第6話 選択肢

 ゆうは普通にお風呂を上がって、寝室に入って行った。なんだ気にし過ぎなのか私も普通にお風呂に入った。お風呂の中にも何も無かった。お風呂戦線異状なし、敬礼する自分が恥ずかしくて、体を洗って湯船に浸かった。


「こういうのが幸せなのよね」


「温かいお風呂、温かいご飯、温かいお布団。これがあれば私は本当に幸せなわけ、何か特別とかってのは私の最低限には入らないわけ」


 普通ならお風呂に何も仕掛けられていないことを想像するが、ゆうの事だ。もし聞いていても大丈夫なように、ちゃんと布石を打っておこう。本音でもあるのだ。


「幸せだな。そのうち自立して自分だけでもっと幸せになるのよね」

 寝室に入ると、スースーと眠っていた。疲れたのだろう。


 ふと、どうしようと思ってしまった。いいのか、こんなに幸せな生活を送って、突然崩れてしまったら、私はもうどうにかなってしまいそうだ。

 もし、あの男が仕返しにやって来たら、その時はこの女の子は守らないと、だってこの子はまぁ、若干愛は重いかもしれないけど、関係ないもの。


「杏」


「起きていたの?」


「うーん、杏。大好き」

 まだ分別もついていない子ども、どれだけこの子が背伸びをしても私には敵わない。


「私も好きだよ」

 ほっぺをぷにぷにすると少し微笑んだ。

 私もゆうの顔を見ながら、すっかり寝落ちてしまった。しっかり湯冷めをしてしまって、ちゃんと風邪引いた。

 きっとゆうの事だから、起きて幸せなのか大変なのかどうなのか。パニックになっただろうな。


「ダメだよ! 杏は私が看病するの!」


「バカ言っているんじゃないよ。学校行かせるのを条件に住まわせているのだからね」

 プーっと頬を膨らませる女の子ってまだいるんだよね。


「杏はどっちに看病されたい?」

 どっちだ?


「学校終わったら、看病して欲しいな」

 大人としてこれが正解。


「杏? おばあちゃんのお粥より私のお粥が美味しいよ?」


「ゆうは早く学校に行きな。味覚死んでいるんだから、誰が作っても同じだよ。今日テストなんだろ?」


「いいよ。テストくらいどうにかなる」


「学校で手を抜く人苦手だな」

 これでどうだ?


「帰って来たらよしよししてくれる?」


「風邪治ったら」


「だったら一緒に風邪を引こうよ」


「誰が看病するんだい」

 ゆうはしおしおとしょげていった。


「行ってきます」

 ゆうは角に消えた。


「さて、うちの孫はいわゆるヤンデレというやつなのだろ」


「あの意味は?」


「好きな人にべったり依存、私の選択肢は好きなあの人と一緒。もし他の女の子を見たら殺してあげる。だってその方が幸せなの」

 一言一句その通りだけど、なんで知ってるの?


「疑問だろうな。でもあの子が好きになった子達はしっかり依存されて、重いって言われて別れを告げられた」


「あの、別れは?」


「私がここにいて、あの子に首輪をつけている間は向こうが逃げ終えるまでに捕まえておいたよ」


 最悪だ。


「あんたは災難だよ。だって逃げる場所が無いんだ。刺されるか落とされるか心中か。出ていくなら今だよ」

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