最強ぼっちのやり直し青春無双!!~二周目の学園生活では美少女の友だちができました!~

こがれ

第1話 最強のぼっち

 暗い洞窟。

 コツコツと寂しげな音が響く。

 『秋月あきづき唯人ゆいと』は一人で洞窟を歩んでいた。


(わーい! 今日も一人でダンジョン探索だぁ……)


 ダンジョンとは外から隔離された異空間。

 内部にはモンスターと呼ばれる怪物が潜んでいる。


 その危険性から、ダンジョンを一人で探索するのは非推奨。

 なのに、なぜ唯人が一人で歩いているかと言えば……。


(友だちが欲しい……寂しい……)


 唯人が『ぼっち』だから。

 

 今年で二十三歳。もちろん独身。彼女もいない。絶賛友だち募集中。

 職業は探索者。ダンジョンを探索して、ダンジョン固有の資源を持ち帰る仕事。

 その仕事ゆえに、同僚と呼べるような人もいない。


 その人生は灰色だ。

 ダンジョンに潜って金を稼ぎ。

 家に帰ったら、一人でゲームやアニメを楽しむ。

 ゲームやアニメも楽しいが、このまま一生一人なのだと考えると苦しくなる。


(死ぬ時もぼっちなのかなぁ……)


 狭い部屋で、ただ一人で老衰する自分の姿が浮かぶ。

 誰にも看取られることもなく、悲しまれることもなく。

 腐敗臭がしてから腐った死体が見つかるのだ。


(ダメだダメだ!! 探索に集中しよう。このまま考えてると首を吊りたくなる! ――あれ、なんか聞こえるな)


 耳を澄ませてみると。


「ギャオォォォン!!」

「うわぁぁぁ!?」「キャー!!」


 怪獣のような雄たけび。

 それに続く男女の叫び声。


 どうやら、モンスターと戦っている人が居るらしい。

 しかも状況は良くないようだ。


(助けに行くか!)


 唯人は走り出す。

 唯人は困ってる人が居たら助けるようにしている。

 なぜなら、それがきっかけで友だちが出来るかもしれないから。

 現状の成功率はゼロだけど。


 広い場所に出た。

 野球が出来そうなくらいに広い。

 そこに声の主たちが居た。


 巨大な三つ首のドラゴン。

 がっしりとした体に、大きな翼。三つの長い首がうねり、その先端の三つの口からは炎が漏れ出ている。


 そのドラゴンの顔たちが睨む先には、四人の探索者。パーティーなのだろう。

 唯人は彼らの顔に見覚えがあった。

 まだ学生だというのに、活躍している超新星たち。

 すでに上から二番目の等級、『A級』探索者まで上り詰めている。


 もちろん、直接話したことはない。

 テレビやネットニュースで話題になっていた。

 配信活動なんかもしていて、とても人気らしい。

 『最近の若い子は凄いなぁ』なんて思ったので、唯人もよく覚えていた。


 しかし、現状は危機的状況らしい。

 四人のうち二人は戦えないようだ。

 動ける二人も限界。一人は動けない仲間を回復している。

 残る一人も体がぼろぼろ。今にも倒れそうだ。


 パーティーは壊滅している。

 どうやら、相手が悪かったらしい。


 対峙しているドラゴンには、目立った傷もついていない。

 この様子だと、一方的にやられてしまったのだろう。


 ドラゴンの首。その一つが天を見上げた。

 その口から漏れ出る炎が激しくなっていく。その口から炎を吐き出そうとしているらしい。

 彼らを燃やし尽くそうと。


(そうはさせない)


 ドガン!!

 爆発音が響いた。

 唯人が地面を蹴った音だ。

 そして次の瞬間。


 ごとん。ごとん。ごとん。

 僅かばかりの音すら立てず。

 ドラゴンの三つ首が切り落とされた。


 唯人の手には刀。

 一太刀で切り落とした。


 ズシン!

