第33話 自立の為の足かせ

「私は勉強します」


「当然です」


「杏は私の事、五分に一回は見てください」


「何の罰ゲーム?」


「え、可愛くて抜群に頭がいい女の子のどこに罰ゲームがあるの?」


「自分でいうな」

 ひたいを指ではじいた。あうっと聞こえた。


「私は勉強する。私が大学に入学したら、今度こそ体を」

 ひたいを指ではじいた。いたっと聞こえた。


「あなたは勉強する。私はアルバイト情報誌にチェックを入れる」


「私は杏と同居出来て、大学に通っている間に何もせずに家にいてもらえばいいよ」

 最近は涼しい日も増えてきた。私はソファーで情報誌にチェックを入れているが、正面の座椅子に勉強道具とめちゃくちゃ分厚い参考書を置いている。


 なのになぜか私の隣でソファーに座っている。もたれるなチェックしづらいだろう。


「私は、大学生になって、


「大学になってのはアンタでしょう」


「そういう意味じゃないって分かっているくせに」

 頬をふくらませるな可愛いだろう。

 奥の部屋でお母さんが作業しているはずなのに気配がしない。お父さんは仕事、弟はアルバイトだ。


「今しか出来ないことってなんだと思う?」


「ゆうが東京に行く前に生活費をアルバイトで貯蓄する」


「本当に来てくれるの?」


「来なくてもどうにかして連れて行くでしょう」


「もちろん決まっているじゃないですか? 新居はどうしますか」


「その前に勉強して、奨学金を貰うんでしょ?」


「当たり前です。東京で一番住みやすい家にしましょう。大学なんて課題をやっておけば四年で卒業出来るでしょう」


「その課題は高校よりは難しい。それに油断しちゃダメだよ。足元すくわれるよ」


「その辺の高校生より勉強しているので大丈夫です。それよりどんなアルバイトするんですか?」


「日給一万五千円で交通費あり、昼食付」


「うちでいいじゃないですか」


「経験的に管理人以外の世界も見たいというか。今までお金で苦しんだけど、ちゃんと真っ当なしんどさを味わいたいんだ。それが私にとっての大人の在り方」


「楽な方がいいですよ。絶対に管理人の方がいいですよ」


「私はね、私はちゃんとした大人になりたいんだ」


「ちゃんとってなんですか。楽して稼ぐのは何が悪いんですか? 楽して稼いでそれで生活をすることのどこが悪いんですか」


 言わなくちゃいけない、言い方は考えないといけない。憤りはある。舐めるなって言ってやる。

 大人として、でもごまかしたらこの子は都合のいいように考える。この子は賢くて、私では到底敵わないけど言わなくちゃ。


「前にさ、私にゆうのお金で賭け事や遊んでもいいって言った事は本当?」


「そうなってもいいような人生設計図を作ってます。それくらい当然です。それとも一軒家も買えるくらい」


「それは嫌だ」


「どうしてですか? 杏はずっと私の事を好きで、私もずっと好き、簡単です。ずっと一緒です」


「私を舐めるな。自分の同居人があくせく働いてきたお金で、お金を得ることにあんなに苦労した女は簡単に貢がれるか。ゆうの稼ぎは私の為でもなく、私と幸せになりたい自分の為に使わないで」


「私は杏です」


「それを私の理由にしないで」

 いつの間にか私の目から涙がこぼれた。


「ごめんなさい」

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