第24話 小さな旅館
小さい。ゆうの事だから、でかい外資なんて展開になるかと思った。個室露天風呂が無くて、逃げ場所があるなんて最高じゃないかと考えていた。
「こういう小さな旅館なら二人で過ごせますよね。ゆっくりと」
はははと声が漏れた。
「一万円代って言っても駆け落ちなら、個室露天風呂の方がいいわねって予約の時に」
駆け落ちじゃないから、旅館の方のばかやろう。
「こんにちは」
「あぁ、ようこそ。この手のお客様は多いから大丈夫ですよ。あら、歳は離れているのね。それならなおさらね」
旅館の方のお気遣いの中、本当はそうではないのに、どんどん外堀を埋められている。
駆け落ちじゃないですって言ったら嘘くさい。
「この部屋です」
「ゆう、本当に一万円?」
「九千円です。初めてなので」
おい、なぜ照れる。
やられてしまうのか。この一泊二日で、私の貞操が奪われるのか。
「私の初めて、いっぱい奪われちゃいましたから、もうさしあげられる物はあと少しですね」
「あら、それはそれは」
行き倒れたあと、人間に戻したのは初めての経験だろう。抱きしめたし、写真を撮ったし、お料理コンテストもした。その意味での初めてだろう。
そう思って、隣を見た。恍惚の表情を感じた。これは終わっている。
「ごゆっくり。お食事は十八時にお持ちしますね」
そういって、旅館の方は出て行った。
「温泉に入りましょう」
「私は少し休憩したいなー」
正面でゆうはオーバーサイズシャツに手をかけた。
「お風呂でゆっくりしたらいいじゃないですか」
「お茶を飲んで、お菓子を食べて、一息つきたいなー」
「杏が言うならそうします」
なぜか私の隣にしなだれかかった。
なぜか、なぜなのか。頰は紅潮している。
シャツの中に見える胸元に顔を背けた。
「ちょいちょい。ちょっと暑いから」
「熱くていいじゃないですか? ダメですか? 今は布団を敷いてないから、少し身体は痛いかもしれません」
「お風呂! 先」
「お風呂入ったらしてもいいんですか?」
「ダメだよ。出来ない」
「何でですか? 私が子供だからですか? 触ってください」
そう言って自分の胸元に私の左手を差し出した。
「柔らかい」
「それだけですか?」
「暖かい」
「これでもダメですか?」
身体がいくら発達しても子供だ。出来ない理由は他にある。
「昔、あの男とする時に殴ってからされたからさ、もし、ゆうとそういう関係になろうとしたら、私は思い出すのが怖い」
ゆうは私の身体を抱いた。
「ごめんなさい。私ばっかりでした。やっぱりダメです。まだまだ子供だな。今回はいっぱい思い出を作りたいです」
「うん、いっぱい思い出作ろ」
それがなぜ混浴なのかは分からない。
きれいな肌だな。胸も大きいけど極端では無い。私が男子高校生なら何かがムズムズするだろう。
「杏の身体きれいですね」
「ゆうもね」
「褒めてもらえて嬉しいです」
そうだよね。女の子同士、お風呂くらい入るよね。何を勘違いしている丸田杏。高校生とお風呂に入るだけなのに何を緊張している。しっかりしろ!
「ヒノキ風呂と壺湯がありますね。もちろん壺湯に二人で入るよね」
女の子同士、壺湯くらい入るわな。
「結構、狭いね。胸当たっちゃうね。私たちが今から身体を触り合うのも、抱きしめるのも
そう言って、私を抱きしめた。
違う気がする。
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