第1話 借金と家賃滞納地獄生活

 三か月も過ぎると家賃の催促さいそくの方法も変わるらしい。インターフォンを鳴らされることが無くなり最後通牒さいごのけいこくが書留で再配達申込書がやってきた。床に散らばる消費者金融の督促状とくそくじょう、同居していた男が残した借金を返すためにアルバイトを何個もしている。


 水道が止まったので水のペットボトルを買って、トイレは公衆便所で済ませている。睡眠時間は二時間、五時から十六時までコンビニ、十六時から十八時が清掃、十八時から二十四時にまたコンビニ、二十四時から三時まで警備。帰って来る日によっては睡眠時間が一時間の時もある。


 働きたくても休みという日はある。その時は日雇いの会場設営や倉庫で働いている。

 日々口にするのは廃棄の弁当やおにぎり、運が良ければスイーツもある。利息を返す日々、借金は生きていくだけで増えていく。


 こんな先の見えない人生に絶望をする暇も許されなかった。年老いた両親を残して死のうとは思えない、もし行き倒れてしまったら、その時はその時だ。そこまであのクソ彼氏に恨み言を吐きながら生きてやる。


 朝の四時まで残業になった。財布には三千円、三万の家賃。三か月で十万弱。死にたい。もう借金は出来ないブラックリストにのっているだろう。世の中の女の子はスタバでお茶しているのに私はと思うことはある。


 五時からコンビニ、三千円で返せる督促状は無かったかと封筒を破った。ついに来た弁護士。法的に訴えると書かれていた。三千円で返すことの出来る借金は無かった。二十五歳無職女性借金一千万。


 部屋を出てフラフラになりながら階段を降りているうちに太陽の光が降り注いだ。もう夏か。もうじき収監されるかもしれない。そこで記憶が途切れた。


 トントントンと何かを切る音が聞こえた。走馬灯か、私死ぬんだ。アパートの階段から落ちたのかもしれない。お母さんのニンジンスープ美味しかったな。また飲みたい。毛布か何かかけられている。


「あ、起きましたか?」


 お母さんにしては若い。


「まだ熱ありますね。おでこもはれている。冷えピタ、と」


「バイト行かなくちゃ」


「電話してください」


「え?」


「このご時勢熱が出たと言えば、有給休暇にしてくれます」


「日給が」


「休んでください! 行っても役に立ちませんから」

 目の前の女の子の言う通り一日丸々休みになった。


「あのどちら様でしょうか」


「雑炊が出来ましたよ。フーフーしますね」

 若い女の子に雑炊を食べさせてもらうって人生も終わりかもしれない。


「どこか痛いですか?」


「もうこれで死んでもいいです。もはやもう殺してください」


「家賃の事なら大丈夫です。この部屋の前でやつれた様子を見たら、おばあちゃんもしばらくはいいと言ってくれましたし、借金も全部お姉さんの名前では無かったので、知り合いの弁護士さんにどうにかしてもらうようにしました。安心してください。あとは家賃を払う事と生活を立て直すのに稼いでください」


「そんな一瞬で解決するなんて有り得ないよ。借金がチャラになるなんてそんな馬鹿なこと無いよ」

 目の前の女の子は私を抱きしめた。


「大丈夫です」


「その私、丸田杏まるたあんです。なんかごめんなさい。帰ります」


「知っています。私、はやしゆうです。丸田さん、お金はおばあちゃんの財布から出るので私と同じ部屋で生活してください」

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