第27話 ”普通”だった黒曜石(後)
『うん、どうも、ウィラクル2期生のヴァーチャルアイドル黒曜 歩。』
・この簡潔さ癖になる
・どうも
・2期生って聞くとこれからウィラクルメンバーも増えていくのかぁって感じるなぁ
・今日は耐久配信?体力の限界までって書いてあるけど何やるの?
配信スイッチに切り替わる、あたしはこういうスイッチの切り替えが上手いと自負している、しるべさんにはもっと自分を出していいとは言われたけどそれもなかなかに難しいと思う、作ったキャラが嫌われるより自分を出して嫌われる方がダメージ大きいし。
『うん、あたしが今日やっていくのはこれ、前に先輩二人がコラボでやってたやつリングマッスルアドベンチャー。』
・これを耐久でやるのでござるか…?
・プリムラちゃんが凄かったやつね…いろんな意味で
・歩ちゃんは…うん!大丈夫そうだ!
・一時間で終わりそう
何が大丈夫なんだろうね?…これでも一応増量してもらったんだぞ…プリムラと比べるのなんて反則だぞ、あの子アバターの設定より本体の方がでかいんだからな?
『あたし最初の時に体力に自信あるって言ってた気がするけど、まぁどれくらいできるかは未知数だから、適当に期待してて。』
ここだけのところ実はこの無愛想さはキャラを作ってる訳じゃない、配信用にしゃべろうとするとついつい硬くなってしまうだけなんだ。
・無理せんでな
・まぁ先輩二人も体力あるし大丈夫かな?マナちゃんは限界分からんけど…
・筋トレも走るのも全く息を切らしてなかったからな…マナちゃん…
・悲しきアイドルマシーンは格が違う。
『うん、無理はしない、でもあたしは今の所ウィラクルでフィジカル最強って自負してるから、それに恥じないくらいには頑張るつもり。』
・フィジカル最強は大きく出たなぁ
・マナちゃんよりフィジカル強いって事?
・マナちゃんは配信で知り合いに自分よりヤバいフィジカルモンスターいるって言ってたな
・アイドルはやっぱ体力が大事なんですねぇ
・プリムラちゃんも最近は体力がかなりついたって言ってたな、コーチが厳しいって
マナは効率的に体を動かしているのと体力の回復が早いから体力があるように見えるけど、休みなしでぶっ通しでやればあたしの方が体力は多い、それ以外はあの子の方が上だけど。
『それじゃまずは…コントローラーを取り付けて…っと、それじゃ始める。』
そこからゲームを始めると操作説明が始まりこんなことやってたな、と思いながら進めていく、そして年齢入力画面が出てきてこれもアバターの設定年齢通り、自分と同じ年齢を入力する。
・うーん公式ホームページに載っている通りだけどやっぱり違和感が…
・最年少に見えるよな…やっぱり
・ロリは希少価値なんや!
・小さくても俺らは推すからよ
…別に気にしてないし、大きさですべて決まる訳じゃないからね…。
『…えーっと次はどれくらいハードトレーニングを求めますか…?これどれがいいの?』
・MAXで
・一番上
・MAX一択
・おまえら…耐久だって言ってるのに鬼畜だな…
『ならMAXで、大丈夫だよ、無理だったら辞めるし、耐久と言っても体力の限界までってタイトルに書いてるし。』
やっぱり配信としての見栄えが良いのはMAXなのか、というか本格的な配信はあたしあんまりやってないからなぁ、体力あるかどうかはリスナーからしたらよくわからないのか。
それで次は…押し込む?
『ふっ。』
・!?
