第15話 希望と収益と厄介と

 朝、目覚ましアラームの音が部屋に鳴り響きうるささに目をゆっくりと開く、時間を確認すると午前6時いつもの起きる時間ですわね。


 顔を洗い運動用の動きやすい服に着替える、これから軽くランニングの時間です、体力作りは前からしていたのですが、結愛さんとの差をはっきり感じたため、朝からランニングの時間を増やし、少しずつ差を縮めていこうという考えからですね。


 まぁ…結愛さんも同じように体力作りは欠かしていない為、差は縮まらないのですけど、まぁ広がるよりは全然いいですわね。


 軽く走りながら2週間前の配信を思い浮かべる。


 麗明院 武、わたくしの実の兄の名前ですわね、あの後から毎回のように配信に現れコメントを残している、主な内容は長時間配信をするたびに無理はしないように体に気を付ける事、といった事でどうやら心配をかけているようですわね。


 本名なのも天然なのかこちらに捕捉させようとしているのか、お兄様はどちらもあり得るからわかりませんが、リアルの方に何も連絡がこない為今は気にしていても無駄だと思っています。


 こっちから探りを入れる為にお義姉さまに連絡を入れることも考えてはみたのですけど、あの方も忙しい身ですからあまり迷惑をおかけしたくない、迷惑とは思わないでしょうけれどね。


 いつものコースを走った後家に戻り、用意していた飲み物に軽く口を付け汗を流します。


 前だったらこの時間帯は裕司さんのお世話の為に使っていたでしょうか、今のわたくしの生活が濃密すぎて忘れてしまいそうになる、それほど本気で打ち込めているという事ですわね。


 仕事のメールなどの確認の為スマホの確認をしていたところ知っている名前の方からLINEの通知が来ていたことに気が付く、送信してきた相手は。


 勇気 満里奈。


 わたくしのお義姉様となる方の名前です。


 一般家庭出でありながら特待生として、良家の子息が集まる兄やもちろんわたくしも通っていた学院にやってきた優秀な方です。


 学院での彼女はとにかく明るくどなたとも仲良くなれるような方で、相手の嫌がることは決してしない距離の測り方が上手な方でしたわ。


 お話を聞くのも上手で沢山の方の相談にも乗っていたとか、おかげで学年問わずに人気になっていました。当時中等部だったわたくしも同じクラスの子が彼女に憧れていましたからね、その人気は推して知るべし。


 おっと、話が横道にそれてしまいましたわね、とりあえず通知の内容に目を通すと、ごめん!のスタンプと一緒に、わたくしの配信を見てくれていたこと、そして兄にそれがばれてしまったことを報告する内容でした。


 どうやらお義姉様は初配信からプリムラの事を見てくださっていたようでした、最近の長時間配信も(ゲーム配信をやると配信が長引きがち)見てくれているようで、そこから兄にばれてしまったそうなのです。


 初配信から見られていたという事は、アレ(告白炎上)も知られているという事で…ちょっと恥ずかしくもありますわ。


 ばれてしまったことについては仕方がないと思います。

 

 なので、もし兄がこちらに何か厄介な事をしてきそうな場合はお口添えしていただけるようお願い致しました。


 そう返信するとOK!の返信と共に応援の言葉を送ってくださいました。


 本当…怖いくらいに優しくてこちらの事を慮ってくれる方ですわ、感謝もありますがそういうところが人を引き付けるのだろうなとわたくしは感じましたわ。


 ★ ★ ★


『皆様、今晩は、高天原プロダクション所属、ヴァーチャル世界から希望の光をあなたに、アイドルVtuberのプリムラ・モンステラですわ。今日はどうやら収益化が通ったようですのでその後報告と、記念雑談配信をすることに致しましたわ。』


 そう、どうやら長時間ライブ配信を行うことが多かったわたくしは、結愛さんとほぼ変わらないタイミングで収益化が通ることになりました。その為記念配信の枠を取ることにしました。


・収益化おめでとう!

麗明院 武 ¥50000 収益化おめでとう、これからも応援しているよ

・もう赤スパ飛んでる…

・¥1000


 思わずコメント欄の赤いスーパーチャットを見て頬が引きつりましたわ。


 もうはっきりとあの人だと確信できているからこそ頭を抱えそうになります。


 それをプリムラに反映させないように何とか笑顔を維持する。


『スーパーチャットありがとうございます。収益化、という事で日頃の皆様の応援が形になったようでわたくしも本当に嬉しく思っております。』


・これで推しにいつでも貢げるな

・いやー早かったな、と言ってももうライブ配信の合計時間100時間超えてるけど

・実質マナちゃんより配信時間だけだったら多いんだよなw

・ゲーム配信始めると抑えが利かなくて1枠じゃ終わらない事何度かあったからね…


『…つい始めてしまうと辞め時を忘れてしまいまして…いつまでも続けていられるゲームとかはいつまでも続けてしまいますね…。』


 最近はしるべさんに色々お世話をして貰ってばかりいる上、長時間配信の時は配信しながら食べられるようなものを持ってきてくれたりする。


・¥100 最近恋愛事情どう?進展ある?

・ほっといたら月200時間とか普通に超えそうだ

・この間お弁当作ってあげる話になったんだっけ

・推しの手作り弁当羨ましい…


『最近の恋愛事情ですか…あ、お弁当は好評でしたね、大変喜んでいただけました。マネージャーさんのご指導もあってレパートリーも増えてきているのでこちらも助かりますわね。進展は…あまりないでしょうか?会う機会が少々減ってしまいましたので。』


・会う機会減っちゃったのか

・配信が増えたから?

