第3話 席強奪女

 桜の花びらが舞う。

 唯人が通う『黎明学園』。その校庭の隅に桜が植えられていた。

 ぽかぽかとした陽気に誘われて、キレイな花を咲かせてくれている。


(懐かしいなぁ。前回の入学式のときもキレイに咲いてくれてたよなぁ……)


 今日は入学式。

 唯人もピカピカの制服に身を包んでいる。


 周りに居るのも、同じ新入生たち。

 彼らと学校生活を送るのだ。

 そう考えると、自然と背筋が伸びる。

 彼らに嫌われるような行動をしないよう気を付けなければ。


 新入生の流れに乗って、唯人は校門をくぐる。

 そのまま先生の案内に従い、大きな講義室へと案内された。

 ちょっとしたコンサートを開けそうなほど広い。 

 椅子もふかふかで座り心地が良い。


 唯人はチラリと周りを見渡す。

 やはり二週目。知っている顔も多い。


 友だちではない。

 単純に相手が有名人だから知っている。いわゆるカースト上位の生徒たちだ。

 もっとも、カースト上位の生徒と仲良くなるのは難しい。

 だって、あんな陽キャオーラに当てられると、唯人は溶けて死んでしまうから。


(あれ、あの人は……)


 周囲の顔ぶれを見渡していると、直近で知り合った人が居た。

 暴走トラックの時の女子高生だ。


 あの後。すぐに警察が到着。

 運転手は逮捕。男の子は警察が保護。女子高生は軽い調書を取って解放。

 唯人はトラックを切ったこともあって、警察署に連れていかれて細かい事情聴取。

 逮捕ではないが、細かい話を取っておきたいと言われた。

 その場で女子高生とは別れたため、彼女の名前も聞いていない。


(まさか、同じ学校だったのか……あんな人居たかなぁ?)


 その女子高生は美人さんだ。

 いくら短い高校生活だったとは言え、もう少し印象に残っていそうなものである。

 しかし、唯人はまったく覚えていない。


(もしかして、事故が原因で!?)


 ドキリ。心臓が高鳴る。

 前回ではトラックに轢かれて亡くなっていたのではないか。

 そんな想像が頭をよぎった。


(入学前に亡くなったら学校側は知らせないのか?)


 普通、在校生が死亡したら、生徒たちに報告して全校生徒で黙とうをささげる。

 ……ような気がする。

 なにかのフィクションで、そんなシーンを見た。

 しかし前回では、そんな出来事はなかった。

 入学前の死亡だから、やらなかったのかもしれない。


(それでも、噂になってるはずだよな。そんな噂聞かな――あ、俺はぼっちだから噂話を教えてくれるような友だちが居ないんだった……)


 入学生の死亡というショッキングな話題。

 どこかで話が漏れて噂話になりそうなものだ。

 しかし唯人の耳にそんな噂は届かなかった。

 なぜなら、そもそも友だちが居ないので噂を聞けないから。


(まぁ理由はどうあれ、前回は高校に通えていなかったんだろうから。今回こそ学校生活を楽しんで欲しいな)


 いろいろな可能性が考えられるが、今から確認する手段なんてない。

 元気そうで良かった。今度は高校生活を楽しんで欲しい。そう唯人は受け入れた。


「それでは、入学式を始めます」


 なんてことを考えていると、入学式が始まる。

 しばらくは退屈な時間が流れた。

 学校関係者からの祝辞などが進んで行く。

 どうして、偉い人の話は長くてつまらないのだろうか。

 ぼんやりと壇上を眺めていると、『新入生の挨拶』が始まった。


(あ! あの人のことは憶えてる……)


 壇上に上がったのは亜麻色の髪の少女。

 黎明学園の新入生挨拶は、入学試験で主席だった人が勤める。

 つまり、彼女がもっとも良い点数でテストを合格したのだ。


 彼女の名前は『神宮寺桐華じんぐうじきりか』。

 成績優秀。容姿端麗。両親が有名な探索者でお金持ち。しかも性格まで良い。

 交友関係も広い『トップオブリア充』だ。


 そして、唯人もよく覚えている。

 なぜなら。


(席強奪女め……今回こそ俺の席を奪わせないぞ……!)


 桐華は昼休みのたびに唯人の席を奪ったのだ。

 違うクラスなのに。

 どれだけ席替えをして、誰と近くの席になろうとも。

 必ず唯人の席に座って、近くの生徒と昼ご飯を食べていた。

 

 おかげで、唯人は昼休憩を自席で過ごせなかった。

 いつも物置みたいになっている場所でお昼を食べていたのだ。

 

 まぁ、そこはそこで気に入っていたのだが。

 ちょっと狭くて影になっている場所が落ち着く。

 そんなカビみたいな性質の唯人だった。


 そして唯人が恨みのこもった瞳で見つめようとも、桐華は気づかない。

 入学式は問題なく進んで行った。

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