・一瞬で最大値言ってて草
・そこからびくともしないって事は勢い付けたって事じゃないな…
・引く力も同じw
・ゴリラやんけ
続く引く力も変わらず最大値?だ。ゴリラで結構、フィジカルはあたしが唯一誇れるところだ。
そのまま所謂チュートリアルのようなものが進んでいき、ようやくゲームが始まった。
『それにしてもこのゲームってほんとによく出来てるね、筋トレしながらゲームって、考えた人天才?』
・ゲームにすることで何もないよりモチベーションの維持につながるからね
・そうそう、オタクとかゲームばっかりやってる層は楽しみながらやれるのでかい
・攻略することで達成感味わえるのいいよね
・三日坊主のプレイヤーも頑張れる
そうそう、体力作りも筋トレも一日にしてならず、毎日努力して習慣化してやっと成果を感じられるものだ、数か月やれば流石に成長を自覚できるだろうけど、一週間程度では何も成果を感じられない、成果を感じられなければ人間というものは続けるのが苦痛に感じるだろう。
話をしながら操作を続けて行くとついにゲームのストーリーが始まる。
『うーん、ストーリーに関しては、なんとも、なんで?って部分しかないけどこの世界ではこういうもの?』
・まぁ…ゲームなので…
・登場人物もぶっ飛んでるし、内容もぶっ飛んでるけど、主旨は体を鍛える事なので…
・気にしたら負け
・さて、始まるぞ…
という訳でゲームスタート。取り合えず走るように足を動かす、するとゲームの中の主人公も同じように体を動かすのだけど。
『こういう風に認識するのか、じゃあこうした方が良い?』
・おお、いい感じ
・体動かしながらやるとまた違った感じの声が良いね
・界隈でよくあるアレな声も聞けるのだろうか
・だんだん早くなってきた
所々でギミックの説明とかが入ってそのたびに説明はいるけど、それよりもだ。
『え?これクリアのたびにポーズ取らないといけない?』
・そうだよ
・まぁコントローラーを動かすだけのようなものだし
・せっかくだからやろう
・わくわく
恥ずかしいけど求められてるなら仕方ない、やるしかないか。
『こ…コンプリート!…』
・恥ずかしそうなのが良い
・恥ずかしそうなクール系少女いいっすね…
・興奮した
・落ち着け
まぁそんなことがあって少ししたら今度は初戦闘だ、戦闘と言っても筋トレなんだけど。
『なるほど、コツはつかんだ。』
・はっや
・何の苦も無く筋トレしておる
・最初は判定でぎこちなかったけどコツ掴んでから圧倒的に早くてヤバ
・これはフィジカルモンスター
・一応言っておくけど強度最大よねこれ
それからは特に目立つことなくサクサク進んでいき、最初のボス戦になった。
『へー、こんなもんなんだ、思ったほどじゃない。』
・息を乱してもいない
・慣れてくると淡々としてきた
・これ耐久何時間くらいになりそうです…?
・体力の限界までって言ってましたねえ…
そのまま難なくボスを倒す、言われたとおりにこのゲームの耐久始めたけどこれでいいのだろうか…?
そのままあたしは耐久配信を続けるのだった。
★ ★ ★
『ふぅ…流石に少し疲れてきたかも。』
・視聴者も少し減りましたね…
・耐久がマジモンの耐久だからね
・かれこれ四時間半、まだ余裕そうなんだよなぁ
・アイドルってここまでフィジカルないと務まらないの?
ん?もう四時間半か…話しながらやっていたとはいえ時間が過ぎるのが早いな…それにしてもあたしはやっぱこういうゲームが向いてるのかもしれない、体動かすのならいくらでも出来るし。
そんな感じで進めていると一つのコメントが目に入ってきた。
・どうせプレイヤーと配信者は別だよ、Vなんてアバターしか映らないんだからいくらでも誤魔化せるでしょ
……は?
つい頭に血が上った、流せばいいと分かっていても、無視するべきだと頭の中で思っていてもこれは我慢できなかった。
あたしの体の丈夫さと体力は努力で培ってきたものだ、丈夫さは才能かも知れないけど、それでもここまで鍛えたのはあたしの努力なんだ。
努力を続けて唯一結愛に認めさせた、あの結愛がフィジカルではまぁちゃんに負けるなぁと言ったんだ、唯一あたしが誇れるものだ。
その努力を嘘つき扱いされるのは納得いかない、故に我慢が出来なかった。
『…へぇ、あたしが変わり身用意してるっていうならさ、じゃあどうすればあたしがやってるって証明できる?』
・あれ…?もしかしてお怒りでしょうか…?
