第14話 モテる女は憎い

 そもそも学年一位が学年三位になっただけらしい。

 それでも相当悔しかったらしく、杏のそばにいるには一番じゃないと意味が無いと言って、ゆうが控えたらしい。


「一番だったら、どこに行っても国立に行けば杏を養えるもんね」

 ははは、と声が出た。


「その体力テストはどうなの?」


「あ、もしかして夜のこと?」

 馬鹿野郎、高校生に手を出すか。


「馬鹿なこと言っていないで、ちゃんと答えて」

 そう手刀を頭に軽く叩き込んだ。


「学年三位です」


「優秀だね」


「杏の女なんで」


「うーん、その言い方はいくない」


「まだ女にはなっていませんもんね」

 違う。赤面とかの話ではない、する気も無いのに、女とか言われても困る。


「借金姉貴。新劇版貸して」

 顧問役として弟は居宅を許されている。良かったなヤンデレが出て来るゲームばっかりやっていて。


「そこの棚に乗ってる」


「おう、ナイスー。え、愛が深い来ているやん」


「私この人嫌いです」


「うちの愛する弟だからさ」


「ふーん」

 ゆうのセンサーが足元からゆっくり上がっていく。


 弟の靴下はスニーカーより少し出ている丈に、縞々のすててこ、下にヒートテックを仕込んでいる。パーカーの上にもこもこを羽織っていて、髭も鼻毛もカットしている。ゆうが来出してから、より見た目にこだわるようになった。


「ちょっと生理的に受け付けないです」


「だそうです」


「ダメか。次は少し痩せよう」

 弟は愛が重くても、私の事を好きでも、可愛い女の子には目が無いらしい。

 そりゃそうか、大学を出たあとにニートになった。

 女の子と触れあうなんてゲームだけだったからな。

 でもな、弟よ。生理的に受け付けないのはどれほど努力しても生理的に受け付けないのだよ。あきらめろ。


「なぜだ。なぜ騙されやすい姉はこんなにモテるのに俺はモテない」

 私も不思議だ。なぜこんなにモテているか分からない。高校生の女の子に未成年に、なぜだ。


「来週冬服から春服になるの。一番に杏に見て欲しいな」

 へぇ、春服なんてあるのか。一番? 一番って土日か。でも明日月曜日だしな。


「今日は一緒に帰ろ。家で見せてあげる」


「家はちょっと」


「なんで、一緒に過ごしていた家だよ。里帰りだよ」

 私的にはここが里なんだけどね。


「今日はハンバーグだし、楽しみにしていたから」


「私よりハンバーグ?」


「そのゆうとは毎週会えるけど、ハンバーグは二ヶ月に一回だし、ありがたみが」

 ガーンっとゆうの顔は語っていた。


「そのハンバーグ超えるよ」


「でも食べたことないよね」


「ダメ?」

 少し上目遣いで聞いてくる。この子、どうやったら自分が可愛いか知っている。


「ちょーっと難しいかな」

 悪いことは何もしていないのに、目をそらさずにはいられない。


「明日、朝私の家の前に来て。七時半に絶対だよ。今日は帰るね、またね」

 朝七時半か、ここから集合場所まで一時間半。

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