第13話 通い妻
「今日は雪が積もったね」
「今日はちょっと寒いね」
「今日は温かかったね」
本当に通うとは思わなかった丸田家。一回二回で飽きるだろうと思っていたが、あまりに飽きないのでゆう専用のお布団が用意された。
「今日も一緒に眠れるね。いっぱいしようね」
カタンと音が鳴った。
「違うの! しようというのはやましいことは無くて、思い出作りを一緒にという意味で」
「私、いつでも準備出来ているよ」
あーもう。ややこしい。こちらにも家族がある。
「それで何かな杏」
「お約束を決めたいと思います」
「うん、物による」
ほうそう来たか。
「夜、身体を触らない」
「えー、スキンシップだよ。そんなの日常だよ」
こっちがムズムズしてくるからだ。
「親もいるのにベタベタされると困ります」
「はーい」
不服そうだ。でもこれで明日から変な気持ちにならずに済む。
「好きとか愛しているを過度に繰り返さない」
「思ったことを口に出していい相手がいるのに、それくらい愛しているの」
「声が大きい」
「二人っきりだよ。一緒のお布団で寝ているのにいっぱい大好き言いたいもん」
そもそもそこがおかしい。ゆう専用のお布団があるのに決まって私の部屋の私の布団にやってくる。最初はあの暴行事件の夢を見て眠れないのと言ってきた。
あとに遅れてそういうショックってあるしな、それならと思い許した。
安心させようとして、なるべく起きていようとしたのだが、なんだか怪しくなってきたのだ。
「二人っきりの時に言って欲しいなー」
「今、二人っきりだよ。大好き」
呼吸するように好きって言うよなこの子。
「今は二人っきりだけど、この家にはお父さんとお母さんがいるんだよ。男女でも控えるよ」
「女の子同士だからいいよね。男女は気まずいけど、女の子だったら気まずくならないもんね」
「それは違って」
「片想いだから好きにさせてみせるよ。今は言えなくてもそのうち言えるようになるよね、絶対。今日は私がご飯作るね」
「いいよ、今日は私が」
「それとも私が作ると変な物入れるって思った」
「思っていないけど、調理器具とか使い方とか」
「そんなのこの家に入った時に確認したよ」
「あぁ、それなら」
「それに今はいれないから」
「ん?」
「香辛料とか苦手な物があるでしょう。ちょっとずつ慣れていこうね」
良かった。爪とか体液、髪の毛じゃなくて。そのうち入れかねないよな、この子。そうこうしているうちに二月に入った。成績がわずかに下がったらしく、こちらの親がいやに積極的に「ゆうさんの成績が落ち着いたらまた来てください」と言った。とうとう結婚フラグかと思われたが、二月の末になっても何も言ってこない。
「もしかしてさ、結婚させようと」
「その方がいいの?」
「いやじゃなくていいけど、最近来ないなって」
「だってね。確かに料理は美味しいし、掃除や用事も買って出てくれる。ありがたいのよ。でも真剣に受験が大変らしくてね。あそこのお家、成績に関してはシビアらしいの。だからっておばあ様から進言が」
そうだった。あの家は成績を担保に住んでいるのだと。
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