第12話 カノ、ジョです
気合いで十一月の終わりには退院が出来た。
「ちゃんとお別れを言うんだよ。後悔だけはしないでね」
「ありがとうございました」
病室のみんなはいい人だったな。ゆうがいらない事をしたせいだけど、恨みは無い。むしろありがたい事になった。ロビーで暴れたこと以外。
タクシーで帰って来たアパートに新鮮さがあるかと思ったが、普通のアパートだった。ゆうは学校だろう。大家さんもいなかった。
食卓の上に紙が置いてあった。
「杏、退院おめでとうございます。今日は模試で、すぐに帰る事が出来ません。待っていてください。絶対に帰って感激で杏は私を抱きしめて嘘でもいいから好きだっていっぱい言ってください。そのうち本当に好きになるかもだから、諦めませんから覚悟してください」
帰ったらいっぱい抱きしめてあげよう。何時に帰った来るかな。
敷かれていた布団に転がった。少しのはずがしっかり眠ったらしい。ぐっすり眠ったようだ。
正面にゆうが寝ていた。大方、寝顔を見ているうちに何やらだろう。
「まったく、可愛い顔して私なんかに」
この子に実家に帰らないと行けないってどう伝えようかな。
明日伝えようかな、明後日かな。どんどん長くなった。迎えたクリスマス。
携帯を買った時をデートに含めるのならば二回目のデート。
「クリスマスだもんね! クリスマスだよね。近いうちにホテルに連れ込んでいいことしよ」
「まだ早すぎ色ボケ高校生」
「そのうち、その気にさせるから覚悟してくださいね」
今日しか無い。いくら持ち物が少ないといえ、もう最後にしないと。最初で最後のプレゼント。
近くの展望台に登ったのは別に演出では無く、ゆうが登りたいと言ったからだった。
ここで情熱的なキスをと期待されているだろう。
「ゆう、話があるの」
この子今、すごく幸せそうだな。
「なんですか?」
「私、実は実家に帰らないといけなくて、その親バレしてさ」
「問題ありません。通いますから」
「ふぁ?」
「ここから大体一時間でしょ? そうしたら土日会えますよね。ご家族に紹介してください。私の事を彼女ですって」
通うか、そうか、そうだよな。
そういう女の子だよね、この子。
「いつ帰るんですか?」
「年末には引き上げるよ」
「帰る日、教えてください。私もどこにお家があるか把握しておかないといけないので、杏のご家族に会うの楽しみだな」
お母さん、くれぐれもお見合いはやめてください。お母さんが刺されます。
「それで世間体程度って言ったわよね」
「ほら、私を紹介してください」
「その子は誰?」
顔がひきつった大家さん、ポカーンとするお父さん、額にしわの寄ったお母さん、きっと青白い顔の私、そして私の腕に抱き着いて笑顔のゆう。その上、何かの条件つきで連れて来られた弟。
「姉貴、これは」
思った以上だと聞こえた。
「カノジョです」
「聞こえなーい、もう一回言って」
「カノジョで、す」
「もう一回」
「カノ、ジョで、す」
「分かったわ。つまりあなたがヤンデレ子ちゃんなのね」
「お母様。私程度をヤンデレと言ってはヤンデレに失礼です。私は杏を普通に愛しているだけです」
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