第47話 ごまかしのきかない

 我慢出来たらご褒美を五回に一回あげること。この五回も板についてきたら、六回や三回、十回にすること。

 自分もくらりと来るくらいいい声しているから、それだけで興奮するよと伊藤さんからアドバイスを受けた。


 このご褒美もキスに抵抗があるなら、首元にキスマークをつけることを伊藤さんに教えてもらった。


「杏に印をつけると私は殺されるので、私の腕で試して、慣れてない感じいいね」


「なんか変な感じだね」


「興奮した? これより林は苦しんでいるよ。残酷な子だね。すぐに教えてあげるよ。いっぱい気持ちいいから」


「私はエッチをした後に関係性が変わるのが怖い」


「ちゃんと言語化出来るじゃん。変わってもいいんじゃない?」


「え?」


「本来、生きている世界は違うよね。林は大学生だし、杏は社会人。勢いで連れてこられただけで実家に戻ってもいい。変わってもきっとそれは自然だよ。このままズルズルして、林を拘束して、林は期待するよ?」


「私はあの子がいないと寂しい」


「だけでしょ? あの子は同棲にこの先を望んでいるよ。一回してあげなよ。記念に最後って」

 伊藤さんの言う通りだ。いつだって一緒にいたらゆうは満足すると思っているわけでは無かった。その先を暗に求められることも多くていなしていた事もある。


 それをその自然なことを私はごまかしていた。面も性格も多分悪く無いゆうだったらすぐに相手も見つかるだろう。


「ま、今日は恋愛ズバズバ編じゃなくて、我慢を覚えてもらう為の飛び道具講座だから、ここでは責めないであげる。それで分かった? 変態さん」

 しばらくゆうは何も無かった。

 ある時、ベロベロに酔っ払って伊藤さんと帰って来るという連絡が来た。


 インターフォンの音がしたので、桶の上にかぶせた大きな袋を持って玄関を開けた。


 開けた瞬間、吐いた。ナイスキャッチ。


「給湯器の電源入ってる? 私が洗うね。いやぁ、危なかった。まさかオレンジジュースにお酒を入れるバカがいるとはね」


 伊藤さんは様々な物で汚れた服をするする脱がせて、お風呂場に入って行った。


「服は下洗いして着ることが出来そうな物は洗濯でいい? ほとんどさよならだけどね。洗濯出来ないのもあるから、人肌に近い白湯だけ用意してね。この状態でゼリーとか、ジュースは多分きつい。はい、この袋に吐いてね。もう液体か」


 処理は慣れた物だった。あの男が愛おしく思えたのが、後処理だったからだ。


 風呂を終えた二人はマッパだった。


「ジャージでいいから、何か貸して。先に林の服ね」


「ごめん考えが至らなかった」


「丸洗いに慣れてたから、吐いた物の処理をしたくらいで上がっちゃったのね私たち」


 申し訳ないと思いつつ、洗濯が終わるまで胸のきついジャージとゆうの服を貸した。


「けっこうキツイでしょ? ごめんね」


「悪いのは林を酔わせてどうにかしようとした他ゼミの男子学生。今頃天誅されているだろうから大丈夫」


「その」


「酔わせたらどうにか連れ込める。相手もいないし、関係することが出来ればこっちのもの。私はもう雰囲気からして、では無いことをみんな分かっているけど、そのうちこの子もの危険が迫るよ。馬鹿な男子で良かったよ。これが大人なら、この子は傷つく」


「ここから出ていけってこと?」


「ハッキリ言うとね。安心して、この子に相手が出来るまで手出ししないから、このままじゃあまりに不憫だ」

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