第19話 トーキョーで暮らしてみたい
「雨、止まないね」
「私は杏と一緒にいれて嬉しいです」
「アンタは勉強しないさい」
「あたっ」
何度、勉強しろと言っても通ってくる。学校では園田さんという友達が出来たそうだ。
とは言ってもゆうに嫌なことをする馬鹿はいるらしい。というのを連絡先交換した大将君が送ってくれた。
「アイツはそういう心配をかけるような事は言えない。杏さんお願いします」
そう送ってくれた。任せろ、アンタの想い人は私が守る。大将君の想い人であることを忘れていた。逃避しよう。
「杏は私にどうなって欲しいの?」
「自分の将来を誰かに丸投げする人にはなってくれないで」
「私は杏とずーっと一緒なんだよ。いいじゃん、杏の隣に立ちたいだけなの。それだけで幸せなの」
「私はゆうといたいけど、私がいることでゆうの将来が変わるなら」
「違うの、そんなこと。だって、模試も一位じゃないけど二位だし」
ゆうは全国模試三位以内と言ったら取ってくるのだ。さすがに疲れてはいたが、これはえげつない女だと思った。
私が入院していた時の大家さんの心情は少し分かる。有名大学に進学することも出来るだろう。
そんな将来性を持つ女の子がこんな田舎でおばさんの相手をしながら歳をとっていくなんて許されない。この子に距離を置こうと言っても平行線だろうから、こう言ってみるか。
「私、トーキョーでゆうと暮らしたいなー」
「東京ですか?」
「トーキョーのお店で働いてみたいなー」
「分かりました。一番で通ります。おばあちゃんが一度予備校の体験入学に行けってうるさいので来週行ってきますね」
六月の半ばにやるのか。すごいな。
結果。
「賢い子が集まるにしてはレベルが低かったです」
予備校が「ぜひ我が校で有名大学に進学するお手伝いをさせてください。模試の全国一位も」と。ゆうが「でもここで模試、全国五位が最高ですよね」と。
そう言って帰って来たらしい、ゆうが全部教えてくれた。
「そうだ。トーキョーに行きたいなー。旅行とかー、大学って見てみたいなー」
目を輝かせて、抱き着いてきた。
果たして今の言葉のどこに感極まって、涙しながら、抱きしめることがあるのだろう。
「
「未成年する気はない」
それに仮にそういう状況になった時、私にはあのトラウマがよみがえるかもしれない。裸になって、泣いて暴れるということを見せたくない。
「じゃ、大人になったら好き放題出来ますね」
「ゆうはそういう事をしたことあるの?」
「ないです」
良かった。こんな子にしたら絶対に生きて帰ることが出来無さそうだ。
「ホッとしましたか?」
「うん、ホッとした。犯罪者になっていなくて」
「何の心配ですか?」
「私にとってあなたは大切で、あなたの心身がおびやかされるのは避けたい」
「嬉しいことを言われているのに、どこか含みを感じます。大丈夫です。杏の嫌なことはしないし、大学生になっても怖いならしません。私は待てる女なので」
「よく言うよ。ホント」
「でも将来的には正式なパートナーにして、同居もして、杏には働かずに、家でゲームをして、私の稼いだお金でパチンコに行って、貰ってきた香水を投げて寄越してプレゼントって言ってもらえたら嬉しいです」
人を何だと思っている。
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