第23話 駆け落ちみたい
さすがにお盆くらいは勉強をするだろうと思ったが、こちらが「宿題頑張ってね」と夏休み三日目に電話したら不思議そうに「宿題って一日目で終わらす物では無いですか?」と、言われた。
うーん。
「受験勉強は?」
「模試はやっと一位になりました。問題の傾向が分かったので大丈夫です」
一位か。うーん。
「何か変なことを言いましたか?」
「言ってない、言ってないけど」
「夏休みはどこかに行きますか?」
「おばあちゃんの家くらいかな、ゆうは?」
「おじいちゃんのお墓くらいですけど、昨日済ませました。杏と過ごす為だと分かればおじいちゃんも喜びます」
かなり疑問符が出ると思う。
「それでですね。もし良かったら二人で旅行に行きませんか?」
旅行に行きませんかが脳内で響いた。
いや、ダメだろ。高校生とおばさんが旅行。
聞かれるぞ、どういう関係ですかって聞かれて私が姉妹って言う前にゆうは「彼女です」って言うぞ。
夜のうちに警察を呼ばれ未成年者誘拐の疑いで逮捕だ。
「その温泉入って一緒のご飯を食べて」
「うちで温泉の入浴剤に入って、一緒にハンバーグではダメ?」
「確かに杏が好きな味を再現するのにハンバーグは必修科目です」
ハンバーグがまるで語学である。
「でもやはり海が見える温泉がいいです。もちろん宿泊で」
急に難易度がアップした。
「スーパー銭湯じゃ、ダメ」
難易度を下げないと変なことを温泉でされたら大変だが、スーパー銭湯ならまだ自制は効くだろう。
絶対にいちゃいちゃするけど、女湯でぴったり身体をくっつけ、姉妹ですともいえぬまま露天風呂へ。
でも温泉旅館でまかり間違って個室露天風呂なんて言われたら、もうイチャイチャでは終わらないだろう。隣の部屋の人に聞こえると言っても止まることは無い。それ以上を追い求めるだろう。
私の知る林ゆうはそういう女の子だ。そんなことが無い事を私は心の底から祈っている。
「その働いていないからお金無いし、やっぱりスーパー銭湯」
「お金は貯蓄があります」
「それはゆうが使うべきだと思う。私は頼れない」
「私は杏で杏は私です」
どちらも疑問を感じる。
「だから、私のお金は杏の物です。好きなだけ使いましょう」
家のお風呂も封じられ、スーパー銭湯も封じられた。受験勉強も模試で一位なら大丈夫と信じるゆうに受験勉強を強要するのは難しい。
許されて一緒に墓参りだろう。田舎には温泉はあるが、それで納得するか。これは家族の承諾を得ないと難しいし、家の行事だ。お母さんがいい顔をしないだろう。
「分かった。温泉に行こう」
「いいんですか」
いいか悪いかでいったら間違いなく悪い。
「その代わり条件がある」
「何でしょうか」
「手を出さない。寝ていても」
「えー、そのつもりだったのに」
そのつもりだったのか。括弧、寝ているうちならを上手くかわした。
「一泊二人で二万円以内。それ以外は任せる」
これで個室露天風呂も回避。貸し切りはこの際仕方ない。
「分かった」
やや不服そうである。
宿も混むだろうから明日辺りに行こうと言われる覚悟もした。どこにしようかなと言って携帯を触っている。
「まるで駆け落ちみたいですね」
旅行と言え。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます