第17話 シューティング!

 その後、唯人たちはゲームセンターに寄ることにした。

 桐華の提案によってだ。


「騒がしいですね。ちょっと頭がくらくらしてきます……」


 秤が顔をしかめていた。

 たしかに、ゲームの音量が凄い。

 唯人の小さい声がかき消されてしまいそうなほどだ。


「賑やかで良くない?」

「私はちょっと苦手です。桐華さんは良く来るんですか?」

「友だちと遊びに来ることはあるかなぁ。クレーンゲームとか!」


 しかし、今回の目的はクレーンゲームではないらしい。

 横を通り過ぎていく。

 向かった先には。


「シューティングゲームやらない? 女子の友だちは付き合ってくれないんだよねぇ」

「これは……襲ってくる恐竜を銃で撃つのですか?」


 恐竜と戦うガンシューティングゲーム。


(友だちとゲーム!!)


 内心で喜ぶ唯人。

 唯人はリアルではもちろん、ネットでも陰キャを発動していた。

 そのため、協力ゲームもやったことが無い。

 友だちとゲームをするのは、憧れの一つだった。


「桐華さんは、ゲームをよくやるんですか?」

「協力ゲームとか、対戦ゲームはやるほうだよ。もちろんFPSもね! 唯人くんは?」

「対戦ゲームはやらないかなぁ。だいたい一人用ばっかり」

「性能良いパソコン持ってたよね? 今度『バーテックス』やろうよ」


 バーテックスは流行りのバトルロワイヤルFPSだ。

 VTuberの人がやっているのを、唯人も見たことがある。


「分かった。ダウンロードしとく」

「やった、約束だよ?」


 唯人としては対戦ゲームはちょっと怖い。

 しかし、桐華と一緒ならなんとかなるだろう。


「ちゃんと勉強もしないと駄目ですよ?」

「はい……」


 ぴしゃりと秤に注意されてしまった。

 成績を落とさないように気を付けなければ。


「まぁまぁ、今はゲームを楽しもう!」


 ちゃりん。

 桐華が筐体にコインを入れた。

 二人プレイで二百円だ。


「それじゃあ、唯人くんのお手並みを拝見しましょうか」

「あんまり期待しないでね?」


 さっそくゲームが始まった。

 魔法も使われた最新ゲーム。

 画面からは本物と感じるような恐竜が飛す。

 唯人と桐華は、襲い掛かる恐竜を撃ちぬいていく。


「……あ、あれー? なんか唯人くん上手くない?」

「まぁ、なんとか見えてるかな」


 唯人はガンシューティングは範囲外。

 しかしS級探索者。そこらの人とは動体視力が違う。

 身体スペックによるごり押しが可能だった。


「うわ、ごめん。やられちゃったー」


 しかし、ゲームだって一筋縄ではいかない。

 リロード時間の隙に攻撃されてしまう。


「秤ちゃん。交代!」

「え、私もやるんですか?」


 桐華は追加の百円を投入。

 コントローラーを秤に渡した。


「ほら、じゃんじゃん撃ちぬいて!」

「わ、分かりました」

 

 続けて挑戦するのは、秤と唯人ペア。

 ゲームに慣れていない秤が足を引っ張るかと思われたが。


「秤ちゃんも上手い⁉」

「これ、魔法の練習に良いかもしれませんね」


 秤は魔法を使った遠距離戦を得意としている。

 その戦い方を応用できているらしい。

 リロードの使い方も上手く。唯人の隙を埋めるようにサポートしている。

 唯人と秤は順調にステージを攻略していき――。


「クリアしちゃったよ……秤ちゃん、プロゲーマーとか向いてるんじゃない?」

「ノートパソコンしか持っていないので無理ですね」

(そういう問題なんだ……)


 ゲームは無事にクリア。

 唯人たちはコントローラーを戻すと、ワイワイと語り合っていた。

 

 そこに、邪魔ものが入って来る。


「お姉ちゃんたち可愛いねぇ」

「俺たちと遊ばない?」


 声をかけてきたのは二人の男。

 ちゃらちゃらした見た目からして不良っぽい。

 どうやら桐華たちを目当てに声をかけてきたらしい。


「残念だけど、男の子なら間に合ってるよ?」

「な、なんで腕を絡めるの?」


 桐華が甘えるように腕を絡めてきた。

 まるで恋人ムーブだ。


 唯人はドキリとしてしまう。

 陰キャの心臓は弱いのだから止めて欲しい。

 危うく心臓が破裂して死ぬところだった。


「両手に花とは良いご身分だなぁ。兄ちゃん?」

「あ、あはは……」


 不良が唯人にメンチを切って来る。

 そんなに見つめられても苦笑いしか出せない。


「相手は選んだ方が良いですよ。唯人さんはトラックだって分断できるんです。あなた達ではかないません」

「はぁ? トラックってSNSで話題になってたやつかよ。あんなの本気で信じてるわけ?」


 不良は小馬鹿にしたようにニヤついている。

 それと反対に目を見開いたのが桐華だ。


「え⁉ SNSで話題になってたやつ、唯人くんがやったの?」

「はい。私と初めて会ったときの話です」

(なにSNSって、その話を知らないんだけど……)


 困惑する唯人。

 SNSで有名人になっているとは思いもしなかった、哀れな男である。


 しかし、唯人を無視して話は進んで行く。


「じゃあ、俺のことも切ってみろや!!」

(短気すぎない!?)


 無視されたのを怒った不良。

 唯人に向かって拳を振り上げた。


 次の瞬間。

 不良はグルリと回転すると、投げ出されてしまう。

 唯人が拳を受け流して、投げ飛ばしたのだ。


「ぶべぁ!? な、なんだコイツ⁉」

「唯人くん、やるねぇ」


 さらに、それだけでは終わらなかった。

 カラン。コロコロコロ。

 不良から何かが落ちて床を転がった。


「お、おい。お前の指輪……全部切れてるぞ!?」

「え……嘘だろ⁉」


 投げ飛ばした時に、唯人が手刀で切り裂いた。

 切ってみろと言われたので、切っておいた。


「それは、凄すぎてちょっと引くかも……」

「そうですか? 私は尊敬します」

「尊敬はできるよ。でも凄すぎると『えぇ……?』って困惑するじゃん?」


 のんびりと話し合う秤と桐華。

 一方で不良たちは焦りだした。


「こ、コイツもしかして本物なんじゃあ……」

「に、逃げるぞ!! 俺らまで切られちまう!!」

「せっかく夜流愚零武ヤルングレイブ に入れたのに、こんな所で死んでられるか……!」


 不良たちは化け物のように唯人を見ると、ずっこけそうになりながら走り去って行った。


(なんか、S級の時を思い出した……)


 前はいつもあんな目で見られていた。

 ちょっと嫌な思い出だ。

 少し暗くなっていた唯人の背中を、桐華にバシンと叩かれた。


「唯人くんお疲れ! フードコートで何か奢ってあげよう!」

「あっ……じゃあクレープで」

「唯人さんは何クレープが好きですか?」

「いちごかなぁ……」

「意外と乙女チックなのが好きなんだね!」


 そうして、唯人たちはフードコートで買い食いをしながら帰路についた。

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