第22話 服だけを溶かすスライム

 叫び声の元へと駆けつけた唯人たち。

 体育館くらいに広い空間に出る。

 そこに居たのは。


「大きいスライムです!」

「うわ、ユーリさんが捕まってる⁉」


 自家用車を丸呑みできるくらいに大きなスライム。

 体の中心には、黄色い球体が浮かんでいる。


「ギミダチぃぃぃぃ!? 助けてくれぇぇ!!」


 そのスライムに捕まっているユーリだった。

 体のほとんどをスライムに飲み込まれており、かろうじて首のあたりは外に出ている。

 顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら叫んでいた。


 ユーリも配信中らしく、その泣き顔はカメラにバッチリ抑えられている。


「あの人、さっきは頼って良いとか言ってませんでした?」

「ユーリさんは面白系の配信者さんで、あんまり強くはないから……」

(まぁ、見ててギャグ感は凄いし面白いけど……それで良いの?)


『見たことある人だ!!』

『有名な配信者の人じゃん⁉』

『ユーリさん、またモンスターに捕まってる……』

『こないだは食虫植物に食べられて、ぬめぬめになってたよねwww』


 いくらギャグみたいな様子でも、あのままでは危ない。

 助けに行かなければならない。

 最初に動き出したのは桐華だった。


「私がおとりになるから、秤ちゃんは魔法で攻撃して!」

「分かりました!」


 スライムは体を触手のように伸ばすと、桐華に向かって突き出した。

 先ほどの小さなスライムよりも重い攻撃。

 しかし、桐華はなんなく盾で受け止めると剣を振るった。


 ぼよん。

 刃は通らない。それどころか、剣が押し返されてしまう。


「じゃあ、これならどうかな?」


 桐華の剣が光りだす。

 本来の剣よりも、一回り大きな光の刃を生成して振るった。

 ズバン!!

 ややつっかえながらも、スライムの触手を切り裂いた。


『ナイス!!』

『キリカちゃんって光魔法も使えるんだ!?』

『光魔法なら熱を持ってるから効くね。火よりは聞きづらいけど』


 秤も杖を構えて攻撃をしようとした。その時だった。


「な、なんか服がシュワシュワ言ってる⁉ 溶けてないか⁉」


 ユーリが叫び出した。

 服が溶けている?

 不思議に思って注目すると、確かにユーリの服だけが溶けだしていた。


「え、どういう事ですか……」

「何それ⁉」

(うわぁ……面倒なタイプのスライムだ……)


『服だけを溶かすスライム!?』

『なんで服だけを溶かすんだwww』

『説明しよう! 探索者が着るような服は、耐久度を上げるために魔力によって特殊な裁縫をされている。そのため魔力を溶かすようなスライムに触れると縫い目が緩み、服だけがバラバラになってしまうのだ!!』

『最低なスライムだ……』


 服だけを溶かすようなスライムは珍しい。

 珍しいのだが、目撃されないわけじゃない。

 知っている人は知っているようなモンスターだ。

 唯人もなんどか出会ったことがある。


「うわぁ!? 下着だけになってしまう。チャンネルがBANされるぅ!?」


 この期に及んで、ユーリの心配は自身のチャンネルのことらしい。

 ある意味ではたくましい人である。


 秤はそんなユーリに憐みの目を向ける。


「あんな風にはなりたくないですね」

「でも、唯人くんは私たちが襲われるのを期待してたりして?」


 桐華はいたずらっぽく笑うと、にやにやと唯人を見た。

 つられて秤もじとりとした目を唯人に向ける。


「……唯人さん?」

「全然期待してないです。濡れ衣です……」


『分かるよユイト。俺も見たい!』

『男ならそう思うよなwww』

『俺たちはユイトの味方だからな!!』

『うわぁ……』

『最低』


 なぜか唯人の見方をするコメントがいるせいで、余計に秤の目線が鋭くなる。


「唯人さん、後でお話が――」

「っ!? 危ない!!」


 じゅるん!!

 秤に向かって触手を伸ばしたスライム。

 唯人はとっさに秤を抱き上げて避ける。

 お姫様だっこだ。


 秤の顔が近い。

 キスできそうなほどすぐそこにある。


 秤は顔を赤くしながら、小さく呟いた。


「あ、ありがとうございます……疑ってすいません……」

「い、いやいや、全然大丈夫……」


『ユイトくんやるじゃん!!』

『かっこいいよ!w』

『バカ野郎!! なんで避けてんだ!?』

『あとちょっとだったのに!!』

『裏切り者!!』


 コメント欄は賛否両論。

 おそらく男子からの非難が飛んでいた。


「ちょっと二人とも!! イチャイチャしてないで戦って!!」

「い、イチャイチャなんてしてません!!」

「ラブコメやってないで私を助けてくれぇぇぇ!!」


 ユーリの叫び声が響いた。

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