第30話 どっちだ

 二十六歳になって今更誕生日なんて何もない。

 去年も無かったし、今年も無いだろう。


「ハッピーバースデー」

 サンタの服を着て、グラサンで白い袋を背負った女が現れた。


「間に合ってます」


「閉めないでください」


「ヤンデレ女が来たのか」


「中にあの男もいるんですか? 嫌ですけど今日は泊まりたいです。袋に着替えは入ってます」


「その学校は」


「模試でした。夕方までかかってすみません。次の科目を要求したのですが、却下されまして」

 当然である。あれは一科目を時間内に解く訓練だからだ。


「出来は?」


「ケアレスミスが無ければいいのですが、証明でいつも引っかかるので、それより開けてくださいよー」

 扉を開いた。


「これ結構恥ずかしいです。喜んでもらえましたか?」


「全然」

 ガーンって顔をした。


「クリスマスでは無いから、サンタは」


「サンタの私をプレゼントしに来ました。親御さんにバレないようにしますね。最近、いい参考文献を手にいれたので、杏さえ良ければ今夜でもあたっ」


「何の参考文献? またいかがわしいやつじゃないでしょうね」


「いかがわしくないですけど、生肌には触るやつです」


「やっぱりエッチなことじゃん」


「すっきりしますよ。し合いっこしましょう。私がちゃんと教えます。素人なのでちゃんと出来るか分からないですけど、本を見て予習をするので一度受けてください」


 ネコだと、この高校生がタチでネコが私。そういうことはせめて攻めでありたい。この子きっとテクニシャンだろうから、されるがままなんだよな。とりあえず。


「そんなこと弟の前で話さないで」


「弟さんに事前に知っておいてもらわないと、ほら誤解されるので」

 弟は既にいなかった。


「あんた何を言って」


「服の上からでも出来ますけど、杏の部屋で一発していきますか」


「ゆう、服の上って言った?」


「はい」

 そうか、エッチな事ではないのか。


「どれくらいするの?」


「そりゃ何時間でも」

 これマッサージだ。ただ今更エッチな事かと聞いてしまえば、何を考えていたのかと聞いてきて、ゆうが私にエッチと言う流れは見えている。

 出来るだけごまかして安全な着陸を。


「どれくらい勉強したの?」


「どこを触ったら気持ちいいかについてですか? それが人によっては違うらしくって、それ自体は分かっていたのです。でも杏はどこか分からないので、触りながら探らないと分からないです」


「そうか。よく勉強しているんだね、本を見て一朝一夕にできることではないでしょう。すごいね」


「褒めてくれるなら実践させてください。一階では恥ずかしいので二階で」


「今日は誕生日パーティーにするんでしょ。お母さんはゆうが来るだろうと思ってケーキ用意しているの」


「私もご一緒してもいいですか?」


「もちろんいいけど、今の話はしないでね」


「もちろんです。ちょっと恥ずかしいので」

 なぜ顔を赤らめる。エッチなのか。いやまだ確定させるのは早い。エッチで無くてもマッサージでも候補はまだある。


「そのご飯が終わった後にしてよ。私も初めてでさ」

 そうちゃんとしたマッサージなら初めてな事くらい分かるだろう。


「大丈夫です。女の子ならお互い初めてでしょ」

 もうはっきりさせよう。頭を使いたくない。


「マッサージは確かに初めてだよ」


「何を言っているんですか? エッチなことですよ」


「いかがわしくないって言ったじゃん」


「エッチは人間の営みですから、いかがわしくないです」

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