第50話 ゆうの両親

 朝、家まで来るかもと思っていたが、家を出ようとした時にも来なかった。


 お父さんが車を出してくれた。大家さんが駐車場の手配をしてくれたようだった。恥ずかしいかったことも、ドキドキして楽しかったことも、そうでは無かったことも両親に話をした。


 お父さんとお母さんは笑わず怒らず聞いてくれた。


 電車なら二時間が車ではすぐだった。お父さんが車を止めている間、大家さんに挨拶をしに行った。


「苦労をかけたね」


「そういうところも含んでだったので」

 お母さんがその節はと話し出したところで、お父さんが駐車場のお礼を大家さんにした。


「もう用意出来ていると思うから、入っていてください」

 親を呼ぶ話では本来無い。

 二人で膝を突き合わせてする話だ。

 きっとゆうは好きだと言って上手く言いくるめてしまうだろう。


「こんにちは」

 部屋に入ったら奥からスリッパの音がした。


「こんにちは初めまして林ゆうの母、富子と申します」

 背の低いお母様だった。


 遅れて奥から「父の三郎です」と逆に長身のお父様が現れた。


 私たちはそれぞれ自己紹介と挨拶をした。

「あなたがその、上がってください。お茶淹れますね」

 ソファにゆうが座っていた。


「杏、久しぶり! 弟さんどうだった? ずっと会いたくて布団に潜り込んでいたよ。久しぶりのチューは?」

 察したのか。抱きしめられようとした腕を下ろした。


「終わりなの?」


「アンタの悪い癖よ」

 お母様に背中を叩かれた。


「お別れなら先に帰って、おばあちゃんに伝えて私達のところに放り込むわよ」


「まだ恋人って思ってくれるの?」


「そうやって真実を見ないふりして、話を勝手に進めないの。旦那がお茶を淹れているうちに話をしましょう」


「私はゆうさんとパートナーになるつもりはありません」


「え、そんなの今決めなくてもいいよね。これからゆっくり考えてちゃんとお互い話をしながら」


「私は昔、ひどい男と交際をしていました。稼いだお金はギャンブルに使われて依存して、暴力を振るわれて、借金を使われて逃げられました。大家さんに借金を全部男に持っていって、ご存じの通りゆうさんは誘拐されて酷い目に遭いました。その節は本当に申し訳ございませんでした」


「あなただけのせいでは無いよ。男が悪い」


「あの日から私は美味しいご飯を自分で作って食べて暖かい布団で眠るようになりました。ゆうさんが支えてくれたお陰で私は立ち直る事が出来ました」

 私は息を吐いた。一気に言うのは中々難しい。


「私は依存しない。精神的に束縛されない。お金も自由に稼げて自分の為に使える生活をしたい。今の生活だとそれが叶わない」

 ちゃんとゆうの目を見て言わなくちゃいけない。


「今の東京の生活は楽しいですけど、このままでは私は依存し合い、金銭的に余裕があると言われて束縛され、将来も期待されています。何度も態度に出しました。その度に待てると言われてもプレッシャーがすごくて」


 この日の為に最後にどこへ落とし込むか。悩んだ。これは東京にいる間もずっとだ。この為にゆうの両親は帰って来てくれた。


「ゆうさんは東京で、私はこっちで生活をしていきたいです。ゆうさんとは離れて独立して暮らします」

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