第44話 タチの悪い客
インフルエンザから復帰し、本格的にアルバイト探しを始めた。
「出来るだけ楽で週に一回で、私が家にいる間に家にいてくれるバイトがいいですね」
ゆうが家にいるのは十六時から翌十時である。この六時間が働いていいとゆうが条件を付けた時間だ。無視しよう。
「らっしゃっしゃっせー」
あの街で私はコンビニでアルバイトをしていたので、社会復帰は簡単だった。
「あの子。また来てるね」
女性の先輩が雑誌コーナーに目をやった。もうそろそろ暑くなってきたのにニット帽とマスクの女。
「そ、そうですね」
震え声でごまかそうとしてももう察されているだろう。ゆうである。
要求された時間を破り、十六時以降もバイトをしている。週三日で教育の必要は無くて、時間の融通がきく。夜勤以外のどこでも使える。
「あのお客様」
不審な人物の責任は取れと先輩に肩を突かれたので、仕方なく声を掛けた。
「雑誌コーナーでの物色はご遠慮ください」
すると目の前の女はわざと低い声で「どの雑誌を買うか悩んでいただけです」と。
「それにしては一時間は」
「杏。まさか時間を…。ゴホン、お姉さん可愛いですね」
「ナンパはご遠慮いただいております。ご退店を」
杏いやお客さんの後ろから強面な店長が出てきた。
「私は杏に会いに来ているだけです。万引きなんてしていません」
「それで丸田さんは?」
「毎回来られると非常に邪魔です。帰ってください」
「ということなので、退店してください。あ、駐車場で泣き崩れても他のお客さんに懇願しても近所の子供の代わりにモンスターカードをパシられても。絶対に入れませんからね」
大学生なのにモンスターカード、パシられたことあるんだ。
「お願いだから帰って、お願い」
すると目の前の不審者が急にご機嫌になり出した。
「杏の頼みなら、いつでもどこでも従います」
「もう来ないでね」
ガーン。そんな声が聞こえそうな表情だった。
「なんでですか? 私、邪魔してません」
「君が店にいる間の客入りが極端に悪い、常連さんにも苦情を言われている」
「私はそんなつもりはありません」
「このままでは丸田さんには他店に行ってもらわないと困る」
「どれくらい離れて」
「青梅」
えらいふっかけたな。二時間弱はかかるぞ。
「しかも夜勤」
「そんなのアルバイトの条件に合ってません」
「それならここはクビ。クビも重なると社会的な信用はどんどん落ちていくからな」
「構いません。私は杏の社会的信用が落ちても、仕事を辞めされられて酒に溺れても構いません。なので、是非クビにしてください」
さて、ここで警察を呼ばれて連れて行かれるが五回、店長に摘み出され続けるのが八回、駐車場で泣き崩れるのが六回。尚、五回とも伊藤さんに行ってもらった。
これほど積み重ねると犯罪である。迷惑なのでやめて欲しい。こんなに熱が入ると効かないだろうな。でもやってみよう。
「同居人がー、働いているのをー、邪魔する人嫌いだなー」
「別に邪魔なんて」
「コンビニにー、居座ってー、お巡りさんや駐車場でー、駄々こねる人ー、大嫌い」
ガーンって表情をゆうはした。
「その大嫌いはどうしたら大好きに変わりますか?」
なんだ。最初からこうすれば良かったのか。
「いつも迷惑なお客さんではなくてー、来るなら短時間で、早く帰ってくれる方がいいなー」
次の日、店長の顔色が悪かった。
「丸田さんがいない時にあの子が履歴書持ってきてね。これくらいの経歴があるとで雇ってもらえますよねって、断ったけど」
乾いた声で、はははと漏らすしか無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます