第27話 一石二鳥
「観に来てください」
大家さんは入居の予定があるらしい。行けないよ。授業参観。
「絶対に損はさせません。楽しませてみせます」
授業参観は楽しいものではない。
一時間立ち続けて面白く無い授業を受ける子供を見るくらいの楽しみしか無い。
「私なんかが行ってもいいの?」
「杏だから、来て欲しいのです。お披露目もしたいですし」
「一時間半で朝イチはちょっと春服の時は特別で」
「ラスト夏服です。彼女として見たくはないですか?」
彼女ではない。
「私が着ると絶対に可愛いですよ。見たくないですか?」
もうこんなに頑張られてしまったら、うなずくしかない。
「知り合いが行っても構わないって許可を取ってくれるならいいよ」
「いいに決まっていますよ」
前泊をしてしまった。ゆうのご飯は相変わらず美味しい。
ここで感想を聞かれて相変わらず美味しいって言ったら少しマイナスになるだろうな。だからここは。
「ゆうのご飯はいつだって美味しいね」
「いつでもお嫁さんになってもいいように今から準備しているので」
そんな壮大な話に私は乗せられているのだろうか。少し怖い。前に待てるって言われたな。
「明日は朝イチではないです。ごめんなさい騙して、制服を見てもらいたかったので、ちゃんと保護者控室があるので、朝はゆっくり行きましょうね」
「あの。ゆっくりとは」
「杏は私の夏服を見られて嬉しいし、私は大好きな杏をみんなに見せて楽しい。一石二鳥ですよね」
「そうだね。一石二鳥だ」
もうそう言うしか無い。
「じゃ、今日はお布団をクリーニングに出しているので、私のお布団で寝ましょう。二人でお風呂に入って、一緒に寝たら二人とも同じ香りになりますよね」
「今日は別のお風呂でゆっくりしたいなー」
「この前、二人で入ってお互いが寝ちゃったので、気持ちよく寝ることが出来ますよね」
そうだよね、二人とも寝ちゃったもん。
ゆうは目の前でマッパになった。
「ちょ。ここで脱がなくても」
「杏が恥ずかしがり過ぎです。早く脱いでください」
慣れない。二人で入るので裸になるのが、その他にもあまり傷を見られたくない気持ちもある。
裸のゆうに抱きしめられた。
「なに?」
「いえ。こうしてみたくなったので」
いいにおいするよな。私も抱きしめ返した。
「何ですか?」
「別にこうしたかったから」
ゆうがぐすぐす泣き出した。
「私、初めて繋がったと思います。杏は大人で優しいから一線を引いていると思っていました。私って、杏が思うほど子供じゃないですよ」
「別に子供だなんて」
「本当はちゃんとゆうと繋がりたい。もっと色々な事がしたい。でもこの姿で抱きしめて貰うのが嬉しいです。これからも仲良くしてください」
「こちらこそよろしくお願いします」
「早く入りましょう。夏とは言え、身体が冷えちゃいます。身体を冷やすのダメって杏が言ったのですからね」
お風呂は普通に済んで、ただ湯船には二人で入った。元々貸しアパートのお風呂である。
大家の部屋とはいえ狭い。狭いスペースに二人のほぼ大人。
「いっぱいくっついて、嬉しいです」
「もう出るね」
「えー、なんで」
インモラルな雰囲気がするからだ。
「タオルの場所とか」
もう覚えている。
「杏を感じたかったのに」
背後から聞こえた声、さっさと出て良かった。
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