第42話 私、怒ってます

 休暇の終了と共に、ゆうの土産話を聞かされた。キラキラとした目で語るから無げに出来ない。



「杏は私とどこに行きたいですか?」

「ゆうの行きたいところに行きたいな」

「本当ですか? この家で満足なら、きれいなホテルに行きましょう」

「へぇ、どんなところだろ。楽しみだな」

 とうとう同居人が人形遊びを始めた。




「これはロールプレイです」


「聞いてあげる」


「いいですか? 旅行の後から杏は私に冷たい」


「そうかな」


「お互いが気持ちをぶつけ合えない。これは倦怠期。こういう時こそ新たな挑戦を」


「して酷い目に遭ったら嫌いになるよ」


「うわぁーん、杏との新婚生活がこんなだなんて嫌だ」


「まずは結婚してないだろ」

 頭をチョップしたら、あたって音がした。


「そのうちするもん。いつかすごく魅力的な女になって、絶対に迎えに行くもん」


「期待してるねー」

 結婚ね。他の男女と肉体関係を持つつもりはないけど、本当に向いているのかね。結婚ってやつはさ。


 一人の女に全てを捧げる。そんな人生は私にとっては遠くて、遠いままでいいじゃないか。誰かの為に生きるなんて私に向いてない。


 ゆうのとてつもなく夢をみるような結婚生活は永遠に訪れない。私とは訪れなくても他の子と訪れればいい。


「私の他に好きな女がいるのですか?」

 今、5℃くらい気温が下がった。


「いないよ」


「へぇ、でもこの前通りのラーメン屋さんのお兄さん見てましたよね」

 見てました。

 ちょっとあの筋肉いいとか思ってました。男だからセーフ。


「男だからセーフだと思ってませんよね。何回も言っていますけど私は待てます。他の男と女がいなければの話ですけど」


「いやー、ゆうほど魅力的な女の子いないなー」


「ホントですか?」


「う、うん」


「本当に男の子は好きじゃないんですか?」

 目を逸らした。だってここで宣言したらズブズブじゃん。



 これは悪手だ。 

   


 何で否定しなかった。これでは私がまるで男の子の方が好きだって話じゃないか。

 いや、そうなんだけども。


「あの筋肉を手に入れればいいですか?」

 筋骨隆々のマゾヒスト百合ヤンデレ。うーん、アウト。


「筋肉ついたらー、柔らかいところー、減るなー」


「柔らかくてモチモチの私がいいですか?」


「そりゃー、そうだよー。柔らかいゆうの方がー、好きだなー」

 なぜか分からないけど涙で濡れた顔で抱きしめられた。


「やっぱり杏の事は大好きです。私を肯定してくれて、好きだと言ってくれるなんて、私もだーいすきですよ。でも」

 また下がった。今度は10℃くらい。

「許すのは今回だけですよ。そうだな、アルバイトも男がいるところはダメです。近くの中華料理店は男いないんですよ。時給も良くてシフト制で週に一回でいいのですよ」



 そうだよね。人の話は基本的に聞かないもんね。こういう性格の人は大体そうだね。


「私は中華料理店で働くよりー、適性を見つけたいなー」


「適性ですか?」


「うん。将来ゆうと対等になる為にー、色々勉強したいなー」


「そんな私はパチンコと競馬のお金を稼ぐ為に」

 今度はこちらが下げる番だ。


「あのさ。分かっていないようだから言ってあげるけどさ、私は人にされて嫌な事はしないって言ったよね? 分かってる? 知っているよね。前の男、好きなように拘束してギャンブルして、働かせて」


「いや、あの」


「私はね。精神的身体的拘束をする奴だったりギャンブルしてパートナーに金品を強要したりする人嫌いなの。分かるよね?」


「はい申し訳ございませんでした」


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