第28話 私とウィラクルボックス(前)

 12月、寒さも強くなり刺す程の痛みすら感じ始める頃、私は自宅でウィラクルメンバーの事を考えていた。


 我が最愛の妹にして最推し、ゆめのマナ、このウィラクルになる前のV部門を支えた立役者、配信頻度は多めだけど一度の配信時間は一時間から多くても二時間程、配信スタイルは雑談、歌配信、ライトな人気ゲーム配信がメイン、最近は配信に私を巻き込むことも多くその方がリスナーが喜んでくれるとの事。


 大方私と一緒に配信しながら遊びたいというのが本音だろうか、まぁ上からなにも文句言われないならいいのかな、私も関係者なのは間違いないからね。


 ただし、ゆめのマナの立ち位置が怪しくなるのはいけないのでたまに出るレアキャラ程度のポジションを維持してはいる。


 次に、最初の問題児にして恋するヴァーチャルアイドル、恐らく彼女以外には現れないだろう呼び名を持っている。


 プリムラ・モンステラ、問題児ではあったが、現状ウィラクル内ではチャンネル登録数はTOPである。


 理由は彼女がよく言われる配信モンスターの名前でわかるだろう、圧倒的な配信時間、そしてどのゲームも最初は下手なのだが、学習能力と持ち前の反射神経などが優秀な為、あまり沼ったりしない点でストレスも感じない。


 配信スタイルは、ほぼゲーム配信、というかゲームしながら雑談するので実質両方やっている。


 やるゲームはオールジャンル、リスナーのリクエストに応えたり気になるタイトルをやったり、最新レトロゲー問わずにやる、最近FPS系をやり始めたらしい。


 もう一人の問題児、ガーネット・ポリッシュ。


 メインの配信スタイルは歌配信、他には例のサンドボックスゲーをだらだらやる配信と、唐突に話したい事だけ話していったり逆にリスナーからネタを出せと言った自由な雑談スタイル。


 彼女を表す言葉はとにかく自由、配信時間に遅れることはざら、雑談始めたと思ったらゲーム配信を始める、まさに思い付きで動いており何が飛び出すかわからないびっくり箱、故に意外と彼女を見に来るリスナーは多い。


 取り合えず彼女に関しては今は好きなようにやらせるのが一番だろう、問題が起きたらこちらで対応すればいいし。


 そして、この間の配信で一皮剝けた黒曜歩。


 一皮むけたといてもまだ薄皮だ、私としては地をガンガン出していいと思っているのだけれど配信だと若干遠慮がちになってしまう、あの配信でリスナーもなんとなく彼女の本性というかそう言った面が見えてきただろうから、そういうの見せても問題ないとは思うのだが。


 配信スタイルは定まっていない、というか現状一番配信が少ない、ズボラな優美よりも少ないというのだから、相当である。


 理由はストイックさだろうか、ひたすらウィラクルのレッスンルームにいることが多く私が出勤して退社するまでいることもある、本当に人間だろうか?冗談じゃなくフィジカルモンスターだ。


 まだ殻を破り切れていないため方向性は決めない、あちらが相談してきたらいくらでも相談に乗るし、いくらでも手助けはしよう。


 そんな彼女たちを、そろそろ舞台に上げたいと感じている、彼女たちの本業はアイドル、やはり歌って踊ってこそであると思っている。


 もちろん彼女たちの魅力はそれだけではないんだけど、優美や国陽さんから感じるのだ、このメンバーでやりたいという強い想いを。


 その事で社長に相談すると、ならば年末にスタジオでカウントダウンライブ配信をやるというのはどうだろうという案。

 

 時間的に人が集まるかな、とも思ったのだけれど、視聴者とライバーが新年の訪れを祝うという特別感を感じられるイベントかつウィラクル全ライバーが集まるのだ、ならば彼女らのリスナーなら集まるだろうと言う予想が出来たので、全ライバーの予定を聞いてから可能なら企画をお香なうという方向で話を進めた。


 そういう事があって12月は忙しくなり気が付けば月の後半に差し掛かっていた。


 現在12月25日、本来は国陽さんと優美に予定があった上、昨日は神目さんも社長の家に泊まったため、普通に結愛の配信の予定だったのだけど、国陽さんは早めに用事が終わり、優美は予定が無くなったとかで暇になり、神目さんは社長に送られホクホク顔のやる気MAX状態で何故か国陽さん以外が家に来たのだ。


 それで流れで家でオフコラボ配信をしないかという事になり結愛に国陽さんを呼んでもらうことになった、返事はOK、という事で我が家でウィラクルボックスオフコラボをすることになったのだ。


 ★ ★ ★


『皆さんこんばんはー!夢の世界からあなたに夢を!ウィラクル1期生のアイドルVtuberのゆめのマナです!』


・こんばんはー

・マナちゃんこんばんは!

