第35話 一緒に来ますよね。来ますよね。

 卒業式に来てよ。

 さて、二十六歳になったフリーター猫背女が行っても捕まらないのか。どうだろう。見て感じたゆうが私に。


「もし、杏を捕まえようとしたら、私がそいつを殺します」

 罪もない人がまた死んだ。入試が終わってすぐに大家さんと東京に行って、何故か2LDKを借りたそうだ。大家さんに「迷惑をかけるね」と、私の家族の前で言われた。


 ゆうは大家さんに「最初は二人でそれぞれ使って、最終的には物置にしても」と。


 ゆうはドヤ顔だからいいものの、私はどんな顔をすればいいのやら、分からない。


「それでアンタ行くの?」

 お母さんに言われたが、私はこういうしか出来ない。


「そのつもりでアルバイトはしたけど、常識的に可能ならば」



 丸田家、みな悩む。



「ま、まぁ。林さんがおっしゃるなら、ただ寝て生きていただけでは無いし、杏が行きたいなら」


「そうね。杏が行きたいなら」

 両親は不安はあるが、ゆうの意見に賛成した。


「私達、監視おとなの目が無くなったら、灰皿を毎日投げつけてくれたら、私毎日ガーゼ貼って大学に行くね。みんなには愛の証って言うから」


「姉貴、そりゃねぇよ」


「違う。本当に違うから、この子に触ったことは。。それにそんな事は絶対にしない。されて嫌だったことは絶対にしないからね」


「ごめんなさい。ということは大事にしてくれるんだ。すーごく嬉しいな」

 今、踏まなくていい地雷を踏み抜いた。そうか、あのDVのフリは全部この日の為に。



 そして冒頭に戻る。



「杏、卒業式来て、お願い」

 甘い声でしなだれかかりながら言われた。


「私のお母さんは無理でも私のお姉ちゃんだったら、おばあちゃんも納得すると思うの」

「最後の制服を見て欲しいの。それを家で『もう使わないだろう。もう制服なんて要らないよな。破いて身体は私の物にしてやるよ』って言って貰えてもいいくらいの覚悟は出来ています」


「前から思っていたけど、そんな高望みされても困るよ」


「え、でも今まで手を出さないということは無理に欲望を抑え込んでいるからですよね。その欲望がどんな感じに反動が」


「私、別に欲望ないよ」


「え、今まであんなに誘惑したのに。女の子に興味持ててないのですか?」


「申し訳ないけど」

 考えている。


「病院で手を触った」

「よく覚えているね。あれは体調検査」


「強く抱きしめられましたし、お風呂も入りました」

「あれは必死だったし、ゆうにとってお風呂はイベントなんでしょ?」

 頰を膨らませるな、可愛い。とても可愛いから止めろ。



 ごほんと咳払いが聞こえた。



「時に仁、これは何エンドだ?」


「一応ハッピーエンドだけど、大学に入って他の子に両方が行って、林さんが姉貴から目を離したら、まだいいけど、林さんの目が姉貴に残ったままだったら心中か死ぬ」


「大丈夫です。私の心は杏の物です。待てる女なので、遊びなら他の子の方に行ってもいいです。


「ま、まぁ。林さんがおっしゃるならそうなのだろう」

 お父さんの顔はかなり固い。もちろん恐怖だ。


「行って来なさい。卒業式でも東京でも。心が離れたら実家でまたバイトもありだ。林さん杏を大切に守ってくれてありがとう。でも、一番は君の人生だよ」

 そうお母さんは言った。


「邪魔にはなりませんよ。私はいつでも杏の物なので」

 キョトンとして、ゆうはお母さんに返した。わざとかそうでないかにしろ、この女はそういう女だ。

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