第4話 日給一万円の簡単なお仕事

「日給一万円?」


「そうだ。家賃はかからずに生きているだけで一万円。有給休暇とボーナスをつけるよ。とは、言っても行動範囲は広くないだろう。必要になったら出て行ってもいい。退職金もちゃんと払う。確定申告もすればいい」


「その私もアルバイトで稼いでもらうより留守番をしてもらう方が安心というか」


「管理人ということですか?」


「まぁ、簡単に言うとね。お願い出来るかな? いるだけでいいからね。料理と家事は孫がするからいい。お金が溜まったらゲームなり漫画を買えばいい。とりあえず今月分の一万円」


「あの莫大ばくだいな借金は?」


「ゆう、言ってなかったのかい」


「全部が終わる前だったから」

 借金は全部あの男の元に戻ったらしい。男が怒り狂ってこのアパートに来ることが予想できたで、その手続きだけするのに私がいるらしい。


 向こうには家族がいて、もうすぐ二人目が生まれるそうだ。


「アンタは晴れて自由の身。良かったね終わりだよ」


「ありがとうございます」


「その孫が、あんたのこと、好き、らしいが」

 大家さんは恐ろしく困惑している。こっちだってそうだ。混乱している。


「杏は私の事嫌い?」


「いや嫌いとかそういうのでは」


「てことは好きってことだよね」


「ま、まぁ」


「どれくらい?」

 あれそう言えば弟がやっていたゲームにこういうシーンあったな。


「今はちょっとだけど」

 そう大好きや好きという選択肢とちょっとだけの選択肢があって、好きだよって言ったらどれくらい好きなのかと無限ループだったはずだ。大好きって言ってはダメだと知識が警鐘を鳴らしていた。


「じゃ、これから一年半でいっぱいにしようね」


「そうだね」

 というかあのゲームなんて名前だっけ。


「杏を私でいっぱいにしてあげるね。まずは携帯電話の買い替えに行こうよ」


「携帯は今ので満足しているよ」


「一緒のにしたいの」

 お金はある。それにこの携帯はあのクソと選んだものだ。


「そうだね。買いに行こうか」

 困る事は無い。なんか引っかかるな。


「明日に行きましょう。早ければ早いほどいいですよね」

 大家さんに頭を叩かれていた。


「明日はテスト」


「えー、杏さんの方が大事だよ」


「小遣いが無いと携帯を買いにいけないだろ」


「じゃ、杏さんも一緒に高校行きましょうよ」

 正直、高校生という人種は怖いので、ここはこれだろう。


「しばらくは人混みは嫌だな」


「携帯もしばらくはお休みでいいんじゃないか?」


「分かりました。食べたい物、冷蔵庫のボードに書いていてくださいね」


「テスト勉強は?」


「受けたらいつも百点満点なので」

 次の日、弟に聞いてみた。ニートなのですぐに連絡がついた。


「ニート」

「借金地獄、どうした」


 かくかくしかじかで借金と大家の娘がなんとか。


「あぁ、多分姉貴刺されるぞ」


「刺される?」


「ヤンデレってやつだ」


「それはなに?」


「主人公が好きすぎて、持ち物はみんな同じ、同じ食べ物しか食べない、依存症の愛が重い女の子。選択肢を間違えてしまうと」


「しまうと何?」


「さっきも言っただろ?」


「殺される?」


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