第4話 挑戦
入学式は問題なく終わった。
しかし、唯人は知っている。
むしろ、ここからが本番だ。
式が終わり、新入生たちは教師に案内されるまま移動する。
入学式のプログラムには書いていない動きだ。
どこに連れていかれるのか。新入生たちが騒いでいる。
連れていかれた先は広い競技場。
黎明学園の設備の一つだ。
そこにはいくつものステージが設置されていた。
さらに、中央付近には人影が見える。
新入生たちが人影に近づくと、ざわめきが広がった。
「ウソ!? A級探索者の
「他にも有名な探索者たちが並んでるぞ!?」
「え、やば!? 握手してくんねぇかな」
人影の正体はA級探索者たち。
A級探索者の人気は凄い。
プロゲーマーやスポーツ選手のような扱いだ。
実際、企業に雇われてロゴを背負って活動したり、武具の宣伝をする人も多い。
もちろん、ネット活動やテレビ出演も盛んなため、まさに有名人なのだ。
ちなみにS級にそんな依頼は来ない。むしろ会社のイメージが悪くなるらしい。
そして新入生たちに最も注目されているのが『
端的に言えば、金髪イケメン魔法剣士。
22歳という若さでA級探索者まで上り詰めた天才。
しかも性格が良くて努力家。非の打ち所がない。
もちろん未来でも大人気。間違いなく、これからの探索者業界を引っ張ってく一人だ。
ちなみに、A級探索者を呼ぶとなると普通にお金がかかる。
なにせテレビにも引っ張りだこ。本人たちが配信をすれば結構な額の投げ銭が飛ぶ。
普通なら人気のタレントを呼ぶくらいにはお金を払わないと来てくれないだろう。
なぜ彼らが来ているかと言えば……。
「新入生の皆さん。入学おめでとうございます。いきなりですが、皆さんには僕たちと模擬戦をしてもらいます」
そう、これから彼らと模擬戦をするのだ。
一騎打ちではない。
だいたい、三十人の新入生と一人のA級探索者が戦うことになる。
それでも勝てるものではないが。
「ご存知の人もいるかもしれませんが、僕たちはこの『黎明高校』の卒業生です。遠慮をせず、全力でかかって来てください」
甘井の挨拶が終わると、新入生たちは教師に誘導される。
ステージの横には、訓練用の武器が置かれていた。
メカメカしい武器であり、起動すると斥力が発生して相手を叩くことなく吹っ飛ばすことが出来る。
さまざまな種類の武器から、唯人は刀を見つけて取り出した。
他の生徒たちも自分に合った得物を取ると、ステージに上がっていく。
唯人たちを案内した教師が、詳しい説明をしてくれる。
「ステージから落ちたら失格だ。活躍した生徒には、いろいろとご褒美もある。ぜひ頑張ってくれ」
そして教師と入れ割るように、ステージに甘井が上がった。
「君たちの相手は僕だ。よろしくね」
唯人たちの相手は、甘井だった。
周囲の生徒たちからは喜びの声があふれる。
やはり一番人気らしい。
「それじゃあ……始めようか!」
ピー!!
始まりのホイッスルが鳴り響いた。
それと同時に甘井が地を蹴る。
生徒たちに肉薄すると、剣を振りぬいた。
それだけで突風が吹き荒れ、数人の生徒たちが吹き飛ばされる。
その様子を見ながら、唯人は思考を働かせた。
(さて、どうやって自然に負けるか……)
唯人はどうやって負けるべきか考えていた。
そもそも、唯人はここまでの流れをすべて知っている。
前回でも同じことがあったのだから。
ちなみに、前回は普通に勝った。
しかしその結果、周りの人から距離を取られてしまった。
唯人は基本的に無表情。
なにを考えているか分からなくて、力のある存在。
怖がられてしまったのだろう。
同じ失敗は繰り返さない。
ここは素直に負けておくのが正解だ。
(あんまり下手な芝居をすると、甘井さんに気づかれるかも……あの人、手加減すると怒るんだよなぁ)
甘井とは何度か模擬戦をしたことがある。
結果は全戦全勝。十回から先は数えていないので、正確な数は分からない。
たまには甘井を勝たせて花を持たせてあげよう。そう思って手加減をしたら、気づかれて普通に怒られたこともある。
今回は気づかれないように負けたい。
そんなことを唯人は考えていたのだが。
ブオン!!
唯人の眼先に切っ先が迫っていた。
気づけば甘井が剣を振るっていた。考え事をしていて気づいていなかった。
とっさに唯人は刀で剣をいなす。
(あ、間違えた……)
ここで倒されておけば終わったものの……うっかり流してしまった。
その瞬間、甘井の目つきが変わった。
『学生たちの相手をする優しいお兄さん』から『格上に挑む挑戦者』の目に切り替わる。
(え、今のでバレるの!? 甘井さん鋭すぎ……)
ゴゥゥ!!
突風が吹き荒れた。空気が甘井の剣に集中する。
そのまま剣を振りぬくと共に、圧縮した空気を解き放つ甘井の得意技だ。
そんな大げさな技で倒されたら、唯人は嫌でも目立ってしまう。
(ま、まぁ、甘井さんも学生相手に怒らないだろ……)
こうなったら、甘井に実力が知れるのは仕方がない。
それ以外にはバレないように動こう。
カチン。
唯人が刀をしまうと共に、甘井の剣が振りぬかれた。
しかし、空気の爆発は起こらない。
ただ振りぬかれた剣によって、唯人が吹き飛ばされる。
「なっ!?」
甘井の目が見開いた。
自分の技が、なぜか不発に終わったのだ。
理由が分からず困惑している。
(今回は甘井さんが切る前に風を拡散させたけど。たぶん、後で種は割れるだろうなぁ。一回だけの手品みたいな技だし、次は通用しないかな)
はたから見れば、ただ切られただけ。
唯人は無事に場外に落ちて失格となった。
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