第47話 不法投棄

「――ああ、分かった」


 レイヤは耳に当てていたスマホをしまった。

 肩をすくめて秤たちを見る。


「どうやら、向こうの狙いは唯人みたいだな」

「唯人さんですか?」

「ああ、男子生徒の交友関係について嗅ぎまわっていたらしい。しかも、トラックを切った男子だ。アイツ以外には居ないだろ?」

「……二人居たらびっくりだねぇ」


 言葉を聞いて秤は飛び上がった。

 慌てて桐華を見る。


「唯人さんが危ないです!!」

「危ない……かなぁ?」

「……相手は暴力的な組織ですよ? いくら唯人さんでも……危ないですよね?」

「くっくっく……大丈夫なんじゃねぇか?」


 レイヤが噛み殺すように笑った。


「奴らの本命が唯人なら、始めから唯人を襲いに行けば良い。なのに、わざわざお前らを人質に取ろうとしてるってことは、一回行ったけど勝てなかったんだろ」

「ですが、唯人さんが襲われたような話は聞いてないですけど……」

「唯人くんって鈍感な上にやたら強いから、そもそも襲われたことにすら気づいていなさそうじゃない?」


 そう言われると、秤も納得してしまう。

 唯人なら襲われても一瞬で鎮圧。ただのおかしな人に絡まれたと自己完結していそうだ。


「しかし、これで話がシンプルになったな」

「どうしてですか?」


 レイヤはグッと体を伸ばした。

 背中からこきりと音が鳴る。


「唯人の実力は相手にとって脅威になるらしい。唯人と合流できれば、俺たちと俺の舎弟を合わせて戦力は十分だ。敵をぶっ潰しに行けるだろ?」

「確かに勝てそうな気がするね。じゃあ、とりあえずの目標は唯人くんとの合流かな?」

「ああ、外に出てる奴に接触してもらう。お前らの声を聞かせれば、信じてきてくれるだろ」

「やっとゴールが見えてきましたね」


 三人の間に明るい空気が流れた。 

 桐華は気が抜けるように、息を吐いた。


「ふぁー、それにしてもずっと部屋に居るから気が滅入るなぁ」

「まぁ、空気を吸うくらいなら大丈夫だろ。この辺は人通りも少ないからな。外に出ても良いぜ」

「やった! 秤ちゃんも行こうよ」

「分かりました」


 桐華は秤の手を引いて立ち上がった。

 ルンルンとドアノブに手をかける。


「ドアから出て右側に出口がある。詳しいことは外に居る奴に聞いてくれ」

「りょーかい!」


 ガチャリ。

 二人が部屋から出ると、そこは大きな倉庫のような場所だ。

 今まで二人が入っていたのは、屋内に建てられたプレハブ小屋。


「どうされましたか?」

「うぉ、びっくりした……」


 ドアのすぐ隣には、スキンヘッドの大柄な男。

 男は鋭い目つきで秤たちを見た。


「ちょっと、外に出たいんだけど?」

「……分かりました。付いて来てください」


 スキンヘッドに連れられて、秤たちは倉庫を進む。

 倉庫には物が置かれているわけでもなく、ガランとしていた。

 しかし不良たちがまばらに座っている。椅子なんて無いため、いわゆるヤンキー座りだ。


 鋭い目つきで秤たちを睨んでいる。

 しかし、近くを通ると『ッス』と挨拶をしてきた。敵対的な意思があるわけではないらしい。

 じゃあ、なんで睨むのだろうか。


 倉庫の壁際に向かうと、そこには大きなシャッターが閉じられていた。

 スキンヘッドはその横についた、小さな扉に近づく。

 普通のドアノブではなく、レバーのようなものが付いていた。

 ガッチャン!! ギギィィ!!

 スキンヘッドがレバーを動かすと、重苦しい音と共に扉が開いた。


「どうぞ」


 スキンヘッドは扉を開くと、二人に道を譲った。

 軽く会釈をしながら、二人は外に出る。


「うわぁ!! 海だぁぁぁぁ!!」


 すぐ外には大きな海が広がっていた。

 遠くには大きな港も見える。

 しかし、そちらに比べると秤たちがいる場所は寂れて見えた。


「港湾倉庫でしょうか?」


 あたりを見ると、ずらりと倉庫が並んでいた。

 しかし、なんだか古臭い。なんとも年季を感じる。


「なんとも物悲しい雰囲気ですが……」

「なにか理由があって使わなくなっちゃったのかもね。レイヤちゃん達が使ってるくらいだし」


 海からは夕日が覗いている。

 赤く照らされた倉庫たちは、儚げに佇んでいた。


「あ、お前ら目が覚めたん?」

「うわぁ、やっぱ可愛いわぁ」


 そんな雰囲気をぶち壊す影が二つ。

 秤が眉を寄せて目を向けると。


「あ、唯人くんにぶん投げられてたナンパ男たちだ!」


 そこに居たのは、秤たちがゲームコーナーで遊んでいた時に声をかけてきた不良たち。

 まさか彼らもレイヤの舎弟だったのだろうか。


「この間の奴は、今日は居ないんだろ?」

「なぁ、向こうの影で俺らと遊ばねぇ? ちょっと気分転換しようぜ!」


 こんな状況でも、彼らはナンパを仕掛けてきたらしい。

 なんとも空気の読めない人たちである。

 秤は不良たちを睨みつけた。


「嫌で――」

「うぇ?」


 言い終わるよりも前に、不良たちの頭に大きな手が乗せられた。

 いつの間にか、不良たちの後ろにはスキンヘッドが立っていた。


「レイヤ様が迎えた客人に無礼を働くな」


 地の底から響くような低い声。

 スキンヘッドは不良たちを頭を掴んで、ぶん投げた。

 バシャン!!

 そのまま海に不法投棄。

 不良たちはわぷわぷと慌てていた。


「女遊びなら他所でやれ。お前らは破門だ」


 スキンヘッドはドシドシと扉のすぐ横に戻った。

 そして腕を組んで仁王立ち。

 ジッと遠くを見つめていた。


「レイヤさんの舎弟……キャラが濃いなぁ」

「忠誠心も高そうですね……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る