第24話 目指す場所
「ありがどうぅぅぅぅ!!!!」
「うわぁ!? だ、抱きつかないでください!!」
べちゃり。
ユーリが唯人に抱きついてきた。
下着姿なのだが、粘液まみれ。
桐華に手を繋がれていたこともあって、避けられない。
べちゃべちゃした不快な感触が伝わってくる。
「って!? ふ、服が溶けてる……」
「あ、すまない……弁償するから……」
服を溶かす作用が残っていたらしい。
最後の最後に服を溶かすスライムの犠牲者が増えてしまった。
『なんでユイトなんだよ⁉』
『災難だったね……』
『せっかくだから高いの買ってもらおうwww』
「べちゃべちゃする……」
唯人はダメージジーンズみたいに穴だらけになった上着を脱ぐ。
シャツまでべとべとが侵食している。
軽く水切りしようと脱いだのだが。
「おぉ、やるねぇ……」
「ゆ、唯人さん!! いきなり脱がないでください!」
桐華は感心したように頷く。
秤は恥ずかしそうに目を逸らしていた。
「あ、ごめん」
不快なものを見せてしまった。
唯人は慌てて水切りをして、シャツを着なおす。
『腹筋凄かった……敗北感……』
『細マッチョじゃったか……』
『私は嫌いじゃないよ!』
「ともかく、スライムから助けてくれてありがとう。君たちには感謝してるよ」
ユーリはスッと立ち上がり、カッコつけ始めた。
まだ顔は涙や粘液でぐしゃぐしゃだが。
「ぜひお礼をさせて欲しい! なんでも言ってくれ」
「なんでも、かぁー」
「桐華さん、常識的なお願いにしなくてはダメですよ?」
「美少女の頼みなら、私は断らないけどね」
ユーリは唯人の方を向いた。
下着姿で目のやり場に困るので、こっちを向かないでほしかった。
「もちろん、青年も好きな願いを言ってくれ。なんなら、おっぱいでも揉んどくか?」
「いえ、大丈夫です……」
「そうかそうか、無い胸は揉めないか! なんだとこの野郎⁉」
「なんで急に怒るんですか⁉」
キレたユーリが迫って来る。
自分で言って、自分で怒りだすヤバい人だ。
「ちょっと、唯人くんにウザ絡みしないでください!」
「もうお礼は食事とかで良いですから!!」
桐華と秤が間に入り、なんとかその場は収まった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今日は大変だったねぇー」
帰りの飛行機の中。
桐華が呟いた。
その横顔は、どこか寂しそうだ。
「そうですね。唯人さんも寝てしまいました」
秤が隣を見ると、唯人が寝息を立てていた。
飛行機が街に戻るまで二十分ほど。
ゆっくりと休ませてあげよう。
「唯人くんの場合は、探索よりも人間関係で疲れてそうだけど……」
「主にユーリさんのせいです」
「あの人、ぜったい面白がって唯人くんに絡んでたよね……」
いろいろとトラブルはあったが、探索は無事に成功。
秤も良い経験を積めたと思っている。
しかし、一つ気がかりなことがあった。
「唯人さんの体、覚えてますか?」
「筋肉凄かったよね。私は好きな感じかも!」
「そっちじゃありません!」
秤は顔を赤くしながら否定する。
別に嫌いではないが、筋肉に特別な嗜好も働かない。
話したいのは別の事だ。
「唯人さん、傷だらけでした……」
唯人の体は傷だらけだった。
あちこちに生々しい跡が残っていた。
「たぶん修行とかで付いた傷じゃないかな」
「それだけ、たくさんの努力を積んできたんですよね……」
秤は隣を見る。
唯人はあどけない顔で眠っているが、辛いこともたくさんあったはずだ。
秤は唯人の頭を撫でた。
「唯人さんって私たちよりも強いですよね」
「うん。ずっと強いと思う。足元に届かないくらい」
その強さが羨ましい。
だが、それと同時に可哀そうだと、秤は思った。
強さは孤独を生む。
唯人が他人と一線を引いているのは、その強さが原因なのかもしれない。
そう考えると、秤の胸がきゅっとした。
「唯人さんに追いつけるくらい、強くなりたいです」
「そうだね。一緒に頑張ろう」
窓から見える夕焼け空が、どこまで遠く続いていた。
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