第49話 お見舞い

 帰って来れた!

 この感動は何にも変えられないだろう。弟ありがとう。骨折だけで済んでいるといいね。


「杏、アンタ。おかえり」


「久しぶりに一息つけたわ」


「大家さんに電話しておきなさい。じゃないとすぐに来るわよ」


「ゆうには家族水入らずでって」


「私も将来の家族ですって」

 お母さんよく分かっているな。


「大家さんに連絡して、ゆうちゃんが東京から動けないようにしなさい」

 連絡すると冷凍食材を送るから東京にいるように伝えた上に、海外の母親を東京に派遣するから一先ずはということだった。


「それで仁は」

 お母さんはため息をついて、少しうつむいた。


「それが車の前に飛び出す女の子を止める為にね」


「まさか自殺の」 


「肩をつかもうとしてスカート掴んじゃって、スカートがスコーンと」


「あらまあ」


「振り返った女子高校生に殴打され、車道に押し出されて車にひかれたの。お相手の方がタクシーをつかまえようとしていて、急な事でって」


 勘違いした弟が一番悪い。


「親御さんも経緯聞いて納得してくれて、示談金も手に入って一件落着よ。大変だったのよ。安心したらいいのか恥ずかしくなるのが正解かって」


 気持ちは分かる。その状況はかなり嫌だ。


「お見舞い行く? かなり痩せたわよ」


「何かの病気?」


「ゆうちゃんにボロボロに言われてダイエットしたのよ。ゲームは相変わらずだけど、仁もちゃんと生活しているわよ」

 退院したら家を出ていくようだ。


「枠が空くからここで暮らしてもいいわよ」

 前向きに考えておこう。大家さんから連絡が来ていた。後で掛け直そう。


「ヤンデレ娘は来ていないのか」


「アンタが重病だと匂わせて出てきた。で、どこ骨折したの?」


「分かるだろ。両足と右腕だ」


「内臓は?」


「最近ついてきた筋肉が守ってくれた」


「確かに健康的よね」


「俺だって色々変わらないといけないと思ってさ」


「私、東京に帰りたくない。次のステージに行きたいゆうが少ししんどい。最優先にされるの重い。何かしなくちゃと思う自分が辛い」


「全部は分からないけど分かるよ。この女の子は友達でいたいと思うのに、病みだすと君もそっち側なんだって思って悲しい時があった。ゲームも現実リアルも嫌になるよな」


「アンタさ、好きな女いる?」


「林ゆうが好きだよ。生理的に無理だと知った時はすごい悲しかった。でも林ゆうのお陰で痩せたんだ。この恋は最高だったよ」


「そっか。私がというより、あの子が来て良かったのね」


「いい子だと思うよ。姉貴はおばさんじゃない、広く見たらまだ姉貴を大切にしてくれる人なんて無数にいるよ。枠が出来るから帰って来いよ」


「今初めて、アンタがいい人って思えたわ。ありがとうね」

 病室の外を臨んだ。今日は夕方から雨らしい。病院のロビーに出た辺りに大家さんに連絡をした。


「ごめんね。弟さん大丈夫?」


「かなり重傷ですが、生きてました」


「あの子の両親があなたに会いたいって、ゆうといっしょに」

 愛が重い気配がした。


「あの子の親は病んでないわよ。ご迷惑じゃなかったら一回って」


「分かりました。私も家族に全部話して来てもらいます。いつまでに」


「明後日までに電話をくれたら」


「分かりました」

 家に帰った後、長い長いこれまでを両親に話した。









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