第43話 好き放題されてしまう

「で、何でついてきてんの? 


「そんな殺意向けるなよ。今回は丸田さんにお誘いを受けましてね」


「ホントなの? 杏」


「やっぱり友達は必要かなって思って」


「杏、私の事は気にしないでください。友達なんて必要ありません。杏だけでいいの! そんな気遣いはいりません」


「いや、私に」


「なんで、なんでこの女に! しかもバイですよ」


「大丈夫。他の人の物は取らないよ。他の人の物のうちはね」


「杏を盗ったら殺す」


「大丈夫だよ。私はどこにもいかないよ」


「そう言って他の男の元に行った女の子を私はたくさん知っているよ」

 ゆうは静かに伊藤さんを睨んだだろう。チラリと見てとても怖そうなので、私は目を背けた。


「まぁ、それほど男女や女女の関係性だとあっけないものですよということを言いたいの」


「私は絶対だもの」


「そうやって夢見ているうちは絶対って言えないよ。て、丸田さん今日はどこに行く?」


 伊藤さんは手を絡めてきた。これはエロい触り方だ。ぐぬぬ、これはいけない。これは道を踏み外すかもしれない。


「ほら、丸田さんは正直だよ。女の子の手を触られたこと無いんだね」


「違う。こんなのじゃなくて」

 明らかに好調する顔。予想外の二人目の百合。このままでは私も染められてしまうかもしれない。


「そんな顔赤くしないで! 私以外の女で」


「そうやってノロノロしてるから、杏さん。杏を取られるのよ。林は手を出すのが遅かった。それだけだ」


「杏を返して、杏は私の物なんだから」

 ん? これかなり恥ずかしくないか? その女の取り合い? ダメだ。ボーッとする。


「杏、今からホテル行こっか」


「ホテルには行かせません! 私が行きます」


「家の方がいい? 他の女の子のにおいするから、ホテルの方がいいよね」


 断らないと、このままでは最近出てきたばかりの女の子に好き放題されてしまう。それにしても体の自由がきかないな。ボーッとする。


「あれ? 杏。しっかり! 杏」


「あらら」




 目を覚ますと伊藤さんがいた。


「あれ、ゆうは?」


「だとさ、良かったな。林」

 抱きしめられる感覚は無かった。マスク装備のゆうが部屋の中に立っていた。よく見ると伊藤さんもマスクをしている。


「今からお医者さんに行きます」


「はい」


「このご時世なので、検査をしてもらいます。それと杏が伊藤さんに抵抗できない状態だったのは確実に発熱のせいなので」


「そんな悔しくてたまらないって顔しなくてもいいよ」


「杏。私と伊藤さんのどちらがいい?」

 うるさいな。病院には早く行きたい。


「ほら、そんなにうるさくしたら杏が可哀想だよ。早く荷物持っていくよ」

 検査の結果、インフルエンザということが分かった。


「杏。私ならちゃんと看病してあげるよ。こんなピーピー鳴くだけの女のところで過ごすのは神経使うよね」


「私は杏の事を一番に理解してます。ぽっと出の女に預けられるはずが無いですよ。杏にとっての女の子ってどっちですか?」


「そういうの怖いよ。ほら、杏の顔色悪いよ」


「むっふぅ。顔色悪いのはインフルエンザだからです。本当に迷惑なので帰ってください」


「分かった。今回は引いてあげる。さっさとお粥食べさせてあげなよ。作ってあるから」


「あなたが作ったのはゴミです」

 このままではお粥が無駄になる。


「私ー、食べ物ー、粗末にする人ー、嫌いだなー」


「温めて来ますね」

 ゆうは部屋を出て行った。伊藤さんは私の耳元で囁いた。


「早く決めてあげなよ。どちらも傷つくよ」

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