第18話 恋バナ?

 どこまでも広がる青い海。


 その上空の景色が歪んだ。

 まるで小顔にするために画像を加工するように、ぐにゃりと変形していく。

 やがてそこに開いたのは、真っ黒な穴。


 ゴゴゴゴゴ!!

 その穴から、巨大な生き物が這い出て来る。

 まるで鎧を着こんだ巨大なサイ。

 そいつは穴から飛び出すと、海面に巨大な波を作り出しながら着水した。


(……何度も見た映像だから暇)


 見慣れた教室。

 現在は歴史の授業中だ。


 担当の先生は、ぼさぼさ髪とコーヒーの匂いが特徴だ。

 現在は就寝中。

 椅子に座って静かに目を閉じている。


 代わりに授業をしているのは、スクリーンに投影された映像。


『これは巨獣が出現する様子を捉えた貴重な映像です。巨獣はその体内に、異なる空間を展開しています。それは皆さまもご存知のダンジョンです――』


 映像から流れる穏やかな女性の声。

 それを聞いていると、唯人もだんだんと眠くなってくる。

 重くなったまぶたが、地球に引き寄せられて落ちて来る。


(ダメだダメだ!! 授業中に寝てることがバレたら、秤さんに怒られてしまう!)


 唯人はぶんぶんと頭を振って、眠気を払った。


 先日、現代文の授業中にウトウトしていた。

 なぜか、それが秤に伝わり、ちくりと怒られてしまったのだ。

 勉強を教えてもらっている身分としても、寝るわけにはいかない。


『巨獣たちは出現、休眠、消失のサイクルを繰り返しています。休眠期に、我々人類はダンジョンを探索し、そこから多様な資源を採取することで――』


 唯人はなんとか目を開きながら、映像が終わるまでを耐えた。


 映像が終わったら、内容をまとめる。

 タブレットのノートアプリを使って書き込み、そのデータを提出する形だ。


 それも終わったら、あとは自由時間。

 生徒たちが雑談に花を咲かせても、先生は気にした様子もない。

 授業終了の十分前には、生徒たちはそれぞれの時間を過ごしていた。


 おしゃべりをしている生徒が多いが、唯人には友だちが居ない。

 仕方がないので本でも読もう。

 唯人がカバンに手を伸ばそうとすると。


「なぁなぁ、秋月ってさ桐華さんや秤さんと仲良いの?」


 隣の席の男子が話しかけてきた。

 名前は佐藤だったはず。

 特別目立つ人では無いが、唯人のようなぼっちでもない。


 突然の声掛けに、唯人は動揺を隠せない。


「え、あ、えっと、なんでですか?」

「昨日、デパートに居たの見たから」

「あぁ。えっと、いちおう友だちです」

「うわぁー。めっちゃ羨ましいー」

(凄い。クラスメイトと雑談が出来てる!!)


 棚からぼたもち。棚ぼただ。

 突然の幸運に唯人は歓喜する。

 もしかしたら、このまま友だちになれるかもしれない。


「ぶっちゃけ、どっちがタイプ?」

「うぇ!? た、たいぷ?」

「秤さんのほうは、気が強い美人だよな。モデル体型でスタイルが良い。クールビューティーって感じがたまんないよなぁ」

「くーるびゅーてぃー……」


 唯人目線だと、手作りのお菓子を作ってきたり、勉強を熱心に教えてくれたりと、『面倒見の良いお姉さん』感が強かった。


「桐華さんの方は、誰にでも優しくて可愛い系だよな。気遣いもできるから、お姉さんって感じがするわ。あと、おっぱいがデカい」

「あ、はい」


 胸の大きさにはノーコメント。

 唯人目線だと、桐華は『子供っぽくて明るい人』なイメージだ。

 いつも唯人を引っ張って、楽しいほうに連れて行こうとしてくれる。


「ほら、どっちがタイプなん?」

「いや、友だちで居てくれるだけで十分と言うか……」


 むしろ、下手に恋愛関係に流れそうになって、友人を失う方が唯人は怖かった。


「えぇ? もったいねぇー。秋月だって彼女とか作りたいだろ?」

「うーん……俺には無理かなぁ」


 そもそも、友人と呼べる人が二人しかいない唯人。

 彼女だなんだと言っていられるほど、人間関係が広くない。 


「おいおい、高校生活は一度キリだぜ? もうちょっと夢見ようや」


 唯人は二度目なのだが……佐藤の言うことも一理ある。


(やっぱり、青春と言えば恋愛も大事なのか?)


 そんなことを考えると同時に、終了のチャイムが響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る