第9話 私のこと好き?
「杏は私のこと好き?」
「どうかな、異次元過ぎてついてけない」
「あんなことあった後に聞いてごめんなさい。そうですよね。考えること出来ないよね」
「手を出して」
戸惑うゆうに手のひらを差し出した。
「おいで」
「失礼します」
「冷たいね。ひんやりしている。ダメだよ。手を冷やしたら体も寒くなっちゃう。冷たい作業ばかりしていると痛い目に遭うよ」
「杏の手は暖かい。柔らかくて触り心地がいい」
「いつも冷たいのに不思議だね。ゆうの手が冷たすぎるよ。ちゃんとお風呂入ってる?」
「シャワーだけ」
「お風呂に入りなさい」
「面倒だよ」
「お風呂に入りなさい」
「光熱費が」
「女の子はちゃんと温めないとね。入りなさい。いい?」
素直にうなずいたゆうがとても可愛く思えた。主導権を握ったようで少し気持ちがいい。
「早く帰って来てください。一人でご飯食べても楽しくないです。特におばあちゃん一緒でも嫌です」
「大家さんすねちゃうよ」
「早くお腹治してください」
もう夜といっても差し支えない時間だった。
「勉強があるだろ。帰れ帰れ」
「予習だって完璧に」
「それなら、もっと完璧になりなさい。それで賢い大学に入って私を養ってよ。養うのは嘘だ」
けどを言わせてくれなかった。唇に触れるくらいの優しい口づけ。
「私が杏のことずーっと養ってあげるからね。その為に私は勉強を頑張るよ」
帰るね。言うが早いが病室を後にした。
私のたわいない一言で一人の少女の人生を大きく変わったかもしれない。困ったな、大学生に養われるおばさん。
アイツらどうなったか聞きそびれたな。その場で捕まっていたらいいな。ゆうのいない病室がなんだか静かで寂しかった。
とっくの昔に面会時間は過ぎていた。
暇な時にはどうでもいいことを思い出す。今日は私の誕生日。
お母さんに連絡しても余計な心配をかけてしまうだけだ。前の部屋に荷物が届くかもしれない。
お母さんごめんね。娘は弟と違って交際でしくじって腹を刺されて病院だよ。ニートの方がマシだもん。子供部屋おじさんの弟の方がいいよ。怪我って紙で指切るだけでしょ。
私はどうなるのか。これまで通りゆうに衣食住の世話をしてもらって、ずっと月に一万円貰う生活を続けるのかな。
そんなおばさんいないよな。今の生活は楽だ。男が捕まっているなら、買い物も自分で行く事が出来る。
ゆうはいい子だ。優しくて可愛い。絶望的な真実、それでも彼女に恋愛感情を抱かない。可愛い大家さんのお孫さんだ。
ゆうはきっとその先を大きな希望を持って待っている。いつか自分の事を好きになってくれると信じている。そんな日は絶対に訪れないのに。
「え? 好きになられると困る異性? 何で私に聞くの? まさか」
担当の看護師さんに聞いた。
「聞くことの出来る同性が」
「なるほど、私なら適当に付き合って搾り取った後に好きな異性が出来たって言うわね。血圧から測るわね」
それが出来たらこんなに悩まないんだよ。
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