第18話 新しい友達
その姿にはゆうもあぜんとした。からを取る手を止めてまでもだ。
「ここからは俺と林の勝負だ。ラーメンはまだ時間を使う。園田」
二組の気の弱そうな女の子の肩が上がった。
「二組はリタイアで、一人くらい助っ人もいいよな。お前らが二組のアホに懐柔をされていなかったらの話だけどな」
他の審査員や役員の動き方は怪しかった。
料理をしながら見ていたら大したものだが、同じ高校の人間だから、元々見えていたかもしれない。
「園田は林を手伝ってくれ」
「そんなことで勝負が決まるものですか! お手伝いなんて必要ありません。私、一人で出来ます」
「今日はもうお料理対決は無理だ。役員は買収され、卑怯な野次馬だらけの会だ。もうここで勝負しても仕方がない」
「でも食材が」
「作るのは止めないぜ。ま、園田をそちらに置いても俺が勝つけどな」
「むっかぁ、分かりました。園田さんと一緒に勝ちに行きます」
うまいよなー、これで園田さんはぼっちにならずに済んで、この後上手くいけば、ゆうと友達になれる線が残る。
そこを変な理屈をつけて、ゆうや園田さんをいじめるのが
「あ、杏。今、大将に惚れっとしました!」
「してないよ。してない! 惚れって無い」
大将はこちらへ来て片膝をついた。
「しがない小料理屋ですが、私が継いだ後には立派な旅館にします。私と婚約してください」
「ダメです! 杏は先に私が見つけたんですから、寒い中行き倒れているところを温めたんですから」
子猫を拾った思われて仕方ない。
「杏、さん」
「しまった!」
「杏さん、私の店に来てください。親父が振る舞います」
「へっえー! 自分じゃないんだ」
「本来、俺は任されていないんだ。今日はお姉さん、いや杏さんを射止めると親父に。あー、スープを土にしてしまった」
「から取れました」
園田さんの声に周りを見た。随分と生徒が減ったのを見ると二組が嫌がらせをするのを見に来たのが三割というところか。
「申し訳ないっす。お姉さんに嫌な気分にさせて」
「ゆうがしんどくなかったら、私はいいから」
大将君に対して嫌なことを言ってしまった。
「大丈夫です。俺、諦めませんから」
どこかで聞いたな、それ。
実際、大将君のラーメンはずっと前に仕上がっていたはずだ。
うどんみたいに出汁をしみ込ます過程はラーメンには必要ないのだ。
それでも待った。待たれた方は屈辱だが、貸し一だろう。
「いただきます」
それにしては鯛のラーメンは美味しかった。
さすが小料理屋の跡継ぎ、ゆうのハンバーグはうちのとは違うが、肉の塊ではなく香草を使うのはおしゃれだ。こういうのは美味しい。
「で、勝ったのはどっちですか?」
「ゆうのハンバーグも大将君のラーメンも美味しかったけど、今日はゆうの勝ちかな」
「やったぁ! ありがとうございます」
抱きしめるのはいいがしめ過ぎだ。息が苦しい。
お母さん、今まで育ててくれてありがとう。ハンバーグ美味しかったよ。もう一度食べたかったな。弟とお父さんにおじいちゃんも強く生きてね。私は永久の眠りに。
「しっかりしてください」
はっ。
「林、さすがに締めすぎで落とすのは無いわ」
「まさかあれで落ちるなんて」
「私も生きた心地しませんでしたよ」
新しい友達出来て良かったね。
「杏、起きてー!」
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