第25話 合コン

 登校して朝のホームルームが始まるまでの時間。

 唯人は本を読んで過ごしている。

 のんびりと読書時間を楽しんでいると、なにやら隣が騒がしかった。


「え、うっそ予定が入った⁉ ……うわぁ、それは災難だわ」


 佐藤がスマホを耳に当てて話している。

 なにかトラブルがあったようだ。


「分かった。今度メシ奢ってくれればそれで良いわ。はい、了解……はぁぁぁ……」


 佐藤はがっくりと肩を落とす。

 唯人は気になって、つい声をかけた。


「……どうかしたの?」

「唯人ぉ。聞いてくれよぉー」


 佐藤は情けない声をあげた。


「明日って祝日だろ。合コンみたいなのを企画したんだけどさぁ。誘った奴が一人これなくなったんだよ……」

「ご、合コン……」


 軽い気持ちで聞いてみたら、まるで別世界の話題を振られた。

 ヴォイニッチ手稿よりも異世界を感じる。


「しかも顔が良い奴だからさぁ。アイツが来れないってなると、向こうの女の子も来なくなるかも……」

「あぁ、このまま流れちゃうかもしれないんだ?」

「そうなんだよぉ!! せっかく、狙ってた子と約束取りつけたのにさぁ……」


 佐藤は深くため息を吐いた。

 唯人も困っているなら力になろうと思ったが、これはどうしようもない。


 なにせ唯人は陰キャ。

 合コンなんて別銀河の話だ。

 地球どころか国からも出られないような状態で、別銀河を救えと言われても無理である。


 ただまぁ、それはそれとして、力になりたい意思は伝えておこう。


「そっか……残念だったね。俺に手伝えることがあったら、なんでも言ってよ。たぶん何もないけど……」

「おう、ありが――今、なんでもって言ったか?」

「言ったけど……」

「それだ!!」


 佐藤はパチンと指を鳴らすと、唯人を指さした。


「唯人が合コンに出てくれ!!」

「えぇ!? いやいや、無理無理無理無理!!」


 唯人はぶんぶんと首を振るった。

 新種のヘッドバンギングみたいだ。


 普段なら嫌と言えない唯人だが、いくらなんでも合コンはハードルが高すぎた。

 ハードルと言うか、もう棒高跳び。

 世界新記録を狙いに行かなくてはならないレベル。


「頼むよ!! 唯人も顔は良いからさぁ。向こうの女の子たちも納得しくれると思うんだ!」

「俺なんかが出たってなにも変わらないって、もっとカッコいい人を探しなよ!!」

「大丈夫だ自信を持て!! 顔だけならトップカーストどもにも負けてないから!!」


 佐藤はガシッと唯人の肩を掴む。

 そして深々と頭を下げた。


「唯人じゃなきゃダメなんだ!! 友人の頼みだと思って聞いてくれ!!」

「ゆ、友人……!」


 知らない間に友人がまた一人増えていた。

 そして友人の頼みとなると断れない。

 勇気を出して、棒高跳びを跳んでみることにする。


「わ、分かった。行くよ……」

「ありがとう!! 連絡先交換してなかったよな! LION交換しとこう」


 そうして、佐藤とSNSの連絡先を交換。

 なぜか合コンに行くことになってしまったのだった。

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