・クリスマスだけど今日何かやるの?

・マネーちゃんとパーティーとかやる?


 現在結愛の配信用の部屋にはウィラクルメンバー全員が声も出さず静かにしている、優美はなんかにやにやしている。


 そう、せっかくなのでサプライズコラボをやることにしたのだ、告知していた方が人が集まることは分かっていたのだが、こういったちょっとしたサプライズは意外と盛り上がる、それに後でちゃんと皆に告知してもらうのでそこらへんは大丈夫だと思う。


『えっと今日はね、クリスマスという事もあって普段とはちょっと違う事をしようと思うんだ。』


・ほうほう

・普段とは違う事かー

・なにをやるんだろ

・今日はマナちゃんだけしか配信してないのか


『まぁ、まずはせっかくだからね、皆でクリスマスの挨拶をしよっか、私がメリーっていうから皆でクリスマースってコメントしてね?』


・OK!

・了解しました

・いいよ!

・マナちゃんとクリスマス祝えるの嬉しい


 結愛がちらりとこちらに視線を向ける、ウィラクルメンバーはその視線を受けて皆頷いて準備完了のようだ。


『それじゃあいくよー!メリー…』


『『『『クリスマース(ですわ)!』』』』


・クリスマース!

・クリスマース!

・くり…え?

・複数の声が聞こえたんだが?

・ですわって聞こえたぞw誰だかまるわかり過ぎるwww

・えっ?


『えへへ、皆、びっくりした?実はね…今日ウィラクルの皆予定があったんだけど、早めに終わったみたいでね?ガーネットさんが家に来ててプリムラちゃんも来たからじゃあ歩ちゃんも呼んでみんなでコラボしよう!って事になったの。』


 驚かせてごめんねーとマナが喋っている間にみんなが自分のSNSで告知をする。


・ほんとにびっくりしたよ

・全員揃ったちゃんとしたコラボってこれが初だね

・こないだの歩ちゃんの配信は…

・あれは正式なコラボじゃないから…

・視聴者どんどん増えてるな


『わっ、わっ、今まで見たことがない位視聴者さんが来てるね、皆もそろそろ準備ができたかな?』


『ええ、皆様、ごきげんよう。ヴァーチャル世界から希望の光をあなたに、ウィラクル所属、アイドルVtuberのプリムラ・モンステラです。わたくし達のサプライズどうでしたでしょうか?』


『うん、ウィラクル所属、ヴァーチャルアイドルの黒曜歩。』


 目の前で皆の自己紹介聞くのは何か新鮮だなーと思っていたのだが、一名自己紹介の声が聞こえないやつがいた。


・おおーウィラクル勢揃いは感動するな

・あれ?一人喋ってなくね?

・声聞こえないねえ…

・年増がしゃべってない


『むむー!ふもも、むぐぐぐ!!』


 クリスマスパーティ用の料理を頬張ってるアホがいた、何をやってるんだお前は。


・なんか聞こえた

・おい、何食ってんだ

・なんて?

・母国語でしゃべらんでもろて


『んぐっ…ん…ふぅ、誰だ年増って言ったやつ、冬空の下パンツ一枚で逆さ吊りにしてやるか?あ?』


・こわ

・ソンナコトイッテナイヨオネエサン

・ヤクザやんけ

・自己紹介しろ


『ふん…ウィラクル所属ヴァーチャルアイドルガーネット・ポリッシュ。……そんでさっき食べてたのはあんたらの大好きなマネーちゃんお手製のめっちゃおいしい手料理ですぅー、羨ましいかコノヤロー。』


・ふざけんな俺にもくれ

・マネーちゃんの手料理…めっちゃおいしそう…

・めっちゃ羨ましいです(血涙)

・やっぱマネーちゃんもいるのか…ん?実質5人コラボでは?


 視聴者の皆、私は頭数に入れなくっていいんだよ、それとガーネット、視聴者に変なマウントとるな、ケンカを売るな、ここはマナのチャンネルだ。

 

『ふふふっ、皆で集まって配信するのは初めてだからね、でも残念ながらここはスタジオじゃないからダンスとかは出来ないんだ、ごめんね皆。』


『全員揃ったライブはその機会は必ず訪れますので、期待してお待ちいただけると嬉しいですわ。』


・期待してまーす

・全員揃うの楽しみに待ってる

・はーい


  そして雰囲気良くウィラクルライバーと私との聖夜の配信が始まった。

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