第48話 生体認証

「こ、ここがアジトのはずです……」


 唯人たちが荒井に案内されてきたのは、なんの変哲もないビル。

 ここに反社組織が反社組織のアジトらしい。

 陽菜が怪訝そうにビルを見ていた。


「え、なんか普通のビルだんだけど……本当に犯罪に手を染めるようなヤバい人たちが利用してるの?」

「うん。どこもこんな物だと思うよ。まさか『悪いことやってます!』なんて主張しないからね」


 唯人が喋るたびに、荒井がビクついていた。

 なんだかいじめをしているみたいで気分が悪い。

 つい脅してしまったのも悪いのだが……。


「それじゃあ、中に入ろうか」

「え、正面から入るのか?」

「そうだけど?」


 唯人が首をかしげると、荒井は顔を青くしていた。


「お、俺は外で待ってても良いか?」

「言いわけ無いでしょ。さっさと入りなさい」

「いてっ!」


 陽菜に足を蹴られる荒井。

 しぶしぶと唯人の背中についてくる。


 ガラス戸を開けると、すぐに階段が有った。

 そこを上っていくと二階に扉。

 がちゃりと開くと、そこは事務所のようになっていた。


 中には数人の男たち。

 例外は無く柄が悪い。

 一人の男はチラリと唯人を見ると、飛び上がった。


「て、テメェ⁉ なんでここに⁉」


 唯人の背中に隠れていた荒井が顔を出した。

 荒井を見た男は、顔を赤くする。

 ぴくぴくと眉を動かしていた。


「荒井、テメェ……裏切りやがったな!!」

「ひ、ひぃ……せ、先輩すいません。唯人に脅されて……」

「後で指詰めさせるから覚悟しとけや」


 荒井は顔を真っ青にする。

 そんな未来は来ないので、安心して欲しい。


「まぁ良い。先にこのガキを躾けてからだ」


 男たちはゴキゴキと指やら肩を鳴らしながら立ち上がる。

 近くに置いてあった武器を唯人に向かって構えた。

 荒井から先輩と呼ばれた男は、ボキボキと拳を鳴らす。

 ズンズンと肩で風を切って唯人に近づいて来た。


「荒井の雑魚を脅して調子に乗ってるみたいだが……俺は荒いほど弱くねぇぞ!!」


 先輩が吠えた瞬間。

 他の男たちがバタバタと倒れた。


「――は?」


 男たちは白目を向いて気絶している。

 顔に浮き出ているのは苦悶の表情。

 まるで拷問を受けて気絶したような有様だ。


「な、なんで……」

「安心してください。痛くて気絶してるだけですから」

「は――うがァァァァァ!!!?」


 先輩は腹を抑えて倒れ込んだ。

 まるで腹を切られたように、悶えている。


「事務所にはこれしか残っていないみたいですけど……全体の構成員は何人ですか?」

「なんでそんなこと教えなきゃ――ふぐゥゥゥゥゥ!!!?」


 先輩は足の付け根を抑える。

 だらだらと汗と鼻水が凄い。だが、涙を流してないあたり荒井よりは根性があるらしい。

 先輩は痛みをこらえるように、ニヤニヤと笑った。


「こ、こっちは裏社会で生きてんだ。これぐらいの痛みは慣れてんだよ!! どんな手品使ってるのか知らねぇが、テメェは人を切る覚悟がねぇんだろ? いくらでも耐えてやるよ!!」


 そう言われると困ってしまう。

 唯人は拷問の専門家じゃない。効率的に口を割らせる方法なんて知らない。


「スマホを見れば良いんじゃない?」


 陽菜が事務所の中に入って来た。

 そしてテーブルに置いてあるスマホを手に取ると、近くに倒れている男に画面を向けた。


「生体認証って簡単だけど、本人が居れば簡単に解除できるのは考え物よね」

「な、スマホを見るのはズルだろうが!!」

「犯罪者がズルとか面白い冗談ね」


 陽菜は冷たく言い放ち、スマホを操作。

 スマホは個人情報の塊だ。

 ある程度のことは簡単に分かってしまうだろう。


「滝沢商会……これがこの組織の名前みたいね。へー、反社組織でもSNSでグループトークするんだ。グループに参加している人数からすると百五人は居るみたいね」

「て、テメェ!! それ以上、スマホ見るの止めろ!!」


 先輩の焦っている様子からすると、情報は合っているらしい。


(百五人のグループトークって凄いなぁ。俺が入った最大人数は三人くらいまでだ……もしかして、ウチのクラスにもグループトークがあるんだろうか。いやいや、考えないようにしよう)


 ハブられてたら悲しくなる。

 無い物として考えよう。

 唯人は現実から全力で目を背けた。


「――ッ!! ちょっと、このトークの情報は本当なの⁉」


 陽菜はスマホをいじっていた手を止めると、画面を見せてきた。

 そこにはグループトークの画面。

 地図アプリによって場所が示されていた。


 そしてその直前のトークには、こう書かれていた。


『女たちの居場所を特定した』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る