・そういうのは無視していいんだよ
・取り合えず落ち着こう
『まぁ確かにそう、視聴者からは見えてないし証拠を見せる事も出来ない、じゃあ普段のあたしを知っている人に聞けばいいよね?』
そう言ってあたしは目に入った人物に即通話を送る、しばらくすると相手が通話に出た。
『あの…歩さん?えっと…わたくし今配信中なのですが…』
『プリムラ、あたしも配信中だけどどうしても聞いて欲しいことがあって。』
・ちょっ
・配信中のプリムラちゃんに通話したんかw
・え?プリムラちゃん今日の朝から配信してなかった?
・同じく長時間配信してたんやろうなぁ
『うん、今あたしリングマッスルアドベンチャーやってるんだけどリスナーにあたしがプレイヤーじゃないって疑われてね。どうしたら証明できるかな?』
『え?あの…少々お待ちください』
そう言ってプリムラは少しの間静かになってたけど、しばらくして返事が来た。
『理解致しましたわ、ええっと、歩さんのリスナーの皆様、ごきげんようプリムラですわ。事情は把握致しました。』
・プリムラちゃん配信中にごめんね
・うちのゴリラがごめんね
・プリムラちゃんと一緒に住んでる訳じゃないのに証明できるん?
『まずは歩さんがどれだけ運動できるかですが、恐らく休憩なしのノータイムだったらマナさん5人分くらいは余裕ですわ、なので変わりを用意する意味がありません。』
・マナちゃん五人分マ?
・予想以上に化け物で草
・あの子も大概の体力してなかった?
・少なくとも前のコラボではプリムラちゃんが膝をついても余裕そうだった
『これで証明できた?なんだったら今度高天原のスタジオでみんなと耐久レッスン配信しても良いよ。』
『お許しください、死んでしまいますわ。まだわたくしは死にたくありませんの。』
・即拒否で草
・まぁこれだけ言われてるのにごまかす必要ないもんなぁ
・命乞いプリムラちゃんめっちゃ貴重では?
ゆめのマナch:私も死にたくないから歩ちゃん許して
・マナちゃんもおって草
・先輩二人を命乞いさせるフィジカルモンスター
『マナもいたんだ、残念…集団耐久レッスンが出来ると思ったのに』
・おい誰だこの子を普通だって言ってた奴ら
・この子もやっぱりウィラクルですねぇ…
・ウィラクルにはやべぇ配信者しかいないのか…
ガーネットch:お前らのせいであたしらが地獄を味わいそうになってるんだが?早く謝って!
・ウィラクル全員勢ぞろいじゃねえかwww
・あれ?コラボ配信だっけ?
ウィラクルの皆のコメントが見えたらだいぶ頭が落ち着いてきた、プリムラも配信中だったのに申し訳ないことをしちゃったな、後しるべさんにも謝らないと。
『プリムラごめん、配信中だったのに。後でお詫びする。』
『いえ、大丈夫ですわ、こちらの皆さんも歩さんから通話が掛かってきて喜んでおりますので。』
・唐突の箱内コラボだからなぁ
・プリムラちゃんはええ子や
ゆめのマナch:プリムラちゃんも歩ちゃんも頑張って!
ガーネットch:私は寝なおすわ、おやすみー
とりあえず話がひと段落したのでプリムラはとの通話を終わらせ、自分の配信に戻ることにする。
『さて、いい感じの休憩時間になったから体力も回復した、仕切り直し、皆、付き合ってくれるよね?』
・アッハイ
・おい、体力回復したぞ、後どれだけ配信するんだよ
・おい煽った奴出てこい
・すみませんでした。許してください
何故か知らないけどリスナーが謝り始めたのできりのいいところで終わらせることにした。
『じゃあ、みんな疲れてそうだからここのボスで終わりにしようか、それじゃ続き始めるから。』
・ありがたや…
・俺はどれだけ長時間配信になっても見るぜ!
・すでに五時間なので耐久はまたの機会に
・歩ちゃんもプリムラちゃんに負けない配信モンスターになりそうだなぁ…
視聴者は、改めてウィラクルライバーはヤバい奴らの巣窟だと理解し、黒曜歩の事は怒らせないようにとこの配信を通して胸に刻むのだった。
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