第11話 熱愛
「申し訳なかったね」
「本当に困りました」
「こっちとしても困ってるの。ほら、あの子勉強出来るでしょ? 三回模試やって満点取れなかったら会わせないと言ったらちゃんと満点取ってくるし、スポーツテストで五位以内取れって言ったら三位は取ってくる。彼氏を作ってこいと言ったら駄々をこねて、杏以外と付き合いたくないって」
想像が出来る。
「あの子が出禁になって困るのは私もなの。フードストするのよ。老いた体に片方は食わないとはいえ二人分で包丁はキツイわよ。お願いだからすぐに帰って来て、本当にお願い」
大家さんが帰ると病室のメンバーは途端に優しくなった。カッコいいリハビリの先生を紹介してくれ、院内井戸端会議を紹介してくれる。
「この子は悪くなかったの。あの高校生の女の子が暴走しちゃった結果だったのよ。何さんだっけ」
「ゆうちゃんです」
「そうそのゆうちゃんの愛が故の。で、どこまでしたの?」
「どこまでとは?」
「あの子のあの暴れようを見た夫が最後まで致したくらいの絆の暴れようだって言ってね」
その夫のバカヤロウ。
「高校生相手に何もしてません。それくらいの分別はつきますよ」
とても苦々しく答えた。
そのうちそういうターンが回ってきそうだ。
「でも、ゆうちゃんはそのつもり見たいよ? 警備員さんにこう言ったって」
「ここで私の邪魔をしても杏さんは私を選んでくれます! あんなことやこんなことを」
熱愛よね。
そうお姉さま達は笑っていたが、私の笑顔は引きつっていたと思う。
こんな大きな病院だと通う人も多いだろう。入院費の計算に行くと一体何人にうわさをされるだろう。
恥ずかしくて身震いする。
「退院はいつなの?」
「再来月の中頃に」
「雪が舞うのをよく見えるわね」
「そのゆうが誕生日でプレゼントは何がいいかって迷ってて」
「赤いリボンかけて、私がプレゼントとかしちゃいなさいよ。そこまで見せたら本当に大変そうなことになるわね」
クスクス笑うお姉さま達に洒落じゃないって心から叫びたかった。
リハビリをするのはほぼ運動不足の影響だったので、終わりは見えた。そんな時、事件は起こった。
むしろ遅過ぎた部類だ。お母さんの登場である。前の家に乗り込んで大家さんから聞いた病院に踏み込んできた。
同棲していたこと、付き合っていた男に刺されたこと、借金を背負っていたこと。何と無くは危機感を持った弟から聞いた上で、全てを白状させられた。
「だから、私は一人暮らしに反対だったのよ。退院したら帰って来なさい」
「嫌だよ。向こうでてきとうな男を用意されて結婚するんでしょ。そんな人生嫌だ」
「もちろんすぐじゃないわよ。仁を追い出すのが先よ」
弟よ、ざまぁみろ。
「とにかく歳が明けたら帰って来なさい。世間体程度に挨拶して引き上げるのよ。お母さん先に帰るからね」
お母さんが去った後に部屋の面々が「再来月末まで引きずっちゃダメだよ。じゃないとアンタ後悔する」と。
何か言い返そうとしたら、いつのまにか来た消灯時間に各々は眠りについた。
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