第29話 愛人

「それじゃ、課題のチェックからな」

 そうそう学生時代もこんなだったよ。課題のチェックして、授業して、次の課題を出す。それを一時間くらいする。こういうことを見る事が出来るのは新鮮だった。


「じゃ、授業を始める」

 ゆうは頬杖をついて眠そうだ。


「林、最愛のお姉さんが来ているのだろ?」


 みんなの目が一斉にこちらを見た。

 私は目をそらした。


「でも先生、ここはもう終わっています。課題も高校生の間にこなすものは終わっています。国立大学の過去問をください」

 こうやって敵を作るのは良くない。


「ゆう頑張って」

 そう口を動かした。


「私は今日、恋人にいいところを見せに来ました。なので、先生の代わりに授業します」


「ほう、出来るのか?」


「私には彼女がいるので」

 教室中の視線が全部こちらに来た。はははという他無かった。


 ゆうの授業は私にも分かりやすかった。最初は高みの見物だった先生も次第に焦ってきた。

 最終的に「林、教師になれ向いているぞ」と、いうしか無かった。


「ありがたいのですが、私は東京の大学に通って杏を養って、杏がゲームやパチンコをしても私のお金でホストに行っても支える覚悟くらいは当然出来ているので、その未来を実現する為に生きています」


「さすがにゲスではないですか。その」


「丸田です。私、ゲームもパチンコもホストもしません」

 めちゃくちゃ恥ずかしい。


「そんなこと言っても私がいないと生きていけない女の子にしますから、覚悟してくださいね」

 どんな顔をするのが正解なのだろうか。

「ということでチャイムも鳴りましたし、帰ろうか。杏」


「でも他の授業も」

 ほら、ゆう目当ての男子生徒も非難の目でこちらを見ているではないか。


「課題に出るだろう問題は全部解いて暗記してます」


「でも出席日数とかあるでしょう」


「うーん。確かにそうですね」


「授業を受けて帰って来なさい。ちょっとくらいはよしよししてあげる」


「ハグも」


「ハグは」


「ダメ? 今から私、頑張るよ」


「着衣ハグなら」


「脱いでもいいんだよ。その方がきっと温かいよ」

 咳払いが聞こえた。保護者はもういない、次の授業の先生が入ってきていた。


「私、出なくちゃ」


「私の隣で授業受けてよ」


「参観は終わり、待っているから」

 咳払いが聞こえた。


「じゃ、アレ言って」


「アレって」

 頑張って離れようとするのにゆうは力強く腕を捕まえている。動けない。


「私の事どう思っている。杏にとって私はどんな、あたっ」


「いい加減にしろ。お前は授業、保護者の方は解散です」


「ご迷惑をお掛けしました。失礼します」


「ちょっと待ってよ。一緒にお風呂入ったり一緒に旅館のお布団で寝たじゃない。そんな関係は愛人というでしょ」

 えらい言葉が聞こえてきた。高校生をかこう二十五歳はまずい。

 そもそも他の人がいないのに愛人と言われても困るし、かなり気まずい。


 控室に戻っても、教室に戻っても地獄だ。


「部屋に帰るか」

 この辺は変わって無いよな。私は刺されたのは向こうの駅近くの公園か、あそこに行きたいと思わないな。こんなところよりあの子は街でデートしたいだろうな。イチャイチャは勘弁だけど、少し手を恋人つなぎくらいは許そう。


 つまらない女なのに、女の子にもてる。人生は分からないよな。

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