第41話 休暇
ゆう達が海外に飛びたった間に私も旅行に行った。ゆうは二週間、私は二泊三日。伸び伸び出来た。こういう一人旅行はゆうがいると行けないから丁度いい休暇になった。
部屋に帰ってもゆうの保存食を食べつつ、自分でも作ってみた。ゆうの料理とは違う意味で美味しかった。失敗もたくさんしたけど、ちゃんと食べた感じがした。
一人プラネタリウムも一人映画館も気ままに出来て楽しかった。
本当に東京について来て良かったのだろうか。私は実家にいたころの生活が懐かしかった。
自由にお金を稼いで、安心出来てそう頭も使わなくていい。ただ待っているとプレッシャーをかけられる生活、どこかそんなはずでは無かったと思っているところもある。
「十分な生活はもう自分でも掴むことが出来るもんな」
携帯が鳴った。先日、連絡先を交換した伊藤さんだ。映像だった。
「あーん、杏。会いたいよぉ。帰りたい、日本に帰りたーい」
まだ四日目だ。合宿は二週間も企画した。
「ということで林が企画した海外合宿もまだ半分行ってません。送り返しましょうか?」
メッセを送った。
「ゆっくり合宿を楽しむように伝えてください」
電話がかかってきた。
「杏、私がいない間。何しているの?」
「温泉旅行に行って、自分で料理作ってプラネタリウム鑑賞している。今からテント組み立てる」
「寂しくない?」
「ちょっとは」
「伊藤さん。私は杏に必要とされています」
「それにしてはかなり一人生活を満喫されているみたいだよ」
「私はいらない子?」
「毎日一緒だと新鮮味が無いというか、このまま帰って来ないと少しは寂しいというか。結局のところ」
「別居ですか?」
そう言いたかったけど、多分そうなったら通い妻になって、現状と変わらない事態になりそうだ。
「私はー、ちゃんとー、生活費を稼ぎたいなー」
「そんなの私のバイト代で」
「働いて稼ぐこともしたいなー」
「だそうだ。林、良かったな良心的な彼女で」
「やだやだ。私抜きでは何も出来ない女の子に仕上げたいのに」
「だそうです杏さん、いかがでしょうか」
「ドン引きです」
「というわけであと一週間と三日。ちゃんと捕まえておくので、ゆっくり生活をしてください。何、いやいやあんたのターンは終わったの」
「杏、私は明日帰るので出来るだけ部屋を散らかせておいてください」
「最初に宣言したことをー、出来ない子は嫌いだなー」
「この苦行耐えてみせます」
「仲間との合宿を苦行という人ー、苦手だなー」
「楽しい旅行を全力で楽しみます」
「扱い方、上手いな」
向こうで小さく伊藤さんがつぶやいた。上手かったらこの状況になってないんだわ。
「明日は?」
「凱旋門です」
「写真撮ってきてね」
このあとこれが災厄を生む。
「二週間分の日記をつけて帰国しますね」
うわぁ、読むのに一ヶ月くらいかかりそう。
「日記は教材なので、聞いて欲しいのは生の声ですね。眠る前の一時間、旅行の思い出まみれにしますね」
うわぁ、一ヶ月あっても終わらなさそう。
「楽しみ、だ、なぁ」
「いっぱい思い出作ってきますね。ちゃんと全編書いて、もちろんディレクターズカットしてお話しますね」
帰国後、空港まで迎えに行くと荷物をほとんど持っていないゆうに嫌な予感がした。
「荷物? 家に送りましたよ。ちゃんと時間差で、だって一気に送ると思い出が混ざっちゃう。一先ず私の部屋に置いて、明日からゆっくり講義しますからね」
メンバーからのあわれみの目に、はははと漏らすしか無かった。
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