第8話 YOU DIED
(よし、今日からが本番だ!!)
次の日。
唯人は気合を入れながら学校の校門をくぐる。
今日から本格的な学校が始まる。
結局、昨日のスタブでは、他愛もない話をして解散。
唯人は息を殺して耐えていた。
陰キャは三人以上集まると黙る生態がある。
昨日もそれが発揮して、ひたすら沈黙を貫いていた。
校舎に近づくと、タブレット端末をいじっている生徒たちが目についた。
一人二人ではない。生徒のほとんどがタブレットを持っている。
複数人でタブレットを覗き込んで、はしゃいでいる人たちもいる。
あれは学校から支給されたタブレットだ。
事前に郵送されていた。
あれに教科書なんかも全て入っている。
(あぁ、そっか。クラス替えはタブレットで確認するんだっけ……)
黎明高校は学生の数が多いため、クラス表の張り出しなどは行っていない。
表を張りだしたら、混雑してしまいまともに確認もできないだろう。
代わりに、玄関口にはタブレットにデータが届いているから確認するよう知らせる紙が貼ってある。
唯人もスクールバッグからタブレットを取り出す。
起動すると、専用のアプリにデータが届いていた。
タブレット使用者のクラス通知と、そのクラスの席順表だ。
(クラスは変わってないんだなぁ)
クラスは前回と同様。
昨日今日で決めているわけではないだろうから、変わらないのも当たり前だ。
ちなみに、昨日の四人全員と違うクラス。
(あんまり、クラスメイトの顔とか覚えてないなぁ)
とりあえず、自分の教室へと向かった。
教室に着くと、すでに十数人の生徒が到着していた。
数組のグループが形成されている。
出身。得意な戦い方など。ありがちな会話を繰り広げていた。
唯人の席は真ん中の一番後ろ。
ちなみに席は名前順ではない。
特に規則性もないため、ランダムに決めているのだろう。
(さて、どうしたら良いかな……)
唯人は席に着くと、不審にならない程度に周りを見渡した。
友だちになれそうな人はいないだろうか。
まず目に入るのは、すでに形成され始めているグループ。
しかし、そこに入っていくのは辛い。
(声をかけて『え、なにコイツ?』なんて目で見られたら。もう二度と学校に来れない……)
それに、旧知の人間でグループを形成している場合もある。
国中から生徒が集まる黎明高校。
しかし、黎明には中等部も存在する。
そこから進級したグループかもしれない。
そうでなくても、昨今はSNSによって事前にグループが形成される場合もある。……らしい。
事前に形成されていたグループに突撃しても、よそ者扱いを受けるだけだ。
注意しなくてはならない。
そうなると、狙うべきは一人っきりの生徒。
それに、一人の生徒はたぶん陰キャ。
そっちの方が話が合うはずだ。
(一人の生徒は……女子しかいないなぁ)
女子は無理。
理由は分からないが、陰キャは女子に恐怖心を抱くのだ。
きっと陰キャと言う生物の遺伝子に刻まれた本能だ。
だが、そうなると声をかけれそうな人がいない。
一人っきりの男子がいないのだ。
(……今は待ちの時間だな)
唯人の選択は沈黙。
現在、教室に居る人数は十五人ほど。このクラスの人数は三十人。まだ半数が来ていない。
この後やって来る生徒に望みを託そう。
……ちなみに、なんだかんだ言っているが、声をかけるのが怖くて逃げているだけである。
(ただ待ってるのもあれだし、本でも読んでるか……)
唯人はカバンの中からラノベを取り出す。
ちなみに書店のカバーをかけているので、外からは中身が分からない。
ぺらぺらとページをめくりながら、待機することにした。
――きーんこーんかーんこーん!
チャイムが鳴った。
(はっ!? 気がついたら始業時間に!?)
つい読書に集中して、気がつけば朝の時間は終わっていた。
すでに生徒たちは席に座っている。
これでは、どのようなグループが形成されたか分からない。
完全に出遅れた。
ガラガラ!
教室の前のドアが開かれると担任教師が入って来た。
そうして始まるホームルーム。
教師の自己紹介や、高校生としての心構え。
そして、これから探索者を目指す新入生たちへ激励の言葉が送られる。
その後は自己紹介タイム。
唯人には奇抜な発言をする勇気もなく。
無難な自己紹介をしてホームルームの時間は過ぎて行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何事もなく午前中の授業を終えた。
授業と言っても、クラスの決め事や、その科目における授業の進め方の説明。あるいは教師との交流をするもの。
授業と呼べるほどの物ではなかったが。
ちなみに『何事もない』ということは、唯人の友だち作りも上手く行っていない。
相変わらずのぼっちライフである。
だが、まだ終わっていない。ここからが大事なのだ。
(よし、一番乗りだな)
昼休みに入って早々、唯人は食堂にやって来ていた。
食堂はあまり広くない。
どう考えても、全校生徒は座れない程度の広さだ。
なので、ほとんどの生徒は教室や裏庭などで食事をする。
そんな需要もあってか、食堂ではサンドイッチなどの持ち運びやすい食事が多く売っている。
唯人の狙いもパン類だ。
「あら、早いわねぇ!?」
パンを売っている食堂のおばちゃんも驚いていた。
なにせ、昼休みに入ってから一分もたっていない。
まだ他の生徒の影も見えていないのだから、ぶっちぎりの一番乗りだ。
そのトリックは簡単。単純に身体能力のごり押しだ。
昼休み入った瞬間、誰に気づかれることもなく廊下に飛び出す。そのまま廊下の窓から飛び降りて、食堂へとダッシュ。
これがS級探索者の実力だった。
無駄なことで実力を発揮するな。
唯人は愛想笑いを浮かべながら、食堂のおばちゃんに注文をする。
「カレーパン、コロッケパン、それと『
唯人がいち早く食堂に来た理由が、なんちゃらかんちゃらクリームコロネだった。
このコロネは、中にイチゴと濃厚なクリームの入ったコロネであり、食堂の大人気商品の一つだ。
なかなか買えないことで有名。
前回の高校生活で唯人は目撃した。
このクリームコロネを買えた生徒が、ヒーローのように祭り上げられていたのだ。
(よし、あとはこれを教室で食べていれば……誰かが話しかけてくるかも)
そんなことを考えながら、唯人は購入したパンを持って教室に戻った。
しかし、そこには予想外の敵が居た。
(お、俺の席が……強奪されている!?)
唯人の席には、すでに人が居た。
そう席強奪女こと神宮司桐華だ。
手元にはお弁当が入っているであろう袋を持って、悠々と唯人の席に陣取っている。
そして、臨席の女子と楽しそうにお喋りをしていた。
(前回といい、今回といい。なんであの人は俺の席を奪うんだよ!?)
前回は、最後まで席を奪われたままだった。
しかし、今回は違う。
唯人の青春のためにも、席を取り戻さなければならない。
今こそ戦う時だ。
唯人は奪われたものを取り戻すために、教室へと一歩を踏み出し――。
(やっぱ無理!)
くるりと方向転換して逃げ出した。
リア充女子に挑む勇気が無かった。
そもそも勝てるイメージがわかない。
唯人の脳内で繰り広げられたイメージバトルはこうだ。
『あの、そこ俺の席なんですけど……』
『は? あんた誰?』
YOU DIED
そんなわけで死ぬ前にとっとと退散することにした。
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