麗明院 武:相手はどんな人?

・多分女の子一人拾って養えるような人だから収入はそれなり以上でしょ

・高天原社長とか?結構歳離れてそうだからどうだろ


 結構感が多い人が多いですね、はっきり言うのもあれなのでここは濁しておきましょう、それとお兄様の名前が出るたび反応してしまいます。心臓に悪いので勘弁して貰いたいです。


『相手は秘密…ですわ。公表できることは年上であること、包容力が高い方でしょうか器が大きいといってもいいですわね。』


・実質ノーヒント

・まぁそういう情報は普通出さないよね

麗明院 武:年上なんだ

・なるほどねえ


 薄々感付いているいる方もいそうです、少しヒントを出し過ぎたでしょうか?正直わたくしはバレてもいいとは思っておりますけど。まだお付き合いしているわけではないですし。


『以前は一緒にお出かけとかもしたんですけれど、こちらがはっきりと告白したら若干距離を取られてしまいまして…将来的にももっといい相手を見つけた方が良いって言われちゃいましたわ。』


・逃げの一手を打たれてるw

・このお嬢こういうところまっすぐだからね

・相手に好きな人とかはいないの?

・まっすぐ伝えた方が後悔もないだろうしプリムラちゃんらしい


『逃がすつもりはありませんが、好きな方はいないと思います。仕事一筋の方ですし、掲げている目標達成するまではそういう話も避けていそうです。そちらの方の家族の方とも会ったことありますけれど、隙があったら落としちゃっていいとは言われております。結婚しないよりはいいって感じでしたが。』


 お話したのは裕司さんのお姉さんでしたが、わたくしの家系の事も知っている為そちらの点でも悪くないと思っているでしょう、優秀な一族であるらしいのでそういったメリットとデメリットを判断できる能力も優秀ですね。


麗明院 武:同世代の子とかの方が良いんじゃないかな?年が離れてると話題とかそういった事にも困らない?

・まさかの外堀から埋めてるの草

・恋は猪突猛進と思いきや使えるものはすべて使っていくタイプ

・年齢差で問題がある程度で止まる子じゃないぞプリムラちゃんは


 どうやらお兄様も相手に気が付いている感じなのでしょうか、自分より年上の相手を義弟にしたくない気持ちは分からなくもないですけれど、あなたも自分で選んだ相手を将来の伴侶にする以上わたくしも自分で選ばせていただきます。


『年齢は問題にはなりません、わたくしがその人が良いと思ったからその人を選んだのです。という訳で別の人に恋をするというのはありえません、そもそもわたくし自分の愛が重いタイプと分かっているので、ほかの人に目が行くことはまずないですわ。』


・愛は程々が良いなぁ()

・自分で愛が重いと断言する強者

・一途な子は応援したくなる

・マナちゃんも好きな人おるんかな…


 お兄様の反応が消えましたわ、おそらく諦めたのでしょう、自分も周りの反対を押し切って婚約した以上そんなに大きな意見で反対と言えないはずです。


『マナさんですか、ご安心くださいませ、マナさんはアイドルという立場を大事にしておりますのでそういう相手を作らないと思いますわ、仮に恋愛云々の話になるとしてもおそらくマネージャーさんがいる限りは無理ですわ。あの方以上の方を見つけないと始まりにすらならないと思います。』


 そう、結愛さんの隣にしるべさんがいる以上、結愛さんにとっての恋愛のハードルはかなり上がってしまう、しるべさんを中心に考えてしまうと理想がすさまじく高くなる為、結愛さんは結婚できないんじゃないかと日々感じています。


 後、もしも、もしもなのですがしるべさんが男性だった場合、これでもかなりまずいことになっていたと思う、今でもかなり怪しいのに異性になるとやらかすのではないと思う事がある。


・あー

・マネーちゃんは強すぎて勝負にならない

・今のところマイナス要素が少なすぎて世の中で勝てる人の方が少なそう

・最強カード切らんでもろて

・そうか安心した…ん?姉妹百合の可能性もあるのか?


『ビジネスでもよければ姉妹で仲良くしてるのも発信してくれると思いますわ、それもエンタメになりますし、わたくしがいつも見ているような自然体でイチャイチャしているのはあまり…。』


 あ、まずい口が滑りましたわ。


・あの姉妹普段からそんなにイチャイチャしてるのか…

・マネーちゃんが男だったらヤバかった

・人前でも堂々といちゃつけるのはもはや日常的にやっているとしか

・まぁマネーちゃんなら…


『えー、今のは聞かなかったことにしていただけると、わたくしがマナさんに怒られてしまいますので、これ以上負荷を増やされると流石にわたくし壊れますわ。』


・ヒェッ

・アイドルモンスターのお仕置き怖すぎる

・でもいつかはそれをやらないといけないんでしょう…?

ゆめのマナch:見てるよ

・あっ


 あっ、終わりましたわ。


『あー、わたくし急用を思い出しましたわー、みなさまー、申し訳ありませんが配信はここまでにさせていただきますー、良ければ高評価、チャンネル登録をしていただけると嬉しいですわー、それではお疲れさまでしたー。』


・急に雑になって草

・¥5000 成仏してクレメンス

・¥1000 葬儀代

・お嬢キャラがぶれてて草


 わたくし恐怖のあまり思わず配信を終わらせてしまいました、ああ…地獄の結愛さんの特訓コースとしるべさんのマッサージの天国コースの日々が再び始まりますわね…


 わたくしは終わった配信画面を見ながらため息を一つ付きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る