変わらずかなり癖が強い子ばかりだけど。


「えっあっはい!…本日はありがとうございました!」


 席を立ち頭を下げ綿綿と外に向かう彼女、きちんと失礼しましたとお辞儀をしてから部屋を出るのは加点ポイント。


 いやはや、のぞみちゃんのおかげで楽が出来たとはいえ、どうなることかと思った。というかのぞみちゃんにも嫌な役をやらせてしまって申し訳ないと思ってます。


 いや、あまりにも募集が多くて絶望していたら、本気でやる気のある人物以外は篩い落とせますわよ?お手伝いしましょうか?と言われたので手伝ってもらうことにしたのだ、ありがとうのぞみちゃん。


 大変な仕事も終わったのでこれからしばらくは推し活出来そうだと、私も試験会場を後にした。

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