第39話 ずぶずぶの関係

 仲直り出来ないまま一週間が過ぎた。ゆうが買ってきた掃除機で部屋が掃除されている。気まずい。

 今日こそは謝ると思っているのに話しかけることが出来ない。土日も外に出ているということはちゃんとアルバイトに行っているのだろう。待てよ、あの娘私がいないと真面目に生きていけるのではないか。そう思ってしまった。

 これはここでフェードアウトして、学生らしい生活を送ってもらうのもいいかもしれない。弟に電話しよう。出ない。メッセでも送ろう。かくかくしかじか。


「先に謝らないとな」

 部屋の外から音がした。


「おかえり。ゆうあのね」


「へぇ、林の部屋ってこんなふうに」


「早く出て行ってよ」


「いいじゃん。その為に連れ込んだのでしょう」


「あ、あの」


「違うの」

 不倫の現場をおさえた気がしてかなり気まずい。


「この人は同じサークルの先輩で」


「伊藤と申しまーす」


「何も無くて、この人は本当に何も無いんです」


「その割には講義中もテンション低めだし、演習で当てられてもボロボロだったじゃん。お姉さんが彼女?」


「彼女というわけでは」


「じゃ、俺が林を貰うね。手始めにお姉さん、この部屋から出て行ってよ」

 そうだよな。こんなに可愛いからすぐに彼氏出来るよな。何を期待していたのか。これはこれでショックだけど仕方ない。さっさと荷物をまとめて、ゆうには普通の生活をしてもらう。これでちゃんと収まった。


「待って、本当に違うの。この人はゲイなの」


「いいよ。気を遣わなくても」


「本当なの。信じてよ」


「荷物はまた取りに来るね。いやぁ、こんなになるとは。今日はネカフェにでも泊るわ」


「待って杏」

 外は思ったほど暑くて、ネカフェに行きしなにアイスでも買おうかな。コンビニで会計をしようとして気づいた。

 無い、財布がない。カードも無い。あの部屋に全部忘れた。携帯があるのが救いだが、この携帯も中に電子マネーの類は入っていない。クレジットカードも連携していない。


 公園で朝まで時間を潰すか。


 一人でブランコをこいで酔った。滑り台の滑りが悪かった。昇り棒に捕まることすら出来なかった。

 一通り公園を満喫したが、時間はまだ二十時。今から帰ってもな。行為の途中に入るのは嫌だしな。ちょっち入りまーす。お財布取るだけっすー。とかは、人間としてダメだろう。


「やっぱりここにいた」

 さっきの伊藤さんだ。


「林と賭けたんですよ。林は週刊誌読んでいると踏んでコンビニに行って、僕はああいう人は薄暗い公園で過ごしているって」


「ハスキーな男の子じゃないのね」


「失敗しているけどゲイってのは林の機転です。林と同じですよ。もっとも経験人数はこちらが余裕勝ちですけど」


「大学でのあの子はどう?」


「同じタイプの学生もいるんでその中に含まれているから目立ってないですけど浮いてます」

 やっぱりか。


「同じタイプの学生同士も絡まないので、友達は僕しかいません」


「これからもお願いします。私は実家に帰るから後は二人でよろしくやってください」


「ダメですよ」


「なにがダメなの?」


「聞くところによると林さんはホストクラブに通って、気にいらないことがあればお皿を投げて、作った料理を叩きつけてこんな不味いもの食わせるなとか言って、パチンコで貰った景品をこれプレゼントだ受け取れって言って手を出さないと足を出すという」


「私、ホストも暴力もパチンコもしない」


「でもあの子は最終形態はそうなることを目指しているみたいです。そうやって、私がいないとダメな女の子にして、共依存でずぶずぶになる」

 やはり早々に逃げないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る