 悲鳴を上げる暇もなく。血しぶきを上げながらドラゴンが倒れた。

 それは、一瞬の戦闘だった。


 そして、ドラゴンとの戦いはどうでも良かった。

 唯人にとって大事なのはここからだ。


「だ、大丈夫ですか?」


 唯人はなるべく笑顔を意識しながら、襲われていた探索者たちに話しかけた。

 なお、表情筋が死んでいるので、ほぼ無表情。


「あ、ありがとうございます」


 最後までドラゴンに立ち向かっていた青年が、口を開いた。


(も、もうちょっと助かったことを喜んで欲しいなぁ……)


 青年の表情はこわばっている。

 ドラゴンとの戦闘を生き延びた喜びは感じられない。

 現在も強敵と対峙しているような緊張感がある。


 ところで、唯人に友だちが出来ない理由は『二つ』ある。

 一つは本人が陰キャだから。

 コミュ力は最底辺。用もなく人に話しかける勇気もない。SNSも何か怖い。


 そして、二つ目が――。


「もしかして、秋月唯人さんですか? ……『S』級探索者の」

「……そうです」


 唯人がS級探索者だと分かると、余計に青年の空気がヒリついた。

 さりげなく体を動かして、『唯人から』仲間を守るように位置を取る。


(うわぁぁぁぁ!? 身バレしたぁぁ!!)


 S級探索者。

 それは探索者の等級でも、最上位に位置する。

 端的に言えば、とても強い人たち。


 しかし、世間一般的に人気があるのはA級探索者。

 探索者たちが目指すのもA級。

 それはなぜか?

 理由は簡単。


 S級探索者は『頭のおかしい異常者の集まり』だからだ。


 突然キレだして、山を切り裂く『老害』。

 ビルを折って振り回す『戦闘狂』。

 浮気された腹いせに、恋人の内臓を百二十六回ぶち抜いた『メンヘラヒーラー』。

 実験と称して海底の地形を変える『狂魔術師』。


 そんな異常者たちの集団に入れられたせいで、唯人も『ヤバい奴』認定されて怖がられていた。


(俺は、あんまり何もやってないのに!!)


 心の中で無罪を叫ぶ。

 しかし、それを聞いてくれる人はいない。


 コミュ力の低さと、S級探索者へのレッテル。

 この二つが影響して、唯人はぼっち街道を爆走中だった。


 そして今回も失敗だ。

 目の前の学生探索者たちとは仲良くなれない。

 このまま居座っても、彼らを怖がらせるだけ。

 唯人はおとなしく消えることにした。


「それじゃあ、俺はダンジョンコアを壊しに行くから……」

「あ、すいません。よろしくお願いします」


 唯人は、とぼとぼとダンジョンの奥へと歩いてく。

 最後まで警戒されていた。

 まるで、猛獣みたいな扱いだ。


 唯人がダンジョンの奥に進むと、そこには大きな球体が浮かんでいた。

 丸いルービックキューブみたいだ。あんなにカラフルではないが。

 これが『ダンジョンコア』。ダンジョンの心臓であり、破壊すればダンジョンが死ぬ。


 通常であればダンジョンは資源の宝庫であるため、破壊などしない。

 しかし、今回は破壊するように言われている。


 唯人は刀を振るった。

 音もなく切られたコアが、二つに割れる。

 そこから世界を塗りつぶすように光があふれ出した。


 このまま待っていればダンジョンは消えて、唯人たちは外に放り出される。


(学生かぁ……羨ましいなぁ……)


 光に包まれながら、唯人はぼんやりと自分の学生時代を思い出した。


 ろくな学生時代じゃなかった。

 小中は休みがち。

 高校は中退した。

 だから、唯人は青春というものを送っていない。

 マンガやアニメの中の、フィクションだ。


「友だちと遊んだりしたかったなぁ。カラオケ行ったり、海に行ったり。恋愛は……俺には難易度が高いか……」


 青春を過ごしてみたかった。

 あの頃に友だちの一人でもできていれば、今も変わっていたかもしれない。


「学生時代に戻りたいなぁ……」


 その呟きは、光の奔流にかき消された。


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 気がつくと、唯人は見知らぬ部屋に居た。

 段ボールが積み上げられたアパートの一室。

 傷一つない真新しい家具が設置されていた。


「……どこだ?」


 そんな部屋に唯人は見覚えが――あった。


「ここって、高校時代の部屋か?」


 よく思い出せば、そこは高校時代に住んでいた部屋だ。

 唯人が通っていたのは探索者を教育するための学校。

 立地的に実家からは通えない。

 そのため、一人暮らしのために借りた部屋だ。

 短い期間しか住んで居なかったため、思い出すのに時間がかかった。


「なんだ? どういうことだ?」


 混乱しながらも部屋を見回す。

 大きな姿鏡が目に入った。

 そこには唯人が映っている。


「わ、若返ってる⁉」


 明らかに若返っている。見た目が幼くなっている。

 そして、鏡の横にはピカピカの制服が飾られていた。


「もしかして……過去に戻ってる⁉」

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