第15話 ぽんこつ

 休み明けの月曜日。

 昼休みの時間に、唯人たち三人は職員室にやって来ていた。


「唯人くんもダンジョンに入りたい、ねぇ……」

「お願い『明石あかし先生』! なんとかならないかな?」


 桐華が頭を下げているのは、実戦訓練の担当教員。

 ふわふわした雰囲気で鈍器を振り回していた明石先生だ。


「なんとかなるわよぉ?」

「本当⁉」


 あっさりと明石は言った。

 そして机の引き出しから、なにやら書類を取り出す。


「はい。あなた達がパーティーを組めば、唯人くんもダンジョンに入れるわぁ」

「パーティー申請書……なにこれ?」

「そのままの意味よぉ。『私たちはチームです』って学校に申請するの」


 パーティー。その言葉を聞いて、唯人の胸が高鳴った。


(学生時代はおろか、探索者時代にも組めなかったパーティーに入れる!!)


 しかし、そんな唯人の様子には誰も気づかずに、話は進んで行く。


「どうして学校に申請するのですか?」

「学校の授業や行事なんかで、パーディー行動をしてもらうこともあるからねぇ。あらかじめ、誰と誰がパーティーを組んでいるのか把握しておきたいのよぉ」

(ひぃ!? パーティ行動……)


 パーティ行動と聞いて、唯人のテンションが急落下。

 思い出すのは前回の学校生活。


(パーティーを組んでくれる人が居なくて、明石先生と行動した記憶がぁぁ……)


 いわゆる『二人組作って』と言うやつである。

 あれはとても辛かった。二度と味わいたくない……。


「――唯人さん? 起きてますか?」

「唯人くんしっかりしてー?」


 つんつんと頬を突かれる。

 犯人は桐華だった。


「唯人くん、名前を書いて!」

「あっ、はい」


 唯人が黒歴史に悶えている間に、桐華と秤はパーティー申請書に名前を書いていた。

 あとは唯人が書くのみだ。

 唯人がサッと名前を書くと、明石先生が受け取った。


「はい。これでパーティー申請は終わりよぉ。唯人くんもダンジョンに入れるわ」

「明石先生、ありがとう!」「ありがとうございます」「どうもです」


 パーティー申請が終わり、唯人たちは職員室を後にする。

 廊下に出たところで、桐華が口を開いた。


「ねぇねぇ、放課後にダンジョン探索用の服見に行かない?」

「……ジャージじゃダメなんですか?」


 ダンジョン探索における服装は、動きやすさや素材の丈夫さによって選ばれる。

 黎明学園から配布されているジャージは機能性に優れているため、ダンジョン探索でも問題なく使えるのだが。


「えぇ、さすがにダサいよぉ……」

「良いじゃないですか、誰に見せるわけでもありません」

「見せようよ! 私はダンジョン配信とかやってみたいなぁー?」

「必要ありませんね」


 秤はスッパリと両断。

 唯人もダンジョン配信に気は乗らない。


(人前で喋るの怖い……配信怖い……)


 クラスの自己紹介でさえ緊張するのだ。

 誰とも分からないネットの向こう側の人たちと接するのは怖すぎる。

 しかし秤の様子を見る限り、このまま配信の話は流れていきそうだ。


「でも、上手く行ったらお金になるよ?」

「……」

「配信機材とかは私が用意するから、出資はゼロ円! お得だよー? 今だけだよー?」


 ……不味いかもしれない。

 秤はジッと考え込んでしまった。


(お願いだから、配信を断ってくれ。俺には配信活動とか無理だから!)


 しかし、そんな唯人の祈りは通じなかった。


「……分かりました。桐華さんがそこまで言うのならお付き合いします」


 ダメだった。

 秤は金銭に釣られて配信活動になびいてしまった。

 こうなると唯人に拒否権は無い。

 いや、拒否権はあるのだが、行使できない。陰キャだから。


「よぉし! 放課後はお買い物だぁ! 配信用の衣装として、秤ちゃんの分も私が買ってあげるからね!」

「いえ、自分の分は自分で払います」

「いやいや、気にしないでよ。私のわがままに付き合ってもらうんだから!」

「駄目です。お金の貸し借りはトラブルの元です」


 キャピキャピと話し合う二人。

 なんだかんだ、買い物を楽しみにしているらしい。


(友だちとの買い物……憧れるけど、女の子の買い物に俺が付いて行っても仕方ないしなぁ)


 などと、他人事のように唯人は考えていたのだが。


「……なんか、他人事みたいな顔してるけど、唯人くんも行くんだからね?」

「え、俺も行くの?」

「……逆にお聞きしたいのですが、行かないつもりだったのですか?」


 秤と桐華の二人はあきれ顔。

 二人同時に『はぁ』とため息を吐いた。


(え、俺が悪いの?)

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