第21話 神様がいてくれたらのお話

 カメラには電池残量は無かった。撮ろうとして気がついたのだが、私のせいで二時間後になったのは申し訳無かった。携帯は家に置いてきてしまった。


「私の携帯で撮ろうよ。自撮りだよ」

 すごいな今時の女子高校生はこんなに腕を伸ばして撮るのか。


「これを杏の携帯に送るね。完了」

 ゆうは腕を広げた。


「なに?」


「抱きしめて、さっきみたいに」


「あれは特別だよ」


「ん!」


「あれはだから」


「ん!」

 すっかり尻に敷かれている。


 そっと優しく抱きしめた。


「そういうのじゃなくて、こういうの!」

 強く抱きしめられた。


「いや、その」


「さっき私は深く深ーく傷つきました。大人として女子高校生にちゃんとお詫びをしないといけません」


「強く抱きしめたらゆうが潰れちゃうよ」


「さっきはあんなことしたのに」

 抱きしめただけなのに何で意味深に言うのだ。


「ごめん」


「早く」

 少し強めに抱きしめた。


「もっと」


「いや」


「もっと強くないと心が癒されません」

 少し離すとニヤニヤしているゆう。


「普通に機嫌直っているじゃん」


「いえ、私は顔は幸せですが心は深く」


「さっきのが特別です。繰り返すと幸せはその時より薄くなりますので、幸せの多量接種はダメです。なので、今はこれくらいで」

 可愛い顔するよな。涙が一筋垂れた表情に慌てた。


「ごめん。私の言い方が」


「杏は可愛いよ。一つずつ成長していこうね」


「私はこれ以上大きくならないよ」


「そういうことじゃないって大人なんだから分かるでしょ」

 つい顔をそむけた。少し横目で見るとゆうの顔も赤い。


「一緒にね。ゆっくり」


「あと二時間弱どうしよう」


「次が最終か。家に着くの遅くなるよね」

「泊まる?」


「うん、お風呂は一緒だよね」


「今、そういうのはダメです」


「私の心は深ーく」


「それはさっきので終わりです」

 神様、お願いです。こうやってくだらない話をして、時間を殺している女の子をもっと幸せにしてあげてください。

 私なんかじゃなくて、もっとカッコよくて、お金を持っていて、性格がめちゃくちゃいい男の子。私ではどう頑張っても敵わない。そんな男の子。

 大将君でもいいです。大将君はダメか。ゆうは嫌そうだし、この話題を出したら今度こそ、いやいい。その方がゆうの幸せへは早い。



「杏、どうしたの? 悲しそうな顔して、変なこと考えているでしょう」

 でも、ほんの少しこの数分は私の物にさせてください。神様が本当にいればのお話ですが。


「帰ろ。私たちの家に」


「私の家であって、あなたの家ではないけどね」


「そのうちなるもん。でも東京に出たら愛の巣が出来るね。家はどんなの飾る? 洋室がいい? 私は和室がいいな。ベッドは一つでいいよね」


「布団で寝たいな」

 神様お願いです。幸せな未来を。


「じゃ、布団は一枚しかいらないよね。杏の寝顔はもちろん撮りだめていいよね。一番容量の多いパソコンを買わないとね。写真フォルダーの名前はどうしよう」


「それは私にバレてはいけないのでは?」


「大丈夫。杏が目を覚まさない時にするから」

 神様、冗談です。幸せな未来が来る前に何かを盛られてしまいそうです。

 さっさと私じゃない人にゆうをあげてください。



「また難しいこと考えている。何をそんな真剣に」

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