第10話 恥ずかしい噂
個室から大部屋に変わった。それだけ経過も良好だということだ。ただお風呂に入るたびに見る生々しい傷、何度も蹴られた。深い傷にはなり、範囲は大きいらしい。
「好きな異性には見せられないよな」
頭の中のゆうが私なら平気と言っている。私が注目されたいのは異性なんだよな。
「良かったですね。大部屋」
「嫌そうだね」
「だってあんなことやこんなこと出来ないじゃないですか」
部屋の視線がこちらを貫いた。
「何、大声で言ったのさ。誤解されるでしょ?」
「何言っているんですか? マッサージですよ」
視線が安堵した様に落ち着いた。そりゃおばさんが女子高生にあんなことやこんなことさせていたら、問題だろう。
「最近、服の中触っていないので、退院したらしっかり触りますね」
刺すような視線。分かってる。この子わざとやっている。マーキングして何の意味があるのよ。
本当にやめて欲しい。何ヶ月か知らないけど、この病室にいないといけない。
「ということで模試の勉強があるので帰りますね」
「えっ、ちょ。もう帰るの?」
「どこかの誰さんが焚き付けたから、ちょっとは力をいれないと」
待って、こんなところにいたくない。帰らないでとは言えない。
「それではまた明日来ますからね。お大事に」
ゆうが帰ると病室の面々は生暖かい目で一様に「流石に
自分の顔が赤くなったり青くなったりを繰り返したと思う。
弁解をしようとしたら、他の患者は「明日は検査だから」と、普段は絶対に一晩中電話する女性は「私はイケメン看護師とのデートなの。明日が楽しみね」と、言って寝た。もう一人は
どちらにしろ弁解の余地は無く、次の日には噂は広まり、看護師さんに「病院はそういう場所では無いので」と、いらない釘を刺された。
「違うんです。あれはあの子の冗談でそんな体を触れ合うことも無くて、変なことは何もしてません」
「相手は高校生です。もう丸田さんはいい大人なので、こういう話題も控えてください。あと、あの子はしばらく出禁です」
病院の前で駄々をこねたらしい。どれだけ自分が私を愛していて、模試結果を見せつけて何もやましいことはしていない。
確かに手を触ったし、眠っているところを撮影したけど、それだけだ。けしてやましいエッチな事はしていない。
将来的にはそういう関係もありだが、そう言って警備員さんに引きずられて行ったらしい。
やめてくれ、ますます過ごしにくくなる。
「東大A判定だったって本人が」
「やっぱり頭がいいとネジが飛ぶのかしら」
「丸田さん、この際ジョブチェンジしたらどう? 彼女すごく優秀じゃない。あんなに愛を叫ばれたら彼女のことでいっぱいじゃない」
ナースステーションの前を通っても看護師さんは容赦しなくなった。
いっぱいです。もう恥ずかしくて恥ずかしくて、大家さんに連絡しよう。もう来